ガジェット通信

見たことのないものを見に行こう

キーノート登壇を通じて知ったこと──澤円が伝授する「プレゼンを成功に導くシナリオ術」

DATE:
  • ガジェット通信を≫

「Microsoft Tech Summit 2016」で70分のキーノート登壇

去る11月1日~2日の二日間、お台場ヒルトンにてマイクロソフトのコーポレートイベントのひとつである「Microsoft Tech Summit 2016」が行われました。

延べ2,500名を超える多くのお客様が来場され、大盛況のうちに幕を閉じました。

このイベントのオープニングで開かれた120分のキーノートの中で、私は70分間のプレゼン時間をもらうことができました。

リアルに壇上から対面できるお客様が600名ほど。サテライト会場を含めると全体で1000名強。オンラインまで入れれば、それこそ数千人に迫るお客様に向けてプレゼンテーションをさせていただきました。

この中では、多くのデモ担当者や事例紹介をするパートナー様の登壇も含まれていたので、実質自分が話している時間は40分程度だったと思います。

とはいえ、ペースメーカーとしての責任は重大で、いかに他の人のプレゼンやデモが長引かないようにコントロールしつつ、かつオーディエンスの興味をずっとつなぎとめることができるか、実に多くの学びがありました。

この貴重な機会で得られた経験を、今回の原稿では紹介したいと思っております。

とにかく有能なプロデューサーが必要!

今回のキーノートは、ターゲットがIT管理者などの仕事をしている、いわゆる「ITプロ」の方々。そして、キーワードは「ITヒーロー」。年の下の力持ちになりがちなIT部門の方々や、インフラ管理系のパートナー様たちにヒーローになっていただくためのイベントとして位置づけられました。

澤のパートは大きく分けて3つ。「セキュリティ」と「マネジメント」、そして「イノベーション」です。

それぞれのパートでゲストスピーカーやデモ担当者が登壇したり、事例を紹介したりします。

キーノートの裏側には、実は数多くの関係者がいます。というのも、各製品担当部署やビジネス部門ごとに出したい情報があり、それを限られた時間の中で効率的・効果的に見せる必要があるのです。公平性も担保しつつ、インパクトも大事。なかなか難しい仕事です。

特に、事例は寸前まで内容が固まらないことが多々あります。どうしてもお客様との交渉に時間がかかってしまったり、お客様内部での調整が難航したりするからです。

また、どのデモにどの程度時間を使い、そのデモを誰が実施するのかなど、考えることは山のようにあります。

とはいえ、実はこの部分については、澤はあまり苦労をしていません。というのも、プロデューサーがしっかりと仕事をしてくれたからです。

デベロッパー エバンジェリズム統括本部のマネージャー、Drew Robbinsがその人。澤はDrewが創ったシナリオを全面的に信頼して、言われたとおりに行動するだけでした。

▲日本マイクロソフト株式会社 デベロッパー エバンジェリズム統括本部 ドリュー・ロビンス

Drewは、まずシナリオの外郭を作り、それをOneNoteに書いて関係者にシェアしました。シナリオごとにページが分けられており、そのフォーマットは統一されています。

関係者は、自分が担当しているシーンのページを毎日編集していき、進捗もそのページの中を見ればすぐにわかる状態になっていました。

澤は、毎日そのOneNoteをチェックし、少しずつ自分の脳内でプレゼンテーションの内容をインプットしていきます。もちろん手戻りがあったり急な変更などがあったりしますが、それも含めて随時確認ができるので、それほどストレスにはなりません。

とにかく、フォーマットが統一されていて、「これさえ見れば大丈夫」という形になっているのがありがたかったです。プロセスをしっかり可視化して、進捗や問題点を明確にするのはプロデューサーの役目。

Drewはその点最高レベルのプロデューサーでした。イベントのキーノートは、このプロデューサーの存在の有無で、その成否が決まります。

今回は、このアサインメントがドンピシャでした。英語でのコミュニケーションになるため、澤も含めて苦労もあったのですが、それでもシナリオが明確ならどうにかなるものです。

結果はどうだったかといえば、キーノート参加者に対する満足度アンケートにおいて、マイクロソフトのイベント史上、過去に例を見ない高いスコアをたたき出しました。

スライドは寸前まで決まらない!

