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プロ棋士・羽生善治が語る、AI時代を生き抜くために「身につけるべきスキル」とは?

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最大約250人が同時に研修を受講できるトレーニングセンターを開設

2016年10月、日本ビジネスシステムズ(JBS)は最大約250人が同時に研修を受講できるJBSトレーニングセンターを開設。
それを記念して10月31日に、AIに関するセミナーを開催した。

JBSトレーニングセンター

今回のセミナーは特別講演とパネルディスカッションの2部構成。特別講演の講師を務めたのは、プロ棋士の羽生善治氏。
第2部のパネルディスカッションは羽生氏のほか、日本のAI研究の第一人者で東京大学特任教授の中島秀之氏、同じく中島氏と並ぶ日本のAI研究の第一人者であるはこだて未来大学教授の松原仁氏がパネラーとして登壇した。

開演の挨拶を務めたのは、JSBの牧田幸弘社長だ。

日本ビジネスシステムズ株式会社 代表取締役社長 牧田 幸弘氏

「世の中のさまざまな分野で、AIは期待されている技術領域です。今はまさしくあらゆる分野でAIの活用が進んでいくとき。将棋界でもAIが話題となっています。どんな話が展開されるのか、私も楽しみにしています。みなさんも最後までゆっくりお楽しみいただければと思います」

羽生氏の特別講演テーマは「人はどのように伸びるのか」。自身のキャリアから得た知見や考察を交えながら、AIと人間の違いについて語った。

羽生 善治氏
日本のプロ棋士。中学生で棋士となって以来(史上3人目)、さまざまなタイトルを獲得してきました。1996年には七冠を独占、タイトル獲得合計は97期、一般棋戦優勝回数は44回といずれも歴代1位の記録。現在は王位・王座・棋聖のタイトルを持っており、名人、王位、王座、棋王、棋聖、王将の永世称号もすでに取得している。

将棋では直観、読み、大局観で考え、次の手を打つ

取材やインタビューの際、「何手ぐらい先を読むのか」という質問をされます。これはすごく答えづらい質問です。

その理由は数えていないからです。かつて、木村14世名人は「一にらみ2000手」と言われました。誇張があるかもしれませんが、時間をかければ読めなくありません。

でも私はたくさん読むこと自体には価値がないと思っています。ではどうしているかというと、局面を見たときに直観を使っているんです。

将棋の場合は、一つの局面で平均して80通り手があります。その中から直観で2つか3つの手に絞る。残りの78、77の可能性は捨てているのですね。

それはなぜか、時間の制約があるからです。では80手からどういうプロセスから選ぶかというと、これはカメラで写真を撮るときにピントを合わせるのと同様に、中心だと思うところで、これまで自分自身が経験してきたことと照らし合わせて、手を絞っていくんです。

そこから、具体的に読みに入っていく。読んでいくプロセスはあっという間に数の爆発という問題にぶつかります。直観と読みだけで考えを進めたとしても、かけ算で増えていきます。

10手先を直観と読みだけで考えたとしても、3の10乗、6万弱の可能性を考えなければなりまません。9割以上の選択肢を捨てているのに、数が大きくなりすぎて適切な判断ができないようになります。

そのときに使うのが大局観です。今ある現状のところまでの局面を最初から振り返って総括して見るんです。そしてこれから先、どういう方針、戦略でいけばいいのか考えるんです。大局観を使うと、無駄な考えを省略できます。直観、読み、大局観を使って局面を捉えています。

現在、10代から70代、160人の現役棋士がいます。いずれもこの3つを使っていることに変わりはありませんが、年と共にこの3つの比重が変わってきます。10代、20代前半は読みが中心になる。たくさん計算読むことができるからです。

ある程度経験を積むと、それよりも感覚的な判断、つまり直観や大局観を中心に考えていくようになります。これはどちらが優れているということではありません。広く浅く見極める、判断していくというときは大局観が便利ですが、最善の一手にたどり着くには読みと直観が重要になります。

対局は朝の10時に始まり、夜の12時、1時まで続くこともあります。一つの局面で1時間、2時間考えることもある。長く考えると正しい手がさせるわけではありません。先述したように直観と読みと大局観を使うと、30分ぐらいで考えがまとまってくるんです。

Aを選ぶと10手先はこうなる。Bを選ぶというように。そして最終的にAかBかで迷うと、長考になるんです。あとの30分間は堂々巡りをしているんです。私はこれまで1900局ぐらい対戦していますが、4時間弱考えたことがありました。ですが、今振り返ると、5秒でも同じ手を指したと思います。

