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一流は「これがベストか?」と自分に問い続けている――天ぷら職人・早乙女哲哉氏の仕事論

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東京・門前仲町に

「天ぷらの神様」と

言われる人物がいる。

財界人、芸能人も足しげく通い、

至高の天ぷらの味を堪能する。

稀代の天ぷら職人は

どのようにして生まれたのか。

日本中で自分より気が小さいのがいたら連れてこい、俺は絶対負けない

本当は寿司職人になりたかったんだよ。小さいころから寿司が好きでね。それなのに50年以上、天ぷらを揚げ続けることになるんだから、人生はわからないねえ。

きっかけは、15歳の時。知り合いに連れられて寿司屋に面接に行く途中でさ、天ぷら屋で飯を食ったのよ。金を払おうと思ったら、いらないって言われて。そしたらその知り合いが「これから寿司屋に面接に行くけどさ…、でも、天ぷら屋もいいよ」って。こっちはごちそうになっちゃったもんだから、断るに断れない。それで「天ぷら屋でもいいや」って(笑)。

特に天ぷらが好きってわけじゃなかったんだけど、親父から東京の天ぷらは全然違うって聞いてたし、何より給料がよかった。当時、学校の先生の初任給が7000円だった時代に、初任給が9000円でさ。早乙女、ずいぶん給料高いなあって、みんなから言われたよ。寿司屋? 寿司屋だったら、5000円ってとこだね。

負けず嫌いだったから、店に入っても一生懸命にやってたよ。でも1年くらいたったころかな、一度だけ辞めようと思ったことがあった。一緒に入ったほかの男のほうが仕事ができてね。なんでも器用にこなす調子のいい男だった。魚屋で働いていたこともあったから、魚なんかきれいにさばくのよ。自分はいつもその人の下で仕事をしていて、つくづく嫌になってさ。田舎に帰って新聞配達でもしようかと毎日考えてた。なんで辞めなかったかって? 意気地がなかったのよ。「今日はいいから、明日帰ろう」なんて先延ばしにしていたら、いつの間にか月日が経っていた。

この「明日にしよう」っていうのがいいんだよ。頭にきたことがあったら、明日考える。そのときはカーッとなってるけど、次の日になれば冷静になってるでしょ。仕事っていうのは、その繰り返しで続くんですよ。

17歳からお客さんの前で天ぷらを揚げるようになったけど、女のお客さんにずいぶんからかわれてね。「板前さん、いくつう?」って。ありゃあ、まいったな。俺はあがり症でね。お客さんの前に立つと、汗をびっしょりかくのよ。慌ててトイレに入ってもおさまらない。今でもそうだよ。日本中で自分より気が小さいのがいたら連れてこい、俺は絶対負けない(笑)。こういうのは性分だから、治らないね。だからね、自分を認めるしかない。自分は日本一気が小さいぞ、文句あるか、って。気が小さいから、繊細な仕事ができるんだ。そう思っておけばいいんです。

早乙女氏の天ぷらは

ギリギリのタイミングまで油で揚げ、

素材のうまみを

最大限に引き出すところに

醍醐味がある。

この技は、経験だけでなく、

膨大なデータから

導き出されたものだ

「これがベストか?」いつも問いかけることで自分の中にデータができる

17歳くらいのときかな。ほかにやることもないから、休みのたびに上野の芸大(東京芸術大学)にふらっと遊びに行ってたのよ。そしたら教授たちと話すようになって。しばらくいろんなことを話していたら、ふと疑問に思ってね。「やっていることは同じなのに、なんで向こうは先生って呼ばれてるんだ」って。だけど、よくよく考えてみると、物を作ることに対する意識が違ってたんだよ。俺たち職人は慣れで物を作ってたけど、先生たちは、ものをつくるのに「裏づけ」を持っていた。自分が研究する対象を調べつくして、莫大な知識に基づいてものをつくっていた。そこが違っていた。俺が天ぷらに使う素材に関して勉強するようになったのはそれからだ。慣れでものをつくるんじゃなくて、「油というものはどんなものなのか」「なぜそれを使うのか」、これを徹底的に探究した。そして毎日、作っていく工程ひとつひとつを「これがベストか?」と自問自答する。それを積み重ねていくと、自分の中にたくさんのデータができる。俺は工程や素材に関するデータを20000くらい持ってるよ。それくらい知識があって初めて、素材を最大限に活かすとこができるんだ。

最終形をはじめに思い浮かべてから、素材を集めることが大事

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