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専業主婦になるのが夢だった。でも、体調を崩した夫が会社を退職し…――フロイデ株式会社 吉谷愛社長の「働く」とは?

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「無職・フリーターを含む千人の未経験者をウェブエンジニアに育てる」をミッションに掲げ、注目を集めているフロイデ株式会社。福岡を拠点に、東京と北九州に事業所を構え、ここ数年で急成長。国内はもちろん、海外でのプロジェクトも始まりつつあります。

この会社を率いるのは、家に帰れば2児のママでもある吉谷愛さん。若いころは専業主婦になりたかったという吉谷さんが、なぜ社長になり、このようなミッションを掲げるようになったのか――。そこには地方都市に住む女性ならではの視点がありました。

結婚から3週間で夫が退職! やむなくプログラマーに復帰

――吉谷さんが起業に至ったいきさつを教えてください。

文系の短大を卒業後、地元の会社でいわゆるOLをしていましたが、パソコンが好きだったので、24歳のときプログラマーに転職しました。でも一生仕事を続けるつもりはなくて、夢は結婚して専業主婦になること。それで29歳のとき、同業だった夫と結婚、晴れて専業主婦になりました。

ところが結婚して3週間目に、夫が体調を崩して仕事ができなくなってしまったんです。前の会社に戻ろうかとも思ったのですが、辞めて3週間ではさすがに言い出し難くて……。そこでフリーのプログラマーとして仕事を再開。幸い、お仕事をくださる方もいて、夫も自宅での作業はできたので、ふたりで仕事をするようになりました。

そのうちにだんだんリピートで仕事をくださるお客さまも増え、ふたりではこなしきれないようになり、知り合いのフリーターや無職の人にプログラミングを教えて手伝ってもらうようになったのです。

――会社にしたのはどのタイミングで?

15年前です。といっても、父がたまたま持っていた休眠会社をそのまま使わせてもらったので、起業というよりやむなく会社にしたという感じですね。だから依然として社長になるというイメージが持てず、代表取締役になったのはそれから5年も経ってからです。

リーマンショック襲来と同時に第1子妊娠。大きなお腹を抱えて東京へ

――東京にオフィスを開設したきっかけは?

リーマンショックです。社員の半分くらいがまったく仕事がない状況になり、東京に行けば何とかなるかもしれないと、東京で営業を始めたのが2009年。不思議なもので、そんなタイミングで第一子を妊娠。臨月のお腹を抱え、お客さま先で「発注いただけなかったらここで産みますよ!」くらいの勢いで営業していました(笑)。

やがて東京オフィスを構えることができるまで業績も回復。昔はフリーターだったり無職だった若い子たちも、いいエンジニアに育って来ていたのですが……。ここでまたちょっとしんどいなと思うようになって。というのも、今まであまり感じなかったこと、言い方は悪いけれど、いい学校を出てないとか元フリーターといった、私たちのもともとのバックグラウンドを意識せざるをえなくなったんです。

――それはつまり、「IT業界も他業界同様、現状では学歴や職歴がモノをいう世界だった」……ということですか?

そうですね。本来、IT業界というのは、価値あるサービスやシステムを作れるなら、学歴や年齢、人種といったことから比較的自由な職業のはず。ですが、日本の一般的なIT業界も他の業界同様、大企業を頂点に下請けがあって孫請けがあって……という大きなピラミッド構造になっています。私もそのピラミッドを上っていこうと一生懸命やっていたのですが……。だんだん仕事の内容より、大きな声で折衝するノウハウとか、ポジショントークの上手な人の方が有利な気がしてしまって。

そのころから、声の大きさよりも、きちんと価値のあるものを提供できる人が主導権を握って、お金を得られる仕組みを作りたいと考えるようになりました。

「千人の未経験者をエンジニアにする」発想の背景

――フロイデではフリーターや無職の若者など、未経験者を積極的に採用していますね。

会社では私は経営者ですが、家に帰ればふたりの子どもがいるママ。会社とはまったく違うネットワークで知り合った人の中には、すごく苦しい思いをしている人が少なくありません。特に地方では、何かの事情で一度踏み外してしまうと、セーフティーネットが機能してないことも多い。情報もなく、限られた選択肢のなかでダブルワーク、トリプルワークしながら子育てしているシングルマザーなど、なぜこんなことが許されているのかと腹立たしいことがいっぱいあります。

そんな状況を見ながら、自分や会社にできることは何だろうと考えた結果、出た答えが「無職やフリーターを含む千人の未経験者をエンジニアにする」というミッションでした。千人の無職やフリーターがエンジニアになり、結婚したら2千人、子どもがひとり生まれたら3千人、家族や兄弟も含めたら1万人の人生が変わるかもしれない。

1万人といえばほぼ夕張市の人口です。それだけの人の人生が良い方向に変わったら、社会にインパクトを与えられる。学歴も若さもない普通の主婦の私だからこそ、そしてそんな私が興した会社でそのミッションをなしとげるからこそ、世の中に与えられるインパクトとメッセージがある。それこそが私のロール(役割)であり、私やフロイデという会社の社会に対するベネフィット(価値)だと思ったのです。

