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北方領土返還で強化される「対中シフト」

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 12月に行われる日ロ首脳会談で話題にのぼる可能性が指摘されている北方領土返還で、極東の軍事バランスはどのように変わるのか。ジャーナリストの惠谷治氏は日本とロシアの新しい対中国シフトの可能性を指摘する。

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 平和条約締結によって歯舞・色丹の2島が返還されることは疑いないが、残る国後・択捉がどうなるかを考える上で、留意すべきはロシア側の行政区分である。ソ連軍が占領した千島列島(大クリル列島)は3分割され、歯舞・色丹と国後は「南クリル地区」、択捉から新知(シムシル)までが「クリル地区」、その北方は「北クリル地区」となった。

 つまり、ロシアには日本が主張する「北方四島」という概念はなく、択捉島は国後島と分離されている。北方領土に駐留しているロシア陸軍第18機関銃・砲兵師団の司令部は、択捉の旧天寧に近いガリャーチエ・クリュチに置かれている。

 地図を見れば分かるように、択捉は千島列島の最大の島であり、軍事・行政の中心地である。ロシアは千島列島の西に広がるオホーツク海を内海として、核戦略を構築している。

 2013年12月、最新鋭の戦略原潜ボレイ級K550が、太平洋艦隊に配備された。それまでの旧式原潜のミサイルの射程は6500kmだったが、8000kmに延伸され、オホーツク海から米本土のほぼ全域を射程に収めるようになり、オホーツク海の戦略的重要性はさらに高まっている。

 ロシア軍は昨年から千島列島の幌筵(パラムシル)島と松輪(マツワ)島に海軍施設を建設し、今年に入り、対艦ミサイルのKh35バールやP800バスチオン、自走式短距離対空ミサイル「トールM2U」などを配備し、千島列島の軍事化に取り組んでいる。北方領土の兵力は、ソ連時代の1万名から3500名に大幅縮小されたが、近年になって軍備増強をしているのは、米国や日本に対するものではなく、別の理由が考えられる。

 中国は、1999年から調査船「雪龍」をオホーツク海に進出させるようになり、2012年にはカムチャトカ半島南端を通過し、太平洋から大西洋までの北極海航路を往復した。北極海航路は地球温暖化の影響で北極の氷が減少し、近年、ヨーロッパとアジアを結ぶ最短航路として注目されている。

 しかし、中国にとって千島列島は、東シナ海の南西諸島と同様、地政学的なチョークポイント(隘路、あいろ)となっている。この点でオホーツク海を完全に聖域化しようとしているロシアと我が国は、共通の利害関係にあるといってもいいだろう。

 ロシアが択捉を手放すことが困難なら、先ずは国後を加えた「3島返還」で平和条約を結べば、北海道の陸自兵力を九州・沖縄に移動させ、空自の戦闘機を沖縄に振り向けることができる。また、ロシアも日本との関係が改善すれば、氷結状況で不安定な北極海航路よりも確実な「欧亜連絡鉄道」というランドブリッジを構築できるだろう。

 オホーツク海に潜むロシアの戦略原潜は、米国だけではなく、中国向けでもあり、日露は平和条約締結によって、対中シフトを強化することが可能となるのである。

●えや・おさむ/1949年生まれ。早稲田大学法学部卒業。民族紛争・軍事情報に精通するジャーナリストとして活躍。早稲田大学アジア研究所招聘研究員。監修として『空母いぶき』、著書に『世界テロ戦争』(ともに小学館刊)など多数。

※SAPIO2016年12月号

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