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Ubisoftが『Eagle Flight』で得た、快適なVRコンテンツ制作のイロハ

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現地時間2016年11月2日・3日に、アメリカはサンフランシスコにて「VRDC 2016」が行われました。

VRDCとはVirtual Reality Developers Conferenceのこと。会場では世界各地のVR開発者が集い、企業によるデモの展示、パーティによる開発者・企業間の交流、そして開発に関する知見を共有するセッションが行われました。

本記事ではその中で、『Full Speed Flying in VR! The R&D; Behind ‘Eagle Flight’』と題されたセッションのレポートをお送りします。登壇したのは、マルチプラットフォームで展開中の『Eagle Flight』のゲームディレクター、オリビア・パルメリ氏。

VRDC2016で行われた全セッションはこちらから視聴可能です。(すべて英語)

『Eagle Flight』最初のプロトタイプができるまで

“酔い”に対する研究

2014年にR&D;プロジェクトとしてUbisoftモントリオールスタジオ内で立ち上がったVRチーム。

彼らはプロジェクト発足とともに、“酔い”に関する知見を学び始めたそうです。人間の耳の内部にある平衡感覚をつかさどる器官、人間の視線に関する研究、NASAの「宇宙酔い」に関する知見、あらゆる学術的な知見を集めたとのこと。

このあとに述べられるVR酔いに関する知見は、こうした熱心な研究に基づいたものです。

人間の耳の中にある「三半規管」の解説。チューブ状の3つの半円形の器官によって、XYZの3次元平衡感覚を感知している。内部はリンパ液で満たされており、人の顔が傾くに従って流動する。

人間の視線や眼鏡をかけたときの反応に関する知見。はじめて眼鏡をかけたとき、人はいつもと異なる視界に慣れるのに時間がかかり、場合によっては気持ち悪くなることがあります。

最初のプロトタイプへ

彼らが『Eagle Flight』を制作するにあたって、最初に3つのポイントを掲げたそうです。

1.快適なVR体験(VR酔いの軽減など)

2.どんな人でもプレイできる、簡単で直感的な操作性

3.それでいて深く、正確で実用的なコントロール方法

チームが小規模だったため、最初はシンプルなアセットを並べてプロトタイプを作ったとのこと(写真左)。写真右が最初のプロトタイプです。(製品版ではありません。)

プロトタイプの完成を迎え、彼らは2015年のE3で展示を行いました。この時すでに、『Eagle Flight』の特徴でもある、頭のみを使った直感的で簡単かつ正確な操作方法が実装されていました。

VR酔いを引き起こす5つの原因

パルメリ氏が紹介した5つの原因は以下の通り。

1.視覚情報と平衡感覚のズレ

2.フレームレート不足・処理落ち

3.至近距離での激しい動き

4.視界だけが加速度運動をしていること

5.VRの壁を通り抜けてしまう

順番に詳しく見ていきましょう。

1.視覚情報と平衡感覚のズレ

目で見ている景色は動いているのに、体は静止したまま。あるいは視界は傾いているのに体はまっすぐなまま。一般に、このような視覚と身体感覚の不一致は酔いを引き起こすと考えられています。船酔い、車酔い、宇宙酔いなどもこれと同じ理由で起きる“酔い”です。

この酔いへのアプローチとして

(1)動きは感じるが、それを見せないようにする

例:船の客室に窓をつけない、など

(2)動いているのは見えるが、それを感じさせないようにする

例:宇宙の無重力空間、など

といった回避策が明らかになっているとのこと。

2.フレームレート不足・処理落ち

「画質を犠牲にしてでもフレームレートは死守しろ」というのは数年前から存在するVR界の鉄則のようなもの。HMDを通してみる景色の描画が頭の動きについていけずにカクカクしたり、フリーズしたり、視界が振動したりするなど、視界が「連続的であること」を妨げる要因は、すべて酔いに繋がります。

3.至近距離での激しい動き

至近距離での早い動きを見ると酔いに繋がります。とりわけ視野の周辺の激しい動きは影響が大きく、注意が必要とのこと。

4.視界だけが加速度運動をしていること

「加速度を伴う移動は避け、等速運動にするべき」というVR開発セオリーはさまざまな所で耳にします。人間の加速度を感じる器官は耳の中にあるため、目だけが加速度を感じると情報に齟齬が発生し、VR酔いを招きます。

5.VRの壁を通り抜けてしまう

VR空間で壁にぶつかりそうなとき、体は「ぶつかる!」と身構えてしまいます。そのまま壁を通り抜けたりしようものなら、予測と結果が大きく異なり、気持ち悪さを呼ぶ原因になるのだとか。

