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楽天森さんとMicrosoft澤さんが語った、AI活用とセキュリティ研究最前線──楽天クリムゾンハウス・ツアーレポートも!

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ユーザーがコンテンツをカスタマイズできるデジタルサイネージ

前回の対談は、品川のマイクロソフトテクノロジーセンターを楽天技術研究所の森氏が訪れたが、今回は二子玉川の楽天クリムゾンハウスを澤氏が訪問する形で行われた。

楽天クリムゾンハウスは楽天グループの新たなグローバル拠点。楽天技術研究所もそこに本拠を置いている。初めてクリムゾンハウスにやってきた澤氏を迎えるのは、1階フロアの壁に映し出された「WallSHOP」。

ディスプレイ上に楽天市場で人気の商品を表示。ユーザー自身がコンテンツをカスタマイズできるデジタルサイネージだ。

ディスプレイと通りがかりの人のスマホを連動させることができ、もう少し詳しい商品情報を知りたいときには、スマホの画面をタップするだけで、スマホ側に商品ページを開くことができる。HTML5, WebSocket, Node.js 等 一般的な技術のみで構築され、専用アプリのダウンロードを必要としない。

これも楽天技術研究所の研究の一つであり、IoT時代に向けて、パブリック空間に設置されるデジタルサイネージとプライベート端末であるスマホの連携の重要性を唱えている。

デジタルサイネージ技術は何を実現するのか

:これを発展させたのがパリーグの東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地、楽天Koboスタジアム宮城で今年の開幕戦から展開されている「DYNAMITE BOAT RACE Inning」です。

野球場でなんでボートレースっていう話もあるんですが(笑)、観客がユーザ個人のスマートフォンに現れる応援ボタンを連打することで、レースの着順を競うというイベント。今年のデジタルサイネージアワードで2つの賞をいただきました。

サーバーはMicrosoft Azureを使っていて、Azureのスケーラビリティがあればこそ実現したサービスです。

:それは、ありがとうございます(笑)。

:楽天では、デジタルサイネージをリアルの世界とネット上のサービスのインタラクションを高めるタッチポイントとしてとらえ、、活用しようとしています。楽天技術研究所が提唱している「サード・リアリティ」と呼ばれるコンセプトの一部ですね。

楽天技術研究所はこのサード・リアリティを実現するためのものとして、3つの研究領域をおいています。ハイパフォーマンスコンピューティングの実現を目指す「パワー」領域、人工知能を使った自然言語処理(NLP)やデータマイニングを研究する「インテリジェンス」という領域。

そして、ユーザーとサービスのインタラクションやユーザーの技術環境について研究する「リアリティ」、それらを踏まえて「サード・リアリティ」がより実現してく基盤が整うと考えています。

ロマネ・コンティから金仏壇まで。的確な商品分類をする自然言語処理

:私たちは最初はインテリジェンス領域から研究を始めました。

それがいま楽天のサービスにどんな風に活かされているかというと、例えば楽天には4万店・2億アイテムにも及ぶ商品が出品されているわけです。

ただ商品説明は店舗さんにお任せしているので、ワインの「ロマネ・コンティ」一つとってもきわめて多彩な売り方がそれぞれ行われ、多様性にあふれています。

私たちは楽天市場全体で何本の「ロマネ・コンティ」が売れているのかを正確に把握しなければなりませんから、多彩な表現の中から商品データを構造化し、組織化する必要性がありました。

そのためにオリジナルの日本語形態素解析エンジンも作りました。いまそれはオープンソース化されていますけれど(RakutenMA)。日本語を正しく解釈して、要素に分解し、適切なカテゴリーに分けるということが、これでかなりの精度でできるようになりました。

しかしワインだったらまだドメイン知識が相当蓄積している分野なので比較的分類しやすいんですが、楽天には一体数百~数千万円もする「甲冑」とか「金仏壇」なんていう商品も売られています。そういう種類のものをどういう知識に基づいて分類・整理・構造化したらいいのか。

一昨年の記事でもちょっと触れましたが、楽天技術研究所はNLPにおけるブートストラップ法というアプローチを使って、少ない教師データからでもデータ項目を自動的に生成し、多様な商品カテゴリーを網羅しつつデータを組織化していく技術の開発に成功しました。

これがよかったのは、商品のカテゴリーが自動的にできるようになり、かつデータのミスも効率よく発見されるようになったということ。

とある日本酒の販売店がなぜか自社商品を「マフラー」のところに分類していたことがあるんですが、そのミスを当該技術を応用して自動的に補正することで売上げが17%伸びたという事例もあります。

:最近は出品用の画像から、商品のカテゴリーを自動判別する機能も実装されましたね。

:フリマアプリ「ラクマ」における「もしコレ!」機能ですね。ラクマの利用者は商品を出品するときは必ず商品カテゴリーを登録しなければなりませんが、これが結構ユーザーにとっては面倒に感じられるときもあります。

