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高齢者の自立を支援するために介護者ができること

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ご高齢者や 認知症が進んだかたにも楽しんでいただける音楽会、「音楽の花束」を主催しておりますGOTOです。

加齢とともに誰もが向き合っていかざるを得ない「認知症」。ほかにも病気やケガを経験され、これからどうなってしまうのか、家族に迷惑をかけているのでは?など、不安を抱えた方がデイサービスに来所されます。その出会いの中で、まずは不安な気持ちに寄り添い、心をほぐし、ご自身の心から自立支援への活力を引き出すことが大切だと痛感しています。その「自発」を引き出すために、音楽は大きな起爆剤になれるのです。

今回は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の男性の例を書いてみます。

「泣けない」ことが一番の悩み

見た目はかくしゃくとした男性で、全身の症状はまだ多くは見られず自転車にも乗ることができます。しかしこのかたには球麻痺(舌、のどの筋肉が弱まる症状)が一番先に発症したようで、食事を摂ることと会話をすることが難しくなっておられます。食べ物の飲み込みに問題があり、誤嚥から窒息のリスクが大きくなっていますが、最も大きな不安は「会話」でした。

「日常の会話もできないため、妻とも筆談をしている。ちょっとしたことも伝えられなく、悲しい。」

これは最初に来所された際、PT(理学療法士)からのアセスメントに筆談で訴えたことです。さらに「一番の悩み」として、「泣けない」と書かれたそうです。

ALSでは筋力低下が進んでいくので、顔面も表情が乏しくなります。また、声を出しにくくなることと合わせて、感情表現ができにくくなる、そのことを「泣けない」という言葉に集約されたのでしょうか。不安や辛い気持ちを抱えていても、泣くことさえできないという悲痛な言葉です。

口腔体操について

GOTOは食事前の口腔体操を担当することがあります。

GOTOの口腔体操は、まず声楽を教えるときに行っている、「発声のための呼吸法」や「表情筋をほぐす運動」と高齢者向けの嚥下体操を組み合わせた、GOTO独自のウォーミングアップをします。

「よい声を出すためのトレーニング」は、「飲み込みのための筋トレ」とほとんど同じものです。目的を「嚥下」に絞りお伝えすると、しっかりとしたトレーニングを行うことができます。そのあと、「パタカラ体操(※)」と言われる、食べるための筋力トレーニング運動を、歌を使って行います。

パタカラ体操とは、「パ」「タ」「カ」「ラ」の4つの音を発することで、咀嚼(そしゃく)や食べ物を飲み込む嚥下(えんげ)の機能回復に役立つ口腔体操のこと。
参照元:ヘルスケア大学

いわゆる歌唱表現のためのトレーニングと違ってきますが、例えば声楽家が「言葉」を明確にするために、母音と子音を分けて行うトレーニングと方向性は似ています。舌や唇の動きをしっかりと意識しながら、リズミカルに歌詞を読んだり、歌ったりします。

ここで面白いのは、歌い継がれている名曲の中に、飽きずに発語を促す曲がたくさんあることです。歌詞が楽しく、語呂がよくてリズムが取りやすく、おなかの底から声を出したくなる明るい歌がいいなと思います。

GOTOがよく使うのは、「村祭」「隣組」「證誠寺の狸囃子」です。終わると皆さん笑顔になって、ご飯をおいしく召し上がっていただけるようになる、というイメージをもって実施しています。デイサービス「空の花 高井戸」の口腔ケア指導をお願いした下馬デンタルクリニックの脇濱由佳院長も、「歌って口腔ケア」を推奨しておられます。

口腔体操から広がる仲間との輪

男性の来所初日、このプログラムを実施しましたところ、非常に興味をもって参加されました。「声が出しにくい」「会話ができない」ということでしたが、なんと、この男性も「歌詞読み」に一緒に声を出されました。ほかの利用者さまがみな大きな声を出して参加されているので、「できる!」と思われたのかもしれません。

口腔内の筋肉のコントロールが難しい状態になっているためか、発音の区切りははっきりしませんが、しっかりと筋肉を動かし、大きな声を出されました。そのあと、リズムに乗りながら「読み」にも挑戦いただくため、手拍子を入れて読んでいくと、これも参加されました。

