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映画「マネーボール」に学ぶ、非情な上司はアリ?ナシ?

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(C) 2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

映画は人生の教科書。日々の仕事や生活に活かしたい、たくさんの学びがつまっています。登場人物に共感し、感銘を受け、劇中のセリフやエピソードをふと思い出したりしながら、私たちはまた一段、深みのある人生を歩めるようになるのかもしれません。

さて、今回ご紹介する作品は実在の人物ビリー・ビーンをブラッド・ピットが演じた映画『マネーボール』。米メジャーリーグ、オークランド・アスレチックスのGM(ジェネラル・マネージャー)であるビリーは、統計学的見地から選手を評価し、戦略を立てる分析理論「セイバーメトリクス」を導入。低予算でチームを強化した敏腕として知られています。

今年のメジャーリーグは「ヤギの呪い」をかけられ、二度と世界一になれないと言われたシカゴ・カブスが108年ぶりの栄冠に輝くという劇的な幕切れを迎えましたが、ビリーが15年前から実践し、球界を席巻しながら「新たな常識」として定着していったセイバーメトリクスが野球というスポーツに深みを与えたことは言うまでもありません。

ただ、実話に基づくアスレチックス成功物語の影には、部下に理解されないビリーの「上司としての苦悩」がありました。性格は非情で横暴、オーナーと神様以外に耳を貸さないワンマン。そんな彼の「胸のうち」には、どういう思いが秘められていたのでしょうか。

元はドラフト1位で選ばれた「ハズレ選手」

ビリー・ビーン(ブラッド・ピット)はかつて将来を嘱望された選手のひとりでした。自身を訪ねてきたメッツのスカウトに「君のような5拍子そろった若者は珍しい」「スーパースターになれる」と口説かれ、奨学生として見込まれていた大学進学をやめてドラフト1位で入団。ところがデビュー以降は思うような結果を残せず、選手として見切りをつけた苦い過去があります。

そんな彼は引退後、チームコンセプトの策定や選手の入れ替えといった球団運営を取りしきるアスレチックスのGMに就任。2001年には見事、チームをプレーオフに導きます。しかし2連勝のあとに屈辱の3連敗。あと一歩のところで地区優勝を逃してしまいます。しかも悲嘆にくれるチームに追い打ちをかけるように、チームの中心選手だったジオンビ、デーモンらを資金力で優る他球団に引き抜かれる始末。

アスレチックスにおける所属選手の年俸総額は、地区優勝を争う競合ニューヨーク・ヤンキースのわずか3分の1であり、すぐれた選手を獲得できる資金的余裕はありません。チームのスカウト陣はジオンビたちの代役を見つけ出すと強弁するものの、ベテラン勢で占められた選考会議は個々の主観が飛び交うだけの単なる「お喋り大会」に。そこで頭を抱えたビリーがまず獲得したのは、なんと選手ではなく参謀でした。

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主観を排除する「データ主義」を導入

ビリーの右腕として招かれた弱冠25歳のピーター・ブランドは、名門イエール大学で経済学を学んだ野球経験のない素人。だからこそ野球界の常識にとらわれず、選手が持つ「本当の価値」をデータから読み解いていきます。たとえば塁に出るならヒットも四球も同等であり、打率より出塁率の高い選手こそが得点の可能性を高めるといった従来にはない考え方で、トレード市場で低い評価を受けていた選手の中から「使える戦力」を発掘していきます。

ただ、ビリーやピーター以外の現場スタッフは彼らの取り組みを理解しようとしません。経験と直感を頼りに仕事をしてきたベテランスカウトは「野球は数字じゃない」と猛反発。監督は「わたしの試合はわたしが舵を取る」と言い張り、ビリーとピーターが獲得した選手を頑として起用しません。チームの歯車は噛み合わず、開幕直後から黒星続き。諦めムードの選手たちはやけくそ気味になり、ロッカールームの雰囲気は最悪に。

それでもビリーの信念は揺らぎませんでした。客観的な分析をとことん貫くピーターを信頼し、彼と心中することを改めて決意します。たとえこの先、結果を出せず、GM職をクビになってしまうのだとしても。

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上司は非情であるべきか

選手や監督よりも立場が上の「上司としてのビリー」には、そのふるまいに賛否がつきまといます。たとえば選手にクビを告げる(トレードを伝える)ときもそう。選手個々の事情は一切汲まず、必要以上の情けはかけません。もっと選手に寄り添うべきではないかと戸惑うピーターに、ビリーはこう言ってのけます。

「死ぬなら即死がいいか、じわじわがいいか」

Would you rather get one shot in the head or five in the chest and bleed to death?

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直訳すれば「頭に一発ブチ込まれて即死するか、胸に5発撃たれて血を流しながら死ぬか、どっちがいい?」。つまり、どうせクビを言い渡すなら、まわりくどい表現や余計な気遣いはせず、単刀直入に必要な情報を端的に伝えてやればいいというのがビリーの考え。

そんな上司としてのビリーは、あまりに非情と言わざるを得ません。選手はロボットではなく人間なのですから、思いやりの欠片もない(ように見える)のは決して褒められた態度とは言えません。

しかしながら主観や個々の事情というフィルターを排除して、筋の通った指針で選手を獲得または放出していく姿勢は、プロの世界ではむしろ「フェア」。実力がない部下をそれ以外の理由で重用したり、不可解な理由で部下を干すような上司に比べればはるかに公平であり、ある意味で選手全員を思いやる気持ちの裏返しと言えるのではないでしょうか。

本当は非情に徹しているだけなのかも

現場スタッフに対しても、たとえ部下が経験豊富なベテランだったとしても、チーム方針が合わなければ容赦なくリストラするビリー。その言動は何かと誤解されがちですが、たとえ上司としては非情でも、人間として非情であるかどうかは別の話。彼は与えられたミッションを遂行する上で、実は非情に「徹しているだけ」かもしれません。

ただ表面的に接するだけでは、上司の真意や本来の人間性は見えてこないものです。ビリーには愛娘の助言には素直に耳を傾ける一面もあるのですが、そうした顔は決して部下には見せませんから。

ともあれビリーが「一緒に働きたい上司」に値するかどうかは、彼が最後に迫られる「究極の選択」と、それに対する答えを見届けてから判断してみてください。もしも自分がビリーだったら、どちらを選んでいたかなあ。

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『マネーボール』 発売中

Blu-ray ¥2,381(税抜)/DVD 1,410(税抜)

発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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文:松岡厚志

1978年生まれ、ライター。デザイン会社ハイモジモジ代表。ヨットハーバーや廃墟になったプールなど、場所にこだわった映画の野外上映会を主催していた経験あり。日がな一日映画を観られた生活に戻りたい、育児中の父。

イラスト:Mazzo Kattusi

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