――そのミッションを掲げてから、何か変化はありましたか。

1年前にこのミッションを出してから、いろんな人が力を貸してくれながら「ここを助けよう、これを何とかしよう」という話が来るようになりました。実際、国内はもちろん、最近まで戦争状態だった中東の国や東南アジアなどで、フロイデのシステムでエンジニアを育成するプロジェクトが始まりつつあります。

ネットワークがあれば、どんな状況でも事業を継続できる

――フロイデでは、エンジニアを育成しながら、同時に転職や独立も積極的に支援していますね。

無理やり会社に囲い込むより、うちにいたエンジニアがほかの会社に行って、うちに仕事をくれたり、面白い仕事だから一緒にやろうといってくれたりする方が、みんながハッピーになれると思いませんか? 世の中に価値あるものを提供できるエンジニアを育てて外に送り続ける限り、再びリーマンショックのような状況になっても、その「絆」で私の会社は生きていける。持続可能なエコ・システムの発想です。

――育成にはどのくらいの期間を充てているのですか。

フロイデではエンジニアの育成を、Off-JT(座学)とOJT(仕事で学ぶこと)の両輪で進めます。Off-JTの期間は3か月。ただし必ず「成果物を出して誰かを幸せにするのが目的の仕事」を用意して、Off-JTとOJTが確実に紐づくようにしています。

他のIT研修企業の方からは「ふつうは2年間でやる内容ですね」と驚かれるほど、かなりギュッと詰まっていますが、そこをクリアしないと次の仕事につながらないのでみんな必死です。

ただ、私自身が、パソコンは好きだったのにセンスがなくて、技術を習得するのにかなり苦労したんですね。だから初心者がどこでつまづくか、手に取るようにわかる。それもあって、未経験者でも引き上げていくことができるのだと思います。

――産休や育休、時短勤務や在宅ワークなどの制度も充実していますね。

小さい子供や介護があってあまり家を空けられない人も、今はITの技術があれば自宅で仕事ができる時代。そのためにITをどう活用し、どんなサービスを作ればいいか。有名大学卒のエンジニアが知らない世界を知っている、元フリーターや元無職だからこその発想で、新しいインターフェースを提供できる可能性があると思っています。

自分も含めた、みんながハッピーになれる働き方を

――学歴や経歴不問となると、採用の基本は面接だと思いますが、最近の応募者やビジネスパーソンを見てどう思われますか?

残念ですが、多くの人が、ベクトルが「内向き」になっていると感じますね。ビジネス雑誌などで、よく「僕の市場価値」とか「私のキャリア」という言葉を見ますが、「自分の~」というとき、ベクトルは自分自身に向いています。自分の評価にばかり目がいっているから、ついお客さまの顔色や社内政治といった、よけいな部分が気になってしまう。

私がそれに気が付いたきっかけは、ゲスな話ですが、お金です。なんのために仕事をするか。それはお金を稼ぐためですよね? つまり、会社、ひいてはお客さまからお金をいただくからには、それ以上の価値を提供しないといけない。そのためにはどんどん新しいことを取り入れなくてはならないし、つねに勉強しなくてはならない。そう考えられるようになると、自然と成長につながります。

また、働いてお金を得るということは、逆にいえば「この人は支払ったお金以上の価値を提供してくれるだろう」と、誰かに期待されているということでもあります。簡単にいうなら、給料の分、ちゃんと働いてね、という期待ですね。それに応えるためには、今の自分の実力を見つめる必要があるし、ときには自分自身を変革しなくてはなりません。

――自分を見つめるって、意外と勇気が要りますよね。

それが怖くて「私なんて」と言う人も多いと思いますが、それは一種の思考停止。「私なんて」と言ったとたんに守りに入り、新しいことができなくなります。私自身、会社にしてから5年も代表取締役にならなかったのは、「私が社長なんて」と逃げていたから。でもその期待から逃げているうちは成長はないと、今ならわかります。

失敗したくないからやらない、ではなく、まずやると決めてから、そのうえで出てくるリスクやコストにどう対処するかを考えればいい。人の力を借りる大切さもよくわかるようになります。

そのうえで、自分も含めたみんながハッピーになるにはどうすればいいか、考えて欲しいですね。「自分なんて」と言いながら、一方で「自分はこんなに時間を使って辛い思いをして頑張っているのに!」と苦しい顔していたら……。本人は良くても、家族は? 部下は? そんなリーダーについていきたいと思うでしょうか。

――子どもに「お父さんみたいになりたくない」と言われそう。

大切なのは、「ベクトルは外に向けつつ、ハッピーの価値観の中に自分や自分の家族もちゃんと入れる」ということ。特に今、リーダーの立場にいる人には、ぜひ一度立ち止まって考えて欲しいですね。

それから若い人には、就職にしろ転職にしろ、「自分が提供する価値あるモノでお客さまや誰かが幸せになって、自分もハッピーになる」ということを、真剣に考えて欲しいと思います。

吉谷 愛

1972年生まれ、福岡県出身。プログラマー、専業主婦を経て、現在はフロイデ代表取締役社長。システム開発を手がけながら、現在は技術講師としてエンジニアの育成にも努めている。著書に『土日でわかるPHPプログラミング教室』(SBクリエイティブ)など。

文・小野千賀子

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