40年続く老舗大衆食堂「力餅食堂」で、関西のローカルめし「木の葉丼」を食べる
関西限定の丼、「木の葉丼」とは
私は大阪市都島区に住んでいる。都島駅周辺はどちらかというと商店よりも住宅が目立ち、駅前もそれほど大きく発展しているわけでもなく、飲食店はチェーン系が多い雰囲気なのだが、自転車で走り回っていると、町の片隅に味のある大衆食堂が何軒も残っている。
ふらっと入ってみると、壁のメニューには、日替わり定食、トンカツ定食、焼肉定食、カツ丼、親子丼、きつねうどん、月見うどん、肉うどん、ライス、豚汁……といった定番ものが並んでおり、さて今日はどうしようかと悩むところなのだが、丼もののセクションに「木の葉丼」というメニューがある。
「木の葉丼」……。そういったものが関西にはあると以前聞いたような気がするが、どんな丼なのか想像ができない。
注文してみたところ、こんな感じであった。
細切りした蒲鉾と青ネギ、玉ねぎを卵でとじ、海苔を散らしてある。親子丼の鶏肉の代わりが蒲鉾になっているような感じだ。
ダシが効いた甘じょっぱいタレがご飯までたっぷりしみて美味しい。肉っ気がないので、それほどボリュームを感じず、食べ終わると、ちょうどいい量のものが胃に収まったような感じがした。
ヴィンテージ感あふれる「力餅食堂」
JR天満駅付近から中崎町の方へ抜ける「天五中崎通り商店街」沿いに「力餅食堂 中崎店」という大衆食堂がある。
ガラスケースの中に、天丼や肉うどんの食品サンプルが並ぶ、これぞ、という雰囲気の食堂である。
「力餅食堂」は、兵庫県豊岡市で饅頭店を営んでいた池口力造さんが、1895年に京都の寺町に出したお店が発祥。大正期以降、のれん分け制度で支店が次々に増えていき、一時期はおよそ180店もの「力餅食堂」が近畿・中国地方に存在したという。兵庫県豊岡市の饅頭店からの歴史を含めると、127年もの歴史を持つ大衆食堂の一大勢力なのである。
ここ「力餅食堂 中崎店」は、1977年創業。来年40周年を迎える老舗店だ。
両脇にテーブル席、中央に一人客用のカウンターテーブルが配された店内は、時間の蓄積を感じさせる調度品の風合いも味わい深く、心落ち着くムードだ。
壁には「力餅食堂」1号店の写真も。
さて、メニューを見てみると、あったあった「木の葉丼」。丼物の右から4番目にデーンと構えております。
早速注文させていただくと、運ばれてきたのがこちら。
細切りの蒲鉾と青ネギという点は一緒だが、こちらはシイタケも入っていて、「木の葉丼」という名前がよりしっくりくる見た目に思える。
卵はやや食感を残した具合に仕上げてあり、やはりここの「木の葉丼」も甘じょっぱいお味が箸をグングン進ませてくれる。
木の葉丼以外にも個性的なメニューが
「力餅食堂 中崎店」はご夫婦で営まれているのだが、穏やかで優しい笑顔が印象的なお店のお母さん・尾上英子さんにお話をうかがうと、「木の葉丼」は創業当初からのメニューだとのこと。「力餅食堂」はチェーン店とは違い、各店舗ごとにメニューや価格も違うので、全店で「木の葉丼」が提供されているかは不明だが、定番メニューであるのは確かだそうだ。
「木の葉丼」の名前の由来についてうかがうと「なんとなく、蒲鉾やシイタケが木の葉みたいに見えるからって聞きますけどね」とのお答え。これについては諸説があり、明快な答えは出ていないという。
「力餅食堂 中崎店」での「木の葉丼」の人気度合について聞くと「若い人はほら、カツ丼とか、お肉を食べたいでしょう? だから、『木の葉丼』はご年配の方が食べることが多いですねえ。まあうちはそもそもご年配のお客さんばかりですけどね(笑)」とのこと。「お店によってシイタケが入ってなかったり、いろいろあるみたいですけど、神戸からいつもうちに来て下さるお客さんがいて、その方はこのお店の『木の葉丼』が日本一や! とほめてくれるんです」という。私は今、日本一の「木の葉丼」を食べているのかもしれない。
また、「力餅食堂 中崎店」の名物メニューとして有名なのが、カレー麺。17年前に何かここにしかないメニューを、と店主の尾上保和さんが考案したものだという。「カレー麺ざる」「カレー皿うどん」の2種類がメインとのことで、「カレー皿うどん」の方をいただくことにした。
これである。
汁気はなく、うどんの麺にカレーのルーがかかっているようなもので、麺の色からもなんとなく分かる通り、麺にカレーが練り込まれているのだ。
ルーが結構スパイシーで、さらに麺自体にも辛みがあるので、相乗効果的な感じでなかなか辛い。コシのある麺をズルズルとすする。見た目のインパクトに反して、こんなものがあって当然だろうと思わせる安心感のある美味しさだ。
ちなみに「カレー麺」と「コーヒー麺」を組み合わせた「虎ざる」なんていうメニューもある。コーヒー麺はちょっと苦味があって美味しいそうだ。
名物は丹精込めて作る「おはぎ」
ここでお母さんに、「おはぎ作ってるところ見て行かれます?」と言っていただき、厨房を少し拝見。
ご主人が手際よく作っていくおはぎは、もともと饅頭店だった「力餅食堂」の定番メニューで、店頭で売られている。
ご主人に「『木の葉丼』を美味しく作る上でのコツ」について聞いてみた。
「いやーