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アプリで治療する医療の未来を切り拓く─医師を兼任するキュア・アップCTO鈴木晋は何を夢見るのか

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JavaScriptへの愛を熱く語るエンジニアは現役の医師でもあった

最近になって、スマホ・アプリによるガイダンスが生活習慣病の予防などに効果があることが知られ始めているが、キュア・アップはこうした考え方に基づき、ニコチン依存症治療用アプリ「CureApp禁煙」を開発・提供する医療系スタートアップだ。

キュア・アップ取締役最高技術責任者(CTO)の鈴木晋氏は現役の医師でもある。

▲株式会社キュア・アップ 取締役CTO兼医師 鈴木晋氏

今でも現場感覚を大事にしており、週1回福島県での内科外来を欠かさず、震災以降、医師不足に陥っている医療機関をサポート。また、夜間診療として会社の隣にある「日本橋スマートクリニック」にも勤めるなど、臨床経験を積み続けている。

そもそも、CodeIQ MAGAZINEが鈴木晋氏の存在に着目したのは2013年、コワーキングスペース茅場町「Co-Edo(コエド)」で開催されたエンジニア勉強会でJavaScriptへの愛を熱く語るエンジニアとしてだった。

▲「JavaScriptで動くお手軽RDB JSRel」のLTを行う鈴木さん。

鈴木氏は2016年1月22日に開催された「MedTechConf#01」では「医師の思考をコードにするためのドメイン駆動設計」と題して講演。「CureApp禁煙」を例に、医師向けの管理画面、Botの配信サーバなどのシステムをすべてJavaScriptで開発している様子を報告していた。
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凄腕のエンジニアが、なぜ医師を兼業しているのかというのは素朴な疑問だ。

今回の取材では、あらためて鈴木氏の“数奇な”経歴と、医療サービスの質的向上にエンジニアがいかに貢献できるかを聞いてみた。

授業ノートアプリがビジコンで最優秀賞。1000万円の投資話が舞い込む

鈴木氏は1986年岩手県で放射線診断を専門とする医師の家に生まれた。もともと数学が好きで数学や理学系に進むことも考えたが、父の勧めで慶応大医学部に進学。

本格的にプログラムを書き始めたのは大学3年生の頃で、自分の授業ノートをまとめるためのWebアプリをほそぼそと作っていた。

「医学部の授業は内科・外科などの診療科目を縦軸とすれば、生理学・病理学・解剖学などの学問が横軸にある。そのタテ・ヨコのつながりをすっきり見える化する必要を自分自身で感じていました。授業ノートをテキスト処理して、それぞれをリンクさせるWikiとEvernoteを併せたようなサービス。友だちにも勧めたんですが、あまりにも自分に最適化されすぎていて評判はよくなかったです(笑)」

ただ、せっかくだからビジネスコンテストにでも出てみたらと言われ、そのアプリを携えてとあるコンテストに応募すると最優秀賞の評価を受け、なんと1000万円の投資をオファーされることになった。

がん病棟の研修医、ゲノム解析研究者、そして医療スタートアップへ

医学生のキャリアは一般的には、卒業後研修医を2年やって、その後それぞれの専門科へ進むというものだ。途中までは鈴木氏もそれが当たり前だと思っていた。

しかしプログラミングの面白さにはまり、一旦は医師への道を方向転換することになる。

「1000万円の投資話を聞いて、当時は単純に“研修医の給料より高いじゃないか”と、超絶安易な理由でプログラム開発に進むことにしたんです。でも結局、投資話は実現しませんでした。学部を卒業してからも研修医にはならず、代わりに3カ月間は、あるイベントで知り合った柳澤大輔氏の誘いで、カヤックでフルタイムのインターン生をすることになりました」

病院でのインターンではなく、面白法人でインターンの道を選んだというわけである。そこはプログラミングの修行の場だった。UNIXコマンドからエディタ、フレームワークの使い方、コーディングの作法など、「今の自分の基礎となるスキルはすべてカヤックで身につけた」と、鈴木氏は振り返る。

インターン終了後しばらくはフリーのプログラマとして生計を立てていた。息子を医師にと願っていた郷里の親は心配はしていたものの、行きつ戻りつのその道行きを静かに見守ってくれていた。

そんな2011年の春、鈴木氏は東大医科学研究所ヒトゲノム解析センターの研究者と知り合い、最初はアルバイト、後に正規職員として採用されることになる。

同センターは、遺伝子解析という重要なプロジェクトを推進する国内の中心拠点。ただ、コンピュータ研究者は多いが、医学部出身者は少なく、鈴木氏の知識は重宝がられた。

センターで遺伝子解析を手伝ううちに、鈴木氏には医学とコンピュータが合体した領域で自分のキャリアを切り拓きたいという夢が次第に像を結ぶようになる。

そのためにはまず医師として一定の臨床経験を積む必要があると、がん研有明病院での研修医に応募することにした。

研修医は自分の専門を定める前に、複数の科を回ってトレーニングするのがふつうだ。科によっては勤務が朝7時から夜11時まで続くこともある。

この厳しい“臨床生活”を通して、鈴木氏には新たな気づきがあった。

「例えば救急病棟やICU(集中治療室)では、血圧、呼吸、酸素飽和度などを24時間モニタリングしながら、常に次の打ち手を考えなければなりません。いわば、仮説・検証を一瞬のうちに繰り返す作業。臨床の現場って、一種のサイエンスじゃないかと気づいたんです」

