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世界各地の「信仰」について描くドキュメンタリー『SACRED~いのちへの讃歌』 ティーチインにトーマス・レノン監督&森達也監督登壇

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11月1日、東京国際映画祭にて、ドキュメンタリー作品『SACRED~いのちへの讃歌』がワールドプレミア上映され、終了後、本作の監督、トーマス・レノンと、『A』(98)、『FAKE』(16)などを手がけた映画監督・森達也がティーチインに参加した。

ワールドプレミア上映ということで、レノン監督はまず「皆さん、お越しいただいてありがとうございます。今の気持ちなのですが、私にとっては、2年半の長い旅路がやっと終わったということで、本当にここに来られて素晴らしいと思っています」と喜びを語った。

森監督は、「普段は、薄暗いところで、ゴソゴソと、薄暗い映画を撮って、小さな薄暗い映画館で上映していますので、こういう晴れがましい場所はなかなか縁がなくて。東京国際映画祭、今まで僕を呼んでくれたことはないし、今年は『FAKE』で話題になったから呼んでくれるかと思ったら、呼んでくれなくて。”誰が行くもんか”と思っていたんですが、司会をやっている内野さん(本作のプロデューサー)からこの映画をどうしても観てほしいと言われて、観て、来ることを決めました」とティーチインに参加したいきさつを明かす。

本作は、あらゆる人々の日常に数多存在する”祈り”や”信仰”の経験を紡ぎ合わせ、その大切さを探っていく作品だ。森監督は「宗教は大昔から人類の発生とほぼ同時にありますね。生き物がたくさんいるけど、宗教を持っているのも人類だけです。でも、その宗教が歴史的にもいろいろ争いのもとになってきて、今、そういったことがとても色濃く大きな問題になっています。特に僕の場合、オウム真理教のドキュメンタリーも撮っていますし。宗教というものは今、いろんな意味で考えなければいけない大事なものだと思っているので。とにかくこの映画は一人でも多くの人に観てもらいたいと思って今日ここにきました」と本作を推薦する。

トーマス・レノン監督
自身が製作として携わった、中国のエイズ孤児の姿を映した短編ドキュメンタリー『中国 エイズ孤児の村』(06)でアカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞を受賞したレノン監督は、欧米では社会派のドキュメンタリー監督として知られるが、本作では、「信仰とは何か」「人はなぜ祈るのか」という壮大なテーマにチャレンジした。「過去15年の新聞記事を眺めていると、宗教がいろいろな問題を起こしていることがよくわかります。私の周りの人たちの議論では、どちらかというと社会的、あるいは政治的なコメントだけにとどまってしまいます。森さんは例外ですが、彼以外の人は、実際、宗教の経験や、それにどんな効果があるのか、どういう風に私たちに対して働き掛けをするのか、ということについて語っている人は非常に少ないです。ジャーナリストのほとんどが、ある方向に行っているときに、違う方向に行くのは、非常にいいことだと思います」と本作を作り上げた思いを述べた。

世界中から40もの制作チームが参加し、各国のクルーがそれぞれのロケーションを物語の1シークエンスとして担当、取材対象の個人的なシーンや大規模な祭事などの撮影を丹念に行い、世界中の”神聖なる営み”を、まるでひとりの人生物語のようにまとめ上げた本作。レノン監督は「世界中すべてを覆うようなプロジェクトを、私のニューヨークのオフィスを一歩も出ないで作るという、こういうやり方を誰もしたことがないと思いますし、できるかどうかわからなかったのですが、やってみました。どうやったかと言うと、インターネットを使いまして、世界中の映画製作者にコンタクトしまして、まずどういうシーンを作りたいか、この映画にはこういうシーンが必要だろう、ということ全部の順番を決めて、そしてそれぞれのローカルな地元の、映画製作者にコンタクトをとりまして、彼らは地元の文化、宗教、信仰などについて私よりももっと詳しいと思いますので、彼らにそのシーンを撮ってもらう、ということで、非常に珍しいやり方をしまして、こんなやり方で映画が作れるのか、と思いましたが、作れたと思います。結果がどうか、というのは皆さんに委ねたいと思います」と、本作を作っていく経緯を説明する。

