Lucile Hadžihalilović『Evolution』Interview

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少年と女性しかいない島。その島ではすべての少年たちに謎の医療行為が施されている。主人公の少年ニコラはその自分を取り巻く世界に疑問を抱き、謎を解こうとする。本作『エヴォリューション』の脚本、監督をつとめたルシール・アザリロヴィック。96年にカンヌ国際映画祭「ある視点」で上映された『ミミ』、そして2004年に公開された『エコール』、そして今作でもどこか仄暗い、タブーを覗いているような背徳心、そして生々しくありながらファンタジーとい相反するエレメントを美しい映像にとじ込めてきた。グリム童話がただのお子様向けの物語ではないように、彼女のストーリーには一つの側面では語ることのできない複雑さが存在している。ルシール・アザリロヴィックへの直接のインタビューは彼女の瞳から感じられる知的さ、奇才で繊細なイメージがあったため緊張を伴った。しかし実際の彼女はシャイで可愛らしく少女のようでありながら、小さなウィットを自然と会話に含ませる天才だった。「進化=エヴォリューション」というタイトルに込められた思い、制作の裏話など、この美しい「悪夢」を存分に堪能して欲しい。

―前作『エコール』から10年、待ちに待ったこの作品を心待ちにしていたファンも多いと思います。

ルシール「『エコール』から10年間のブランクがありました。でもその10年間は必ずしもこの映画のシナリオを書いたり、撮影や制作にかけた時間というわけではなかったんです。なかなか予算が得られなくて、それを準備しているうちにどんどんと時間が経ってしまって。やっとカタチになりました」

―どの映像もとても奇妙で、かつとても美しい世界でした。生み出す、イマジネーションやアイデアを教えてください。

ルシール「奇妙な世界と言われることは多いけれど、奇妙ではありながら、見ている人たちにとって、何かどこか親しみを覚えて欲しい、そういう世界であって欲しいなと思ってます。私自身はこの映画の役である年齢の子供たちが感じることを普遍的に扱ったつもりでもあります。観客自身の子供時代との共通点を作品から見出してくれたら嬉しいです」

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―前作『エコール』では森が舞台で、今作では海が舞台となっていますが、ルシールさんは海に対する何か強い思い入れなどあったのでしょうか?

ルシール「私はモロッコで生まれ育って、そこには海がありました。子供時代は海のそばで過ごしていて、ずっと身近なものでした。ただ私が過ごした海は大西洋だったので、波が荒くて、海に入って泳ぐってことはなかったのですが。それでも、日常的に海には行って、親しみがあります。海というのは自然の力を感じさせるものですし、想像力を広げていくのに恰好の場所だと思いますね」

―とても美しい光景で、同時にとても怖くもあります。この撮影場所は具体的にどこだったのでしょうか?

ルシール「撮影したのはスペインのカナリア諸島のひとつの島で、地理的には私が過ごしたモロッコが海の反対側にある、そんな場所です。観光化されていなくて、少しさびれていて、そんな光景が映画の世界観と共鳴したと思います」

―普段はパリに住んでいらっしゃると思うので、パリから離れての、カナリア諸島での撮影は大変でしたか?

ルシール「撮影のロケーションにはパリから飛行機で3時間くらいで到着するのでそれほど遠くは感じなかったですね。予算が限られているので、パリから持っていくものも制限されていて、予想よりも大変な撮影ではなかったんです。カナリア諸島ではコーディネーターの方が現地で案内してくれたのも助かりました。それでも水の中での撮影はやっぱりそれなりに苦労しましたね」

―ルシールさん自身も監督として支持するために水の中に入ったりしましたか?

ルシール「私はダイバーの資格も持ってないし、そもそも泳ぎも得意じゃなくて。撮影監督もダイバーの資格を持っていなくて。唯一、カメラマンはダイビングの資格がある人だったのですが、その場ですぐに撮影したものを確認することもできず、それがとても大変でした」

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―少年ニコラのマックス・ブラバーは泳ぎが上手だったんですか?

―マックスはオーディションで選ばれたんですよね?

ルシール「とにかく演技の経験がある男の子は避けたくて。キャスティングディレクターの女性がパリのスウィミング教室に募集をかけたり、ずいぶん長い時間をかけて探したんですけどなかなか見つからなくて。知り合いの知り合いにブリュッセルでキャスティングをやっている人がいて、その人がマックスのビデオを見せてくれたのがきっかけですね。それを見て、彼が持っているか弱い部分であったり内向的でダークな表情に惹かれ、実際に他の男の子と演じてもらって、彼にカリスマ性を感じてニコラ役に抜擢しました。でも、実際撮影を始めると、マックスは明るい性格でよく笑う子だってことが判明して!ニコラ役は不安げで、笑うシーンは皆無だし、マックスがニコラの役になりきれるか正直心配にもなりました(笑)」

―完成した映画を見る限り、そんな心配はいらなそうでもありますが。

ルシール「そうなんですけど、カットとした次の瞬間にはもうゲラゲラ笑っているって感じで、困ってしまいました」

―彼にはどんな演技指導をしていたんですか?

ルシール「マックスも含め、子供たちには脚本を読んでもらうのですが、ストーリーに対して興味を持ってもらうことは至難のワザで。そうなると彼らには撮影に楽しく参加してもらうのが重要になってくるのですが、子供はすぐに退屈になってしまうので、集中力を持続させることが一番難しかった。私は彼らに「とにかく、無表情でニュートラルでいなさい、なにも表現しなくていいから。」と伝え続けました。夢遊病者のように目を開けて眠っているような、ニュートラルな表情でいることで、観客は自分の感情を役に投影しやすいはずだと私は思っていました。だから子供たちに対して細かい演技指導などはしてないんです」

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―ルシールさんは初期から今までの作品が連続して子供が主役ですよね。それにはこだわりがあるのでしょうか?

ルシール「どうして子供を主役として毎回使うのかっていうのには明確な理由は自分自身も分からないんです。もしかしたら自分の子供時代に大きな心の動きがあったりしたかもしれないけれど、精神分析を受けてみないとそんなことは分からない。でもいわゆるティーンエイジャーに達していない子供というのは、何もかもが初体験で非常に感受性が強い。物事に対して敏感であるというところから、彼らの目を通して何かを描くことに私は強く惹かれています。子供というのは驚きに満ちた生き物ですし、生き生きとしていて、人々の心を動かすパワーを持っている。演技指導はできないけれど、そこもまた愉しさでもある」

―手術のシーンはグロテスクでありながら、とても神秘的でした。ご両親が医療系のお仕事をしていたということで、それの影響もありますか?

ルシール「安心してください。私の両親は病院に勤めていたのですが『エヴォリューション』で描かれているような手術を親からは受けていないですよ(笑)ただ、親が働いている病院にはあまり行かなかったんですけど家の中で病院の話を聞いていたので、無意識にそれを映画で描きたくなったのかも。まだ両親にこの映画は見せてないんですけど、もし彼らが見たら「娘はこんな風に僕らのことをとらえてたんだって」びっくりさせちゃうかもしれませんね。実は私の父親は産科医だったんです。それでよく、小さい時に周りの子供たちから「君のお父さんは病院で子供を産ませてる!」ってことをよく言われてました」

―映画監督として自分の性別を意識することはありますか?

ルシール「映画を撮っているときは女性というよりは、ひとりの人間として私自身として映画を撮っているつもりなので、私自身は女性監督というカテゴリー化されることは好きじゃないんです。それに『女性監督映画』というジャンルがあるとは全く思ってません。フランスではないですが、国によっては女性であることが映画を撮ることの弊害になることもあると思うし、理解もできます」

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―この10年間で映画を撮る視点が変わったりしましたか?

ルシール「私自身の変化は特になくて、『エヴォリューション』、そしてもう一つのプロジェクトをとにかく完成させなければ!と必死でした。この10年で私自身にさほど変化は無いのですが、フランスの映画を取り巻く環境には変化があったと思います。実際、予算が集まりにくい環境にはなってきたかなと思います。10年前と比較すると、こういう映画を撮るのに賛同してくれる人が以前よりも少なくなったなと感じます」

ルシールさんが映画監督になりたいと思ったきっかけはどんなことでしたか?

ルシール「10代の頃に映画館に通うのが楽しくて楽しくて。15歳くらいの時に同い年の女の子の友達がいて、やっぱりその子も映画が大好きで、二人で映画について語り合ったり、こんな話のストーリーがあったら面白いよねって、湧き出てくるアイデアを共有したりして、その時の経験が私を映画に向かわせたきっかけだったのだと思いますね。その時はホラー映画や幻想映画みたいなものに夢中で、特に70年代のイタリアのホラー映画の先駆者であるダリオ・アルジェントの大ファンでした」

―映画のタイトル『エヴォリューション』に込められた思いを教えてください。

ルシール「種の進化、哺乳類がもともとは海の生き物で、生物学的な進化をするというところからこのタイトルが浮かんできて。それに加えて少年ニコラの心の成長という意味も含ませて、ダブルミーニングなタイトルにしました。生物が進化する、そこにはまだ解き明かされていない不思議な魅力があるんです」

interview&text Sumire Taya
edit Ryoko Kuwahara

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『EVOLUTION』
2016年11月26日(土)より、渋谷アップリンク、新宿シネマカリテ(モーニング&レイト)ほか全国順次公開

少年と女性しかいない、人里離れた島に母親と暮らす10歳のニコラ。その島ではすべての少年が奇妙な医療行為の対象となっている。「なにかがおかしい」と異変に気付き始めたニコラは、夜半に出かける母親の後をつける。そこで母親がほかの女性たちと海辺でする「ある行為」を目撃し、秘密を探ろうとしたのが悪夢の始まりだった。秘密の園の少女たちの世界を描いた『エコール』から10年。原始的な感情を呼び覚ます圧倒的な映像美でルシール・アザリロヴィック監督が描く、倫理や道徳を超えた81分間の美しい“悪夢”。エヴォリューション(進化)とは何なのか…?

トロント国際映画祭 正式出品
サン・セバスチャン国際映画祭 審査員特別賞・最優秀撮影賞受賞
ストックホルム国際映画祭 最優秀撮影賞
ナント・ユートピア国際SF映画祭 最優秀撮影賞
ジェラルメール国際ファンタスティック映画祭 審査員賞

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脚本&監督:ルシール・アザリロヴィック『エコール』(2004)『ミミ』(1996)
出演:マックス・ブラバン、ロクサーヌ・デュラン、ジュリー=マリー・パルマンティエ 他
撮影監督:マニュエル・ダコッセ/美術監督:ライア・コレット
配給・宣伝:アップリンク
(2015年/フランス、スペイン、ベルギー/ 81分/フランス語/カラー/スコープサイズ/DCP/原題:EVOLUTION)
© LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015​

【公式サイト】http://www.uplink.co.jp/evolution/
【公式Twitter】https://twitter.com/evolution_movie
【公式Facebook】https://www.facebook.com/evolutionmovie.jp/

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