チェスや将棋、囲碁の世界ではプロを負かすソフトが登場

今日のセミナーのテーマはAI。将棋の世界でもチェスの世界でも、囲碁の世界でもAIが入り込んできています。そこでチェスの世界と囲碁の世界と将棋の世界を比較して話をしていきたいと思います。

まずはチェスとAIについて。チェスとAIの歴史が一番長く、1997年にIBMが開発したDeep Blueが当時の世界チャンピオンを打ち破ったことから戦いの歴史は始まります。Deep Blueが勝ったのはデータ量とハードの処理能力に優れていたから。

チェスはアマチュアの人も対局の記録を取るなど、たくさんの記録が残っています。500万局もの過去の対局がデータベースとして残っているんです。つまりビッグデータがあるんです。しかもチェスはエンドゲームといって、コマの数が少なくなることもAIに有利な条件でした。

次に囲碁について。囲碁はチェス、将棋に次いで囲碁のAIソフトが登場しました。その代表例が「アルファ碁」。これは英国の人工知能ベンチャー、Deep Mindが開発、マシンラーニング、ディープラーニングを基に学習させて進歩させていきました。

アルファ碁はネット上の人間同士が対局を行った、約15万の棋譜を基に学習していきます。AIは人間の学習ペースよりもかなり速いスピードで学んでいきます。

アルファ碁を見て感心したのは、人間は直観と読みと大局観で考えていくが、アルファ碁は計算しきれない膨大なテーマなどが出てきたときに概算によって近い答えを見出していくということで、手を選んでいるんです。

つまり、人間の思考と同じ大局観的な発想を持ったプログラムになっています。またもう一つ、面白いなと思ったのは、例えば伝言ゲームに例えると、ちゃんと伝えていないという人を見つけ出して取り除き、もう一度学習するということを繰り返して強くなっていくんです。

引き算で無駄なモノ、余分なモノを省いていって洗練させて強くなっていく。これが人間の思考と似たアプローチをしていると感じました。アルファ碁の場合、対局場面ではそれほど大きなハードを使っていませんが、学習の時は巨大な計算リソースを使って学習させています。

続いて将棋とAIについて。将棋の難しいところは、評価の部分です。将棋ソフトの場合は評価関数をどれだけ正確にしていくかが重要なポイントです。プログラムによっては300ぐらいの評価項目を作って、実態に近い判断にしています。

Bonanzaというコンピュータ将棋のプログラムは、オープンソース化され、誰もが使えるようになりました。実はBonanzaが登場するまで、少し将棋のプログラムはアマチュア5段ぐらいまでは達成していましたが、それ以上伸び悩んでいたのです。

Bonanzaはここ2年ぐらいで、ものすごい勢いで強くなっています。将棋のソフトの読みの部分、つまり探索プログラムはコンピュータチェスの「ストックフィッシュ」を活用している人が多いようです。それを改良して使っています。

イノベーションは人間にしか起こせない

では強い将棋ソフトが登場したことで、人間はどう変わっているか。ここ2年ぐらい、コンピュータの新手がプロの公式戦に影響を与えるようになってきました。

例えば矢倉。「矢倉を制するものが棋界を制する」と言われ、本格派は必ず矢倉を指します。それだけに一番深く研究されてきており、ここ2年ぐらいで矢倉を使う割合が激変しているのです。その理由は、あるソフトが見つけた新手を矢倉ではどうして打ち破ることができないので避けるようになってしまっているんです。

あともう一つ、将棋ソフトが登場したことにで、公式戦が終わった後、メディアの方からからメールが来て、「この局面でこう指したらどうでしょう」という質問が来るようになりました。

その手は将棋ソフトの手なんです。だから私もオートマチックに「正解です」と返信しています。また大きな対局はネットで中継されており、一手ごとにソフトの評価が表示されるんです。

一度、解説側にまわって気付いたのは、接戦や熱戦と呼ばれるいい将棋は1手ごとに評価関数が揺れ動くこと。若い世代は将棋ソフトを使って研究・分析することに抵抗がなくなってきています。

ただし問題点もあります。同じプログラムを使って分析すると、人間が指しているのかという差し方になるんです。人間の可能性はAIよりも大きいと思うんです。

例えば私の知り合いで白石康次郎さんという海洋冒険家がいます。白石さんに「ヨットレースではどのように進路を決めているのですか」と尋ねたところ、ヨットの世界にもITが進出しており、GPSと過去のデータを活用してどの方向に進むべきか教えてくれるんだそうです。

それを踏まえた上で、朝起きて、甲板に出ると、「今日は行けるぞ」と思えたときには、自分の直観を信用してその通りにヨットを進めるのだそうです。確信を持てないときはデータに従うのだと言っていました。

