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米大統領選挙を見て、日本人が憧れる国民投票の怖さを考えた

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 アメリカ大統領選挙の結果は日本人も驚かせた。フリー・ライターの神田憲行氏が、「一発勝負の投票」の怖さを考える。

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 一発勝負の国民投票は怖いなあ。アメリカ地図がトランプ氏支持の赤色に塗り変えられていくのを見て、そう感じた人は多いのではないだろうか。正確には大統領選挙は直接選挙では無く得票数もクリントン氏の方が多いが、実質的にはそのような形になっている。イギリスのEU離脱のときと同じように、メディアはこれから起きる変化よりも、なぜこういう予想と違う事態になってしまったのか分析に熱心である。

 私は選挙速報をネットで追いながら、この間読んだ論考にあった「投票箱革命」という言葉を思いだしていた。

 それは雑誌「世界」11月号に掲載された佐藤史人・名古屋大学准教授の「憲法改正権力の活躍する『立憲主義』 ハンガリー基本法の世界」である。ハンガリーは2010年の国会選挙で中道右派のフィデス=ハンガリー市民同盟が連立する他党と3分の2を超える議席を得た。党首のオルバーン・ヴィクトルは、強い指導力を発揮するポピュリスト政治家として知られ、

《彼は、選挙の勝利を『投票箱における革命』と呼び、首相として自らの政策を矢継ぎ早に実行した》

 それが13回に渡る憲法改正と新憲法制定だった。その内容は、

《ハンガリーの歴史的、民族的背景にこだわり、家族や共同体などの集団の役割を強調する》

 婚姻を「男と女の結合」と定義し、胎児の生命が受胎のときから保護されるとも定めた。個人の自己決定権への国家の介入を強めた。またホームレス取り締まり政策が憲法裁判所より違憲判決が出されると、憲法にホームレス取り締まりの条項を組み込んだ。

 こうした動きは欧州委員会から強い懸念が表明されたが、その後、ポーランドにも「ワルシャワにブタペシュトを」というスローガンを掲げる政党が政権を握った。ワルシャワはポーランドの首都、ブタペシュトはハンガリーの首都である。

 もちろんトランプ氏の政権をこのような政府と同一視することはできないが、ハンガリーの政権が誕生した背景のひとつに、ハンガリーが外資を積極的に受け入れて世界金融危機が直撃して経済が後退したことが挙げられてる。

 また移民受け入れに否定的で、個人の性に関する自己決定権への介入など、トランプ氏と似ているところもある。グローバリズムが世界を覆ったいま、世界で同時多発する反発もただの偶然ではないだろう。

 さはさりとて、トランプ氏ができることは、言ってみれば所詮、憲法の枠内である。日本は憲法改正という「国民投票の一発勝負」で、その枠そのものを変えようとしている。改正内容によっては、戦後の日本人が経験したことがない衝撃波が列島を襲う。それも長く。

 国民投票の経験が無い日本人は、自分たちの意見が直接、国政の選択になることに憧れのようなものがある。直接民主主義という響きも良いし、これまでの全てをテーブルごとひっくり返すのもカタルシスの発散になりそうだ。一時の快感がどのような事態を引き起こすのか、これからのアメリカを注目していきたい。

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