その手間を省くため、画像を認識して、推奨カテゴリーを自動的に表示する仕組みです。ディープラーニングを使った画像認識技術を使っています。

:こうしたAIエンジンも自前で開発されているんですか。

:そうです。商品データのカテゴリー判別には、NLPと画像認識技術の組み合わせが有効だと考えています。

こうした技術がさらに進めば、地方物産のように量は少なくて販管費はかけられないけれど、コアなファンがいるといった商品も、正しくその商品特性を理解して手間暇をかけずに市場に出せるようになるし、データ分析を通した顧客提案もできるようになります。

つまりロングテール商品を活性化させるためにも、私たちの技術は役立つはずだと思うんです。

ドライブスルーでの注文を音声認識し、キッチンに伝達

:マイクロソフトもAIの研究は当然やっていて、前回も、眼鏡に映った画像をディープラーニングの解析サーバーに送ると、自動的に映っているモノの名称や人々の感情までを音声で伝えてくれる、というコグニティブサービスの一例をご紹介しました。

楽天さんとの違いといえば、我々はそうした技術を顧客のサービス実現のためのあくまでも材料としている。

つまりAPIとして、広く薄く提供しているのに対して、楽天さんは実サービスに導入するための研究がメインというところでしょうね。

マイクロソフトの音声認識技術は、例えばこれはドライブスルーのハンバーガーショップでやりとりされる実際の音声データなんですが(と言って、ざわざわとした環境で録音された英語のやりとりを流す)、こういう環境下でも、AIは何がオーダーされているかをかなり精度よく聞き取れるようになってきました。しかも、そのデータをJSONのコードで吐き出す仕組みもできつつあります。

これができれば、オーダーの受付は音声認識のコンピュータがやって、その内容を即座にキッチンに流すという一連の作業も自動化できることになります。人間をつらくて面倒な仕事から解放することが、コンピュータの役目だし、私たちの目的ですからね。

ただ、やはりテキスト解析でも音声認識でも難しいのは日本語。翻訳エンジンを作っていた同僚が、「日本語を英語に訳すのは、中国語の17倍ステップが多い」と嘆いていたことを思い出します。

それでも日本にはオタク文化など、世界に通じるコンテンツ発信力がある。それを世界の人が求めている。日本人が一つひとつ英語に翻訳するのもありだけれど、できれば自動翻訳でやりたい。

グローバル市場において日本語をいかに理解してもらうかというのは、これからのテクノロジーの課題になります。

:これからはPCをキーボードやタッチパネルではなく、音声で操作するようになっていくはず。そのとき、音声を含めた言語処理がコンピューティングの中心技術になることは間違いありません。

私たちの日本語解析技術は、音声会話の分析にも応用できると思いますよ。

世界中のボットネット攻撃を分析するサイバークライムセンター

前回の対談では語りきれなかったテーマに、サイバー攻撃からどうやってビジネスを守るかというセキュリティの問題があった。

澤氏にはマイクロソフトテクノロジーセンター長という肩書きの他に、2015年に設立された「サイバークライムセンター日本サテライト」の代表という肩書きもある。

同センターはセキュリティ技術向上のためにどんな活動をしているのか。

:実はマイクロソフトに対するサイバーアタックは、世界で2番目に多いんです。では、1番目はどこだと思います?

:ペンタゴン(アメリカ国防総省)ですね。

:さすが、森さん。それだけ日々攻撃を受けているわけですから、我々には防御対策の蓄積が豊富にあります。

そのノウハウを世界の政府、警察、企業などと共有し、さらに研究を深めるための組織「デジタルクライムユニット」というのがマイクロソフトの米国本社にあって、これは収益を問われることのない非営利の組織です。

そのサテライトとして設立されたのが「サイバークライムセンター」。レドモンドの本社のほか、ワシントンDC、ベルリン、シンガポール、ソウル、北京、東京と世界に7拠点があります。

まずはこれを見てください(と、自分のPCを見せる)。全世界のボットネットの通信トランザクションをリアルタイムに監視する「サイバークライムセンター」のサイトです。

:おお、アタックがすごいですね。ボットネットは我々のインターネットライフの平和を壊す憎むべき犯罪だからなあ。

:全世界のボットネットの分布がたちどころにわかります。ブラジルやコロンビアなどの南米諸国のサーバーが攻撃拠点になって、北米の企業などをアタックしている。

もう一つは、エジプト、ナイジェリアなどアフリカ諸国から西欧諸国へという流れです。つまりお金のない国のハッカーが、お金のある国々を攻撃してお金をかすめとろうとしているわけです。

:こうして可視化されると、サイバー攻撃の実態がよくわかりますね。

サイバー攻撃の手口と行動分析に、AI技術を適用

:チーターは、獲物を狙うとき一番足の遅い奴を狙うといいます。サイバー犯罪も同じで、さまざまなリテラシーの人が大勢集まる“水飲み場”のようなところがターゲットになる。

まさに楽天市場のようなサイトは、そこでお金のやりとりが発生するわけですから、彼らの格好の狙い目ですよね。

:だからこそ私たちもセキュリティの研究に余念がない。他人のアカウント情報を奪って、本人になりすまして買い物をして現金化するアカウント・ジャック対策が目下の課題です。楽天単独ではもちろん限界がありますから、楽天のセキュリティ部隊は他の企業や時には警察・インタポールとも連携しながら犯罪者の行動分析などを行っています。