他の方に声が聞こえてしまう恥ずかしさや不安を軽減するために、賑やかしく手拍子というノイズを入れることで参加しやすくなったのだと思います。そのあと、同じく手拍子を打ち鳴らしながら全員で大げさに発音をしながら歌うトレーニングで締めくくりましたが、ここでも男性は大きな声でご一緒に歌われました。

口腔体操が終わって食事の時間になったことをお伝えした途端に、その男性はGOTOの肩に手をかけ、大きな声でむせび泣きながら「ありがとう、ありがとう」とおっしゃいました。

「泣けない」「話せない」と悩んでいた方が、ほんの30分の中で勇気を出して声を出し、正確な発音や音程ではないけれど皆さんと一緒に「できた!」という気持ちを持てた喜びが、大きな感動となって涙を呼んだのだと思いました。周囲の利用者さまで、もらい泣きをして喜んでくださる方が何人もおられました。

ひとりの、一時の感動だけでは、この先の苦しいリハビリを続ける原動力には弱すぎます。だんだん衰えていく筋力の状態に怯え、不安になる気持ちを救う力としては、一緒に歌った仲間とともに感動を分かち合う、このことは大きな力になります。

また、心がほどけた瞬間を見逃さずにスタッフたちが手を差し伸べ、正しい情報共有の上でコミュニケーションを取りながら、心身のリハビリに取り組んでいくことがさらに大きな力に繋がっていきます。

前向きなリハビリが実現!

声を出すきっかけができたあと、言語聴覚士の大沢良輔先生に、発声のためのリハビリプログラムを組んでいただきました。たびたび進行状態を見ながら加わるプログラムには、食事の摂り方や舌や喉に触れるなど、ご自身が前向きに取り組むことと、スタッフへの信頼がなければ難しいものもあります。その関係は歌を歌った日に、既にできていました。男性はすぐに非常に前向きにリハビリに取り組み始めることができました。

先日、このかたと久しぶりにお会いしてお話しする機会がありました。

「隣の人は食事の時間が10分。小生は40分、情けない。」

率直に伝えてくださったのが嬉しく、「隣の方も、来所当初は打ち解けず、大きな病気のあとで歩く動作もこんなにスムーズではなかったのです。リハビリを続ける中でだんだん身体的にも回復し、快活になってこられたのです」とお話しすると、「えっ!」と声を出して驚かれ、「とてもお元気でうらやましいと思っていました」と言われました。

「皆、お身体の悩みを抱えて来所され、一緒にリハビリをしている仲間です。私たちはそのリハビリを支えていくのが仕事。一朝一夕には成果は出ませんが、少しずつ一緒にやっていきましょう」というGOTOの言葉に、男性は「ALSの治療法がなかなか確立しない。発病してそれを知り、はじめはそれなら自分で直してやる!とこうした施設に来ることを考えなかった。『空の花』最高!」というメモで応えてくださいました。

さいごに

現在は男性のご家族にもリハビリの詳しい内容をお伝えし、デイとご家庭とでリハビリを継続して実施できるようにしています。周囲の方の理解と協力を実感することで、男性の不安な気持ちがかなり軽減されていると感じます。

音楽にできることはまだまだある。GOTOの模索は続きます。
次回もどうぞお付き合いください。

この記事を書いた人

後藤 京子(GOTO)

「音楽の花束」代表。星美学園短期大学講師。東京音楽大学卒、同大学第2副科オルガン専攻修了、邦楽演奏コース長唄三味線専攻修了。1986年日本ピアノコンクール全国大会第3位、受賞記念演奏会出演、1987年読売新人演奏会出演。NHK邦楽技能者育成会に学ぶ。短大西洋音楽史講師、小学校音楽科教諭を経て2004年より「音楽の花束」のプロデュース活動を始める。2015年きらめき認知症シスター(きらめき認知症トレーナー協会認定)取得。カトリック東京カテドラル関口教会オルガニスト。デイサービス「空の花 高井戸」取締役副社長。>>公式サイトへのリンクはこちら「音楽の花束」

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