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プロレスの想像力の余地を活かしたフランス産感動作『100歳の少年と12通の手紙』

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 欧米の脳天気なB級映画を主食とする身としては、号泣必至だの感動作だの、泣かすことを前提にしたような作品は質の悪い金稼ぎ目的のエクスプロイテーション映画と同義かそれ以下だと思っているし、特に子供が死ぬ映画は好きではない。
 そういった経緯から、プロレスをアクセントに使った作品として存在は知っていたものの、何となく観るのを避けていたのが『100歳の少年と12通の手紙』(2009)。

 白血病で余命12日間となった10歳の少年オスカーが、元女子プロレスラー・ローズとの交流を通して”人並みの生涯”を全うする様を描いた作品。こう書いただけで「泣かせてやるぜ」って感じですが、観終わったあとには色々考えさせられることに……

 余命幾ばくもない息子と向き合えない両親、よそよそしい看護師ら大人たちに不信感を抱くオスカーですが、病院に配達ピザの売り込みに来ていた(肝っ玉かあちゃん風味な)ローズの率直な物言いに興味を持ち、話し相手として指名。
 人と深く関わること(情を持つこと)を避けていたローズもオスカーの身の上を理解すると、余命とされる大晦日まで、1日に10歳の歳を取ったと捉え、毎日神様に手紙を書くことを勧めます(つまり12通の手紙)。

 そして”20代”になったオスカーは難病で入院するベギー・ブルーと名付けた少女に恋し、結婚(勿論、オスカーの考えの中で)。”30代”には入院する別の子供たちやローズを養子に。それ以降も夫婦危機などを乗り越えたりと”人並みの生涯”を味わうのです。

 その過程でオスカーが気落ちした時に、ローズが女子プロレスラー時代に闘ったライバル達とのエピソードを語り聞かせます。

 ただ、ここで語られるプロレスシーンは、本作のキーアイテムのひとつである「プロレスのリングが収められたスノードーム」を通して再現される形になっており、漫画的な表現とディズニーの古いアニメ作品などで聴くような効果音の演出に。
 ひと飛びで5mくらい飛び上がったりするほか、クジラのようなアイルランド女がロープで吊るされて貨物のごとくリングインしたり、ローズはその周囲を走り回った末に目を回らせ、一息吹きかけて倒す、といった感じ。

 ちなみにプロレスシーンのひとつでは、WWEで活躍したこともあるシルヴァン・グルニエが”くるみ割り人形”という名の王者のお付きの1人としてチラッと出演。濃いメイクのためどちらが彼なのか謎ですが、恐らく左側?

 さておいて、ローズの武勇伝はどれもオスカーを前向きにさせる内容で、オスカーも「プロレスは人生の教科書だね」と感嘆の声を上げるんですね。
試合のシーンはプロレス好きからすると漫画的な表現に不満を感じないワケではないですが、ローズがオスカーの気持ちに合わせて”話を盛った”だけなのかもしれないけれど、プロレスというジャンルが本来持っている幻想性や想像力の余地を感じさせてくれる本作の演出は大いにアリでしょう。

 プロレス要素はともあれ、世界的にもベストセラーとなった原作小説の著者自身が監督・脚本を務めた本作は、ある種のファンタジーとして描いたような軽いトーンの作風ながら、両親に失望するオスカーの「病気も僕の一部なのに。健康な僕しか愛せないの?」といったセリフや、オスカーの身に奇跡が起きない結末からも、病気やハンディキャップを抱えた当事者とその家族の葛藤や苦悩を提示しています。
 そして、それに関わる第三者が、思いやりや希望を持って接することが出来るか、あるいは無力感とどう向き合うかという問い掛けをしてくる作品といえます。

 裏を返せば「人は人との関わりで変わることが出来る」という極々単純なテーマの作品。ぼっちであることに疲れた方にも観て頂きたい1本であります。

(文/シングウヤスアキ)

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