ステージ上で紹介したスライドが完成して渡されたのは、イベント本番の前日でした。それも、リハーサルの時に使ったスライドがさらにアップデートされて、寸前まで常に流動的な状態でした。

キーノートの難しいところは、自分でスライドが用意できないことです。もしかしたら全部準備する人もいるのかもしれませんが、少なくとも私の知る限りにおいて、キーノートのスライドは複数の人が手分けして作り、それを結合する形が一般的であるように思います。

自分が作ったスライドではなく、さらには複数の人が作ったスライドを話す。

スライドには話すためのスクリプトも準備はされているのですが、人によってやはり言葉選びに違いが出てしまいます。こればかりは仕方がない。なので、前日の深夜に自分でスクリプトを起こして頭に叩き込みます。

ほぼすべての製品群・技術要素が網羅されており、多種多様な用語や画面が登場してきます。場合によっては、あまり馴染みがないものまで含まれていたりします。

この状態で、ステージの上でよどみなく話すには、幅広いテクノロジーと顧客のIT環境に興味を持っていないと無理だな、というのが正直な感想です。

特定分野に知識や興味が偏っていると、プレゼンにムラが出ます。顧客に興味を持っていないと、薄っぺらい話し方になります。ステージの上で、アドリブでできることには限界があります。自分の中の知識と経験の貯金がこれだけ問われるのは、キーノートならではの醍醐味だな、と実感しました。

幸いなことに、初めて見る機能や製品であっても、基礎的な知識があればすぐにキャッチアップすることができます。深いところは別のスピーカーが紹介することになっていたので、その人にスムーズにつなぐための言葉選びに集中すればOK。おかげで、どうにか無難にこなせたのではないかと思います。

キーノートで使われるスライドは、大会場を想定して作られるため、ページ内の文字は少なめになります。であるがゆえに言葉で埋める必要性が高くなります。

いかにスクリプトを充実させるか、そして生き生きとステージで言葉を紡いでいくかは、それまでの蓄積がものを言うことは間違いなさそうです。

不確定要素がたくさん!

今回の澤のパートでは、5つのデモが実施され、アメリカ本社のスピーカーが1名、パートナー様が2名登壇されました。

前日のリハではじめましての挨拶をする人もいて、プレゼンスキルは全くの未知数です。その状態でファシリテーションを行い、タイムマネジメントもしなくてはなりません。もしかしたらデモがこけるかもしれませんし、スピーカー自身がフリーズしてしまうかもしれません。

不確定要素のリスク計算は、準備段階から始まり、リハーサルの時に具体的な対応策まで含めて明確にします。逆に言えば、リハーサルまでは確実な対応策は練ることができないともいえるわけです。この状況をどれだけ楽しめるかどうかが、コトが起きたときの対応にも表れてきます。

デモがこけても「あー、見事にこけましたね~!でも、こんなこともあろうと思って…」とスムーズにプランBに移行できるかどうか。まさしくこれがキーノートスピーカーの度量がはかられる瞬間でもあります。

不確定要素に対して不安を持っていると、意外とオーディエンスにもそれが伝わったりするものです。せっかくイベントに足を運んでくださったのに、晴れの舞台のキーノートで不安な気持ちを伝播させては申し訳なさすぎます。

「何が起きても大丈夫!」というどっしりと構えた気持ちでステージに立てるかどうかが、キーノートスピーカーに求められる覚悟ではないかと思います。

実は、これはかなり重要な心構えだと確信しています。

というのも、もし仮に地震や火事などが起きた場合、最も効果的に会場の人たちを落ち着かせることができるのは、マイクを持っているキーノートスピーカーです。

とっさに頭を切り替えて、参加者の皆さんを安全に誘導できるかどうか。私はそこまで考えてステージに立っていました。

非常事態の時の誘導に比べれば、デモがこけるなんて誤差の範囲内です。慌てるまでもないものであり、その代わりになる体験をお届けすればいいと思っています。

キーノートスピーカーは、イベントの中で最も多くの人たちの時間をいただいて話す立場であり、そして場合によっては人生を左右しかねない判断をステージ上ですることになる可能性すらあるのです。

この経験は何事にも代えられない貴重なものです。

もしも皆さんがそのような経験をする機会があれば、とにかく飛びついてください。

何を話すかなんて、後で考えればいいのです。

貴重な機会を生かせるかどうか。それがエンジニアの皆さんのキャリアに直結するのです。

キーノートで話したことは何度となくありますが、今回はその中でも最も学びの多いプレゼンテーションでした。

少しでも皆さんに感じたことの共有ができていれば、とても嬉しいです。

またキーノート登壇の機会があれば、レポートしますね!

「Microsoft Tech Summit 2016」撮影:山形悟

■澤さんのキーノートセッションも見れる講演動画はこちらから!


澤 円(さわ まどか)氏
日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンター センター長   立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。2011年7月、マイクロソフトテクノロジーセンター センター長に就任。
著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方
CodeIQ MAGAZINEで「澤円のプレゼン塾」連載中!
Twitter:@madoka510

カテゴリー : デジタル・IT タグ :
CodeIQ MAGAZINEの記事一覧をみる ▶
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

TOP