一度はコンピュータ・サイエンスに心を奪われながらも、医療の現場に戻ってきた鈴木氏だが、その現場で再びサイエンスの生き生きとした脈動に触れることができたのだ。

もう一つ、2年間の研修医時代に学んだのは、人といかに接するかという「ハート」の部分だ。患者さんや家族の不安に寄り添うことで、治療が好転することを体感したという。

研修中の2014年頃、鈴木氏には新たな出会いが2つあった。一つは、大学ヨット部時代の先輩である佐竹晃太氏(現・キュア・アップ代表取締役CEO兼医師)との再会。

佐竹氏は医学部卒業後、呼吸器内科医として勤務、その後、中国の大学院でMBA、米国のジョンズ・ホプキンス大で医療インフォマティクスを専攻、公衆衛生学修士(MPH)を取得した逸材だ。

再会はちょうどキュア・アップの起業を準備していた頃で、プログラムが書ける鈴木氏を共同創業者にと熱心に誘ってくれた。

一方で、鈴木氏は東大医科研時代に世話になった長﨑正朗氏(当時、東北大学東北メディカル・メガバンク ゲノム解析部門バイオメディカル情報解析分野教授)を慕って、東北大学大学院の医学系研究科に進学していた。

2014年にキュア・アップが総務省から補助金を獲得し、新宿にオフィスを構えると、鈴木氏は仙台と東京を往復しながら、ゲノム解析の医学研究者と、医療系スタートアップのCTOという二足のワラジを履くことになる。

謙虚・尊敬・信頼をベースにチームワークでアプリ開発

現在はほぼ9割がた専任の状態でキュア・アップで仕事をする鈴木氏。得意のJavaScriptでアプリやバックエンド・システムを構築しながら、開発チームのマネジメントも行う。

サービス開発において鈴木氏のプログラマとしての卓見は、システムのレイヤをUI層、アプリ層(コントローラ)、ドメイン層(モデル)、インフラ層(DB)に構造化し、各々のレイヤを別々のレポジトリに格納するというマイクロサービスの考え方を適用したことだ。

「CureApp禁煙」であれば「禁煙ドメイン」というレポジトリに医療の専門知識がまとめられており、それを各サービスが参照・共有することで、開発スピードを迅速化することができる。

JavaScriptを使うメリットについては、言語の普及度、特定のプラットフォームに依存せずマルチプラットフォームで開発できること、シンプルなコードを生成できること、大規模開発にも適用できること、などを挙げる。

JavaScriptでは大規模サービスを開発できないとか、スピードが遅いとか批判する人は、今のJavaScriptの進化を知らない人じゃないかと思います」と鈴木氏は言う。

決してJavaScript信者というわけではないが、JavaScriptがエンジニアに対して開く将来性・拡張性に、大いに可能性を見出すがゆえの発言だ。

いまエンジニアが参入すべき新たな領域として注目されるMedTech。アプリ治療の最前線を行くキュア・アップもこの分野の注目企業の一つだ。

「アプリは今後、日本でも医療機器としての認定を受けることになるはずです。『CureApp禁煙』も保険適用を受けられるよういま準備を進めているところ。これが実現すれば、医師や患者にとっては投薬、手術に加えて、新しい治療法が生まれることになる。結果的に、医療費の高騰を止める鍵になり、医療経済的にも価値のあるツールの登場ということになります」(鈴木氏)

現在は鈴木氏とエンジニア2名に加えて業務委託でアプリを開発する。「CureApp禁煙」の次には「CureApp脂肪肝」という新しいアプリのプロトタイプ開発も進んでおり、忙しい日々が続く。エンジニアは喉から手が出るほどに欲しい。

「JavaScriptは必須技術ですが、技術力以上に人物を重視したい。ブライアン・ヒッツバトリックらは『Team Geek』で“あらゆる人間関係の衝突は、謙虚・尊敬・信頼の欠如によるものだ”と指摘しましたが、私たちにとっても、謙虚(Humility)、尊敬(Respect)、信頼(Trust)の“HRT”はチームワークの基本。

プロジェクトのデバッグではKPT法などを活用し、うざいぐらいまでにコミュニケーションを密にしており、開発手法は最先端を行っているという自負があります。私たちと一緒に医療の未来を切り拓くというビジョンを共有できるエンジニアにぜひ来てほしい」と、鈴木氏は呼びかけている。

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