つまりデータを駆使した体系的なセオリーとか、積み上げられた知識による選択と、人間の感覚的な選択の両輪を使っていくのが良いということです。人間とAIの違いは、創造的なことをどれだけするかです。もちろん、AIも創造的なことができるようになっていますが、人間の創造力にはまだ及ばないと思います。

AIの活用をどううまく取り入れていけるか。将棋ソフトを使って研究・分析をするのは当たり前になります。そこから何か人間的な理解アプローチによって、新しいセンスや発想、アイデアを生み出すことが人間に求められることではないかと思います。

AIが学習してすごいものができたとしても、そのプロセスが説明できなければ社会は受け止めてくれません。そのブラックボックスを解明していくことは、AIが社会に広まっていくカギだと思います。そしてAIによって生まれた物が、人間が持っている感覚やセンスに影響を与えると思っています。

最初にお話したように、将棋の手を80個あるうちから3つに絞るという基準がなんなのかを突き詰めていくと、美的センスと密接に関わってきます。

「こういう形は嫌だ」「こういう形はおかしい」と、きめ細かなこだわりを洗練さえていくことで取捨選択をしていきます。ですが、AIが入ってくると美的センスは関係なくなるため、形が悪かったり、いびつだったりするものの中に、いい手が隠れていることもあるでしょう。

つまり今まで見つからなかった発想、アイデアが隠れていることがあるかもしれません。しかし根本的なことを覆すようなイノベーションは人間にしか起こせないと思っています。

AIの発展は人を幸せにするのか?

続いては、第二部のパネルディスカッション。テーマは「AIは社会をどう変えるか」。モデレータはJBS 社会システムデザインセンター 副センター長の清水剛氏が務めた。

日本ビジネスシステムズ株式会社 社会システムデザインセンター 副センター長 清水剛氏

清水:AIが人間を凌駕するのではということを懸念されています。AIが発展していくと、人は幸せに生きていけるのでしょうか。

羽生:仮に自律的に意思を持つロボットができたときに、そのロボットに人間が命令して使いこなしてやっていくのが本当にいいのかどうか、許されるのかどうか、これから一つの問題として起こってくるのではと思います。技術が進む前にルールや社会的なコンセンサスが必要になるのではと思っています。

中嶋:羽生さんは将棋では直観と先読みと大局観が大事だとおっしゃいましたが、これはどの分野でも通じることだと思います。コンピュータが得意なのは先読み。人間は大局観を使えることが、コンピュータとの差だと思っています。

直観に近しい暗黙知の世界はディープラーニングで手が届くようになりました。例えば羽生さんの講演でも出てきたアルファ碁も次の一手はディープラーニングで導き出しています。

東京大学特任教授 中島秀之氏
東京大学大学院情報理工学系研究科 先端人工知能学教育寄付講座特任教授、公立はこだて未来大学名誉学長。1983年、当時の人工知能研究で日本の最高峰だった電総研に入所。協調アーキテクチャ計画室長、通信知能研究室長、情報科学部長、企画室長などを歴任。2001年、産総研サイバーアシスト研究センター長。2004年、公立はこだて未来大学の学長。2016年3月学長を退任後、同年6月名誉学長に。

松原:人工知能がこれから進歩すると不安になる気持ちはわかりますが、今の人工知能には汎用性はありません。例えば羽生さんのように将棋も強いけど講演も立派にこなすような人工知能ができなければ、人間にとって脅威にならないと思うんです。

ただ、汎用人工知能ができたとしても、敵対しないと思っています。人工知能は人間と食べ物で争うことはありません。人間と電源を取り合うこともない。人間とコンピュータの棲み分けはできると思うんです。

例えば作品や人を評価するという部分は、コンピュータでは難しいと思います。例えばAIに小説を書かせることはできますが、応募することはできません。つまり応募するのは人間なので、それができない限り芸術を作ったことにはならないからです。

公立はこだて未来大学 教授 松原仁氏
1986年、通産省工技院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)入所。2000年、公立はこだて未来大学教授。2016年公立はこだて未来大学副理事長。人工知能、ゲーム情報学、観光情報学などに興味を持つ。著書に「コンピュータ将棋の進歩」「鉄腕アトムは実現できるか」「先を読む頭脳」「観光情報学入門」など。前人工知能学会会長、情報処理学会理事、観光情報学会理事。

人と敵対するAIは登場する?