例えば、アカウント・ジャックの典型的な手口は、アカウントを奪うと、まずは安い買い物をしてカードが有効かどうかを確認。さらに住所変更しても問題ないかをチェックして、だんだん大きな買い物をするようになります。

また、犯罪者は集団でつるむ、つまり緻密に役割分担し、組織化されて活動していることが多い。CtoCのサイトなどでは、組織化された犯罪者集団が仲間内の出品者の評判を互いに誉めあって評価を高める。CtoCのサイトなどでは、組織化された犯罪者集団が仲間内の出品者の評判を互いに誉めあって評価を高める。

それで善良なユーザーを集めるわけです。偽の評価を信用したユーザーが大きな取引を行ったとたん、連中は忽然と消えていく。

そういう行動を分析し、犯罪の予兆を察知して対処していくことが必要で、そこにAI技術を活用していくことも楽天技術研究所の役割の一つだと考えています。

最近は内部データをグラフ構造化して、そうした行動を可視化するような取り組みもしています。つい最近、楽天グループがグラフデータ解析に長けたアメリカのベンチャーを買収したのですが、その技術をセキュリティにも活かしていければとも考えています。

時には身体を張ってサイバー攻撃を封じることも

:楽天さんのようなビジネスは実害が生じるから、最終的には刑法的な手段も使って対処せざるを得ないと思います。

ただ、サイバー犯罪というのは一般的にはそうした対策が取りにくいですよね。犯罪者と被害者、その間にあるデータセンターの所在地が別々だから、一国の法律では対処に限界がある。

そこで我々の「サイバークライムセンター」が何をやっているかというと、これは犯罪者が使っているサーバーを特定し、そこに立ち入り捜索をしているシーンですけれど(と、ビデオを見せる)、センターの技術捜査員が法執行機関と連携して、ボットネットのホストコンピュータを法的手段で停止させようとしています。

実は、これ、刑法ではなく、ボットネットがマイクロソフトの商標を侵害しているということで、民事訴訟で捜査の権限を得ているんです

センターは研究だけじゃなくて、実際の犯罪撲滅活動もやっている。技術捜査員の一人に聞いた話ですが、この種のサーバーはかなり物騒な地区に置かれていることもあって、ときにはマシンガンの弾が飛んでくることもあるんだとか。

私も捜査に誘われたことがあるんですが、銃撃戦に巻き込まれちゃうじゃ、と断りました(笑)。

:身体張っているんですねえ。

:我々はサイバー犯罪を許さない。世界の果てまで追い詰めるぞという決意を見せることは大切。結局、この手の犯罪は割りに合わないと犯罪者に思わせるのが一番ですからね。

クリムゾンカラーに染まるハウス内部をオフィスツアー

対談終了後、森氏は澤氏を楽天クリムゾンハウス内を案内してくれた。

楽天クリムゾンハウスは楽天のチーフクリエイティブディレクターを務める佐藤可士和氏がデザインを担当しているという。

「人とアイデアがオープンに行き交う場所」という、楽天が創業の頃から大切にしてきた、働く環境へのこだわりがつまったオフィスで、2015年6月から稼働している。

以下、オフィスツアーの様子を写真で紹介する。

会議室

会議室の什器はそれぞれみな違う。楽天市場には多数のオフィス用具の店舗も出店しており、そのデモンストレーションも兼ねている。書斎でくつろぐような雰囲気を醸し出す会議室には「ブルックリンスタイル」と名前がついており、インテリアデザインの提案も兼ねている。

朝会シアター

週1回行われている全社員参加の情報共有ミーティング「朝会」の会場。2000人を収容。国内外の50カ所以上を最新のビデオ会議システムでつなぐ。

レクチャーホール

ハーバード大のビジネススクールの教室を再現した16階のレクチャーホール。楽天技術研究所はここで世界中の拠点を結び、会議を開く。

ボードルーム

社員でもめったに入れないボードルーム(役員会議室)。三木谷社長らがここで重要事項を決済する。

カフェテリア

クリムゾンハウスだけで約1万人の従業員が働く。光あふれる見晴らしのよい社員食堂にはカフェも併設。朝昼晩の食事がすべて無料というから驚きだ。

フィットネスルーム、スパ、ヘアサロン、鍼灸コーナーまで

ランニングマシンから酸素カプセルまである「楽天フィットネスクラブ」のほか、マッサージや鍼灸施術が受けられるリラクゼーションスペース、ヘアサロンまで、至れり尽くせりのサービス。会社を自宅替わりにして住んでしまいたくなる。

クリムゾンクラブ

ゲストのおもてなしにも利用できる「楽天クリムゾンクラブ」。和・洋の懐石料理や鉄板焼き、寿司などを提供。楽天に出店しているショップのワインが揃うワインセラーも圧巻だ。

プロジェクターやビデオ会議システムを備えているので、楽天技術研究所は社長向けの研究発表ランチなどにも使うという。

(執筆:広重隆樹 撮影:刑部友康)

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