森達也監督
森監督にとって、本作の印象に残ったシーンは、「とても大事なシーンだと思ったのが、アフリカで、女性がマンゴーを売りながら、”なぜ、神様がいるんだったら、貧しい人から殺していくんだ”と。”神なんかいない”と言っていた(シーン)」とのこと。「多分、普通の、信仰をテーマにした映画であればあそこはカットされていてもおかしくないですね。でも、トーマスは、そこを残している。その意味は、とても大きいと思います。たとえば最近では、日本でも東日本大震災のときに現地に行って、”神も仏もないものか”という思いをした人はたくさんいると思います。もし神がいるのであれば、神はときには本当に無慈悲です。でも、ときにはすごく優しいんですね。どちらかじゃないんです。いろんな面があります。だからそういた存在。信仰というものがそもそもでそういうものである、と。それを見る僕たちの意識によって全然変わってしまう。そうしたところを、あのシーンがあることで、構築されている、と思いました」と信仰に対する自信の思いを語る。

日本は、他国に比べて、宗教に対する信仰心を強く持った人が少ない。ドキュメンタリー映画『A』で新興宗教の実態に迫った森監督は、「日本は仏教国でしたね。でも明治期になって国家神道というものが成立して、戦争に敗けた後はそれが解体されて、天皇が人間宣言をして…という風に、政治権力が宗教をある意味で利用してきた、そういう歴史があります。だから空白地帯になってしまって、そこにオウム真理教のサリン事件が起きて。さらには2001年のアメリカ同時多発テロ、これは海を隔てた事件ではあるけれど、そういったものを見ながら、”宗教というのは怖い”という気持ちがとても強く刷り込まれました」と日本人が現代のような宗教観を持つに至った理由を分析する。

また「今、大学で学生に教えているのですが、まず、ゼミのときに学生に”モスクに行け”と言います。彼らはみんな嫌がり、”モスクなんて行ったら、帰ってこれないんじゃないか”と本気で言う人がいます。”行かないと単位をあげない”と言うと、みんな半分泣きながら行きますが、帰ってくると、みんなニコニコと”イスラム教徒、ムスリムの人というのは、本当にみんな穏やかで、ピースフルで、全然自分の思いと違いました”ということを報告してくれます。これが今の日本の現状ですね。だから、信仰を持つかどうかはともかく、”宗教とは何なのか”、リテラシー、それをもう少し僕は身につけなければいけないと思っています」と自身の経験を紹介した。

また、比叡山の修行僧が登場するシーンについての編集に関して、観客から賞賛の言葉と問いが投げられると、レノン監督は、「比叡山の修行僧のシーンは撮影するのも大変でしたし、許可を撮るのも大変でしたが、地元の方と共同制作をすることで、得られなかったチャンスが拓かれることもあるという良い例なのです。比叡山の方々は、外国の人が来て表面的な映画を作りたがることにうんざりなさっていました。ですが、今回、私たちは内野さんをはじめ、WOWWOWの方々が何ヶ月もかけて交渉してくださったおかげで、”ノー”を”イエス”にしていただきました。ということで、それがこの映画の最初と最後に来たわけです」と撮影秘話を明かす。

その問いについて意見を求められた森監督が「内容、特に編集についての質問って実は監督っていちばん答えたくないんですよね」「観たままなので、”そう思ったならそれでいいです”と言いたいんですけど。そう言ってしまうとなんか雰囲気が悪くなるのでいつも困っています」とコメントすると、会場には笑いが起こった。レノン監督が同意をすると、森監督は続けて「本音はあるんだけど、それはちょっと言葉にしたくない。せっかく映画で観せているんでね。言葉でそれを軌道修正しちゃったら意味がないと思っているんです」と真意を語る。

最後に、レノン監督は「別に専門家の方が来てこういう風に考えてください、とか、あるいは音楽によってここを幸せに感じてくださいということではなくて、観ている人がそれぞれ責任を持って感じていただきたい。私たちは映画にみなさんを引きずり込みます。そしていろいろ考えてくださいと招待状を渡します。招待しますので考えたり感じたりすることはご自分でなさってほしい」と締めくくった。

「SACRED~いのちへの讃歌」は2017年春WOWWOWにてプレミア放送


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