清水:では人工知能が個性を発揮するようになると、敵対する可能性はあるのでしょうか。

松原:敵対という概念がそもそも人工知能にないんです。ただ、敵対することがらを機械学習で学ばせるとそういう行為を育てることができると思います。しかし、それは人間の学習と同じで、人工知能もいい情報を与えてうまく学習させられるかなんです。人工知能の開発において、技術的にも倫理的にもどういうことを学習させるかが大事になります。

中嶋:例えばAIでショートショートを書かせるとしても、オチをどうつけるかは難しい。例えば星新一さんのショートショートが面白いのは、前の文脈からAということを想像するのに、結論はBになるからなんです。将棋の新手もそう。常識ではこんな手を打たないから、難しい。

AIが目標を自分で作り出すことはありません。感情を持ったように振る舞うのは、人間がそう慮っているからです。現在のAIは、こうしなさいと言うと、それをやるだけ。例えば悪意のプログラムをAIに作らせたとしても、AIはそれを悪だとは思っていないのです。

羽生:将棋ソフトに関して言うと、今、北陸先端科学技術大学院大学では、接待将棋の研究にチャレンジしています。人間といい勝負をして、最後負けてくれるというソフトです。負け方があからさますぎないようにするのが難しいところ。

こういうことから考えると、例えば接待ゴルフはまだまだなくならないでしょうね(笑)。ここは人間が勝てる分野だと思います。

AI時代における人間のあり方

清水:今後、AI時代において、人間はどのように生きているのが幸せなのでしょう。

羽生:江戸時代は多様な文化が生まれました。それは戦争がなくなって、穏やかな時代になり、命の危険がなくなったから。今はたくさんの時間が仕事に費やされ、面白ことができないという状態があります。AIが進むとそういう状態が解消され、快適な社会設計ができるようになるのではと期待しています。

中嶋:AIがある程度仕事を奪うのは事実でしょう。しかし人間の役割とAIの役割が違ってきます。例えば人間が直観で考え、その検証をプログラムがやるというように。裁判の判決もそういうプロセスになるかもしれません。まず直観で判断し、今までの判例で積み上げられるかを検証する。

もちろん最終的な判断は人間がします。このようにAIを活用することで、社会全体の生産性が上がり、働く時間が減らせます。今あるシステムをソフトウェア化するのは有意義ではありません。IoTで初めてできることをやっていかないといけないと思うんです。

次の富のサイクルの仕組みを作るのはソフトウェアをやっている人たち。うかうかしていてはダメです。あと数年で社会の変化が起こり始めます。追いかけるのではなく、先に進んでください。

松原:例えばスマホのアプリの中には人工知能が入っているものが登場しています。おいしいモノを食べたいと言うときに調べるのは、すべてAI。既に私たちは人工知能に意思決定を任しているんです。中島さんが言ったように、いかにAIを活用して社会を変えていくか。これは情報系の人にしかできない仕事です。

AI時代を生き抜くために身につけるべきスキルとは?

清水:最後に今後、私たちITに関わる人材はどのようなスキルを身につけていけばいいのか、メッセージをお願いします。

羽生:私が日常で心がけているのは、できるだけ初見の場所、自分の経験値が生きないところに行くことです。例えばどこかに行くときもスマホで調べず行く。スマホは便利だけどそれに頼ってしまうと、初見の場面で、自力でなんとかする力が弱まってしまうと思うからです。

もう一つは人間とAIと二分してしまうように捉えるが、人間+AIでどんな新しいことができるか、という視点で新たなサービスなどを考えることだと思います。

中嶋:いつかの羽生さんの講演ではタイトル戦で自分が不利な局面にあえてつくるという話を聞きました。次に勝つために、不利なことに慣れるためだと。次の山を目指すには、登った山を下りなければなりません。ビジネスもそう。常に新しいことに恐れずにチャレンジする姿勢をいつまでも持っていて欲しいと思います。

松原:これからは教養が見直される時代になると思っています。教養を個として持っていることが、人間の差別化になると思うんです。ある状況で自分の頭だけで結論を出すときにも、教養が大いに役立つと思います。

中嶋:これまではT字型人間になれと言われてきましたが、AIが普及すると深い専門知識が必要な作業はAIの得意分野。人に求められるのは幅広い興味や関心、そしてデザイン力だと思います。

清水:初見を恐れずに取り組む場合にも、デザイン力は欠かせません。AIが人間の生活を豊かにするかどうかはIT技術者にかかっています。ぜひ今日の話を参考に、そういう社会が実現するよう、スキルアップに励んでいきましょう。

次回開催のJBSセミナーゲストは、日本マイクロソフトのエバンジェリスト西脇資哲氏。こちらのセッションもレポートする予定なので、お楽しみに!

(執筆:中村仁美 撮影:刑部友康)

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