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川本真琴の確かな才能を余すところなく詰め込んだデビューアルバム『川本真琴』

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先日、デビュー20周年記念のセルフカバーアルバム『ふとしたことです』のリリースにあたって初めて川本真琴に取材させてもらった。セルフカバー作となれば当然、元曲と聴き比べてインタビューに臨む。正直に白状すると、この機会にほぼ初めて本腰を入れてデビュー当時の彼女の作品を聴いたのだが、そのセンスの高さはバッチリ確認できた。驚いたのは、サウンド面も実に素晴らしいアルバムであったこと。今頃、そこに気付いたのはは恥ずかしくもあるが、恥の上塗りを承知で、彼女のデビューアルバム『川本真琴』を解説してみようと思う。

先達からの遺伝子を付け継いだメロディー
改めて言うことではないかもしれないが、まず川本真琴のソングライティングについて抑えておきたい。独特の抑揚を持ちつつも、しっかりとキャッチーなメロディーラインが何と言っても特徴的だ。当時、きちんと川本真琴の作品を聴いていたわけではなかったが、「愛の才能」や「DNA」「1/2」を耳にして、“ガールポップにも新しい才能が出てきたなぁ”なんて思っていたことをつい最近のことのように思い出す。そのメロディーセンスは「愛の才能」のコンポーザーでもあり、彼女自身もファンを公言していた岡村靖幸譲りと言ってしまえば簡単だが、決して師匠のエピゴーネンなどではなく、サビが開放的に突き抜けるように聴こえる作りは彼女のオリジナリティーと言っていい。この辺は「愛の才能」と「1/2」とを聴き比べれば分かると思う。同じ恋愛ものでも前者は何かいけないことをしているような聴き応えがあるが、後者は歌詞の主人公を応援したくなるような明るさを持っている。音符の多さは岡村ちゃん以外には、ジョニ・ミッチェルやボブ・ディラン、あるいは井上陽水からの影響もあるといい、その辺の要素をわりと意識的に取り入れていたらしい。

絶妙な言葉の乗せ方が生むキャッチーさ
文字数の多い歌詞も、これまた当時の彼女の作風である。リフレインも多い。

《あの娘にばれずに 彼にもばれずに kiss しようよ/明日の一限までには 何度も kiss しようよ/愛の才能ないの 今も勉強中よ「SOUL」》(M2「愛の才能(ALBUM VERSION)」)。

《ぐるぐる まわってる まわってる まわってる/やっぱりあなたが好き/何でこんな息してるだけで ギュッてされてるみたいに 好き》(M4「DNA」)。

《唇と唇 瞳と瞳と手と手/神様は何も禁止なんてしてない/愛してる 愛してる 愛してる/あたしまだ懲りてない 大人じゃわかんない/苦しくて せつなくて 見せたくて パンクしちゃう》(M10「1/2」)。

上記の歌詞はいずれもサビの半分くらいである。他者のバラードならこれでB~サビくらいの分量かもしれない。ただ、言葉が多いには多いが、それがちゃんとメロディーに乗っているからだろう。字余り感はないというか、少なくとも過剰にあふれているような印象はない。音符も言葉も多いが、キャッチーなのは、そのマッチングが見事だからだと思う。
歌詞に関してはもう一点、その時代性についても注目してみた。“女性上位”(ジェンダー的観点からすると、今この言葉を使うのは好ましくないかもしれないが…)な内容はポップで清々しい。20年前には新しい価値観として見られたのだろう。ただ、奔放なだけでなく、その一方で、下記のM6「タイムマシーン」のような揺れる想いが綴られているのもバランスがいい。

《そばにいたいよ 君の彼女で 明日変わるね あたし変わるよ/だから さよならきっとできる、でもベランダではかないあたしはいったい?/眠れないのは ほっとくだけ ほっとくだけ》(M6「タイムマシーン」)。

さらに見逃せないのは、M7「やきそばパン」辺りに垣間見えるもの──この時代ならではの、当時の若者が抱いていた漠とした不安感ではないだろうか。

《あたし目が覚めたら 今日もまたあたしだった Dear Day Dear Sun/日課の散歩のついでに今日も保健室に行こうっと Dear Friend》《ねぇ、ユミコなら夕べは たぶんお泊まりしてるのダーリンち/ユカも全然出て来ないし そっとしておいて欲しい事情/「ここは暗記しとけ」って 心打だない言葉ね Teacher/だけど窓際特別なの チョークがキラキラ舞って》(M7「やきそばパン」)。

これだけで彼女を“女・尾崎”というのは間違っているだろうが、過去そう呼ばれたその他大勢よりも、尾崎豊さながらにリアルに時代を切り取っていたと思う。

多彩なサウンドメイキング
冒頭でも述べた通り、アルバム『川本真琴』はそのサウンドも素晴らしい。彼女に対して半可通な知識しか持ち合わせていなかった筆者でも、「DNA」や「1/2」でアコギをかき鳴らしていた姿が印象に残っている。それゆえに──勝手な話だが、そのサウンドはフォーキーなものが中心だと思っていたら、これが大間違い。サウンドメイキングは実に多彩だ。確かにM4「DNA」辺りはアコギの音を前面に出してはいるが、バックはパーカッシブなリズムが支えており、各パートが重なり合って独特のグルーブを生んでいる。また、イントロと間奏でサイケデリックな音使いを聴かせるM1「10分前」でバンジョーをフィーチャーしていたり(ギターでバンジョー的な音色を出しているかもしれない)、ソウルフルなM8「LOVE&LUNA」ではフルートの音色が印象的だったり、楽器の選び方も興味深い。M3「STONE」で随分と分厚いロックサウンドを聴かせると思ったらSPARKS GO GOが参加していたり、それ以外の楽曲でも佐橋佳幸(Gu)、有賀啓雄(Ba)、江口信夫(Dr)ら名うてのミュージシャンがその名を連ねている。新人アーティストとしては破格の音作りがなされており、いかに川本真琴というアーティストが嘱望されていたかも分かる。

CDならではの凝った作り
さて、アルバム『川本真琴』はメロディー、歌詞、サウンド、どれもオリジナリティーあふれる一線級であるわけだが、それ以外にも逃せないところがある。それはCDパッケージそのものだ。彼女の顔が映ったジャケット。これはまさにクローズアップで、織り込まれたジャケットを開くと全身を見ることができる。小さめのポスターっぽい作りだ。また、その裏面に載せられた歌詞カードも楽しい。全10曲のフォント(書体)がそれぞれ異なっており、言葉の共通点がある部分は互いのフォントが交換されている。例えば、M3「STONE」の《MARKETでみっけた しみだらけの地図》と、M4「DNA」の《カーブでふざけてコーラを/こぼしたあの夏の地図は》とであったり、M6「タイムマシーン」の《ひとりぼっちでいなくちゃダメなの?》と、M7「やきそばパン」の《ひとりぼっちで屋上 やきそばパンを食べたい》とであったり。ちょっとパンク風なアートワークというか、『じょうずなワニのつかまえ方』的というか(分かる人には分かる)、音源データのやり取りではあり得ない、CDというマテリアルだからこそ成し得た仕事にも是非注目してほしい。

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