『Eagle Flight』で用いられたVR酔い対策

以上5つのVR酔いの原因について見たところで、ここからは『Eagle Flight』がこれらをどのように回避したかを紹介します。

ゲーム内での移動について

『Eagle Flight』では、ワシになってパリの街を飛び回ることになりますが、飛行(移動)に関する操作は、すべてプレイヤーの「頭の位置・向き」で行います

この場合、基本的に移動はプレイヤーの向いている方向のみ。プレイヤーは必然的に「前(向いている)方向に直進」しかできません。視覚と顔の方向・傾きを一致させることで、VR酔いの軽減につながっています。

「だから(ジェットコースターのように垂直方向に)旋回したい場合は、バック宙しなければいけません」と笑いを誘うパルメリ氏。

動きの変化は緩やかに

「加速度を伴う移動は避け、なるべく等速運動にするべき」という知見。これについては「正面方向なら加速の影響も少ない」とは言われていますが、『Eagle Flight』では酔いを軽減するために、正面加速にも配慮。加速・減速は緩やかに、パラメタを試行錯誤して最も快適になるような度合いで加速するように調整されています。

壁との衝突

VR酔いを避けながら、壁との衝突をどう演出するのか。

(1)急に動きを止めること

(2)プレイヤーの方向を勝手に変えてしまうこと

(3)壁を通り抜けさせてしまうこと

は、それぞれV酔いを引き起こす5つの原因の中に含まれるため、できれば使いたくない手法です。

『Eagle Flight』では、壁との衝突の直前に、視界が黒くフェードアウトする、という解決策が採用されています。さらに、衝突後、暗転し、葉っぱなどのパーティクルを出現させ、少し時間を置いてから「衝突しました」という文字を出現させています。もっとも快適な衝突演出を追求した結果として、文字表示を遅らせるなどの細部へのこだわりがあるのだとか。

地平線や太陽など、不動のものを置く

地平線や太陽など、ほとんど動かないものを描画しておくことで、視界が安定し、動きのコントロールがしやすくなるとのこと。

鼻の描画

視界の隅に、プレイヤーの鼻を描画するとVR酔いが軽減する、ということはかねてより指摘されています。『Eagle Flight』ではくちばしが描画されています。

プレイヤーの脳活動を忙しくしてやる

「プレイヤーが脳を常に働かせなければいけない状況を作ることで、VR酔いの原因になる様々なことを気にする余裕をなくすのも1つの手法」とパルメリ氏。

『Eagle Flight』のマルチプレイヤーモードは、他のプレイヤーと協力するソーシャル的な楽しさも売りですが、味方プレイヤー、敵プレイヤー、作戦、ステージ、様々なことを考えさせることでゲームに没頭させる狙いもあるのだそうです。

グラフィックの変化

より快適なVR体験を求め、彼らは幾度となくグラフィックの変更を行ってきました。テストから製品版に向けて、その変遷が紹介されました。

サウンド

加速して激しく羽ばたく音、急降下するときの風の音など、プレイヤーのアクションに合わせたサウンドを聞かせることで、プレイヤーの行動に説得力を持たせ、より没入感を高めることができます。

また『Eagle Flight』では左右の音の定位を活用し、「音がどこから聞こえるか」という情報もゲームに取り入れています。

高速移動時に周辺視野をぼかす

VR酔いの原因について考察したとき、「至近距離での早い動き、とりわけ視野の周辺の激しい動きは酔いに繋がりやすい」とありました。彼らは人間の視野について研究を重ねたうえで、「早い動きを伴う時は、周辺視野を暗転させる」という独特な手法を取っています。

以上、『Eagle Flight』で用いられているVR酔い対策について、簡単にまとめると以下のようになります。

・コントローラーの振動に依るフィードバック

・プレイヤーの頭の向きで移動

・正面方向にしか移動しない

・衝突の演出はフェードアウト

・くちばし(鼻の代わり)の描画

・動きに合わせたサウンド

・高速移動時に視野周辺を暗転

最後に

1.頭部をコントローラーとして使うのはVR向き

2.プレイヤーの意図しないカメラの動きは排除する

3.VRのためのデザインを。形式より先に機能を考える

セッションの最後にパルメリ氏は、まとめとして以上の3ポイントを特に取り上げ、セッションを閉じました。

マルチプラットフォーム対応の『Eagle Flight』。この作品の完成の陰には、非常に多くの研究と試行錯誤がありました。なおOculus Rift版は10月18日、PSVR版が11月8日にリリース済みで、HTC Vive版が12月20日にリリース予定です。Ubisoftの今後の作品にも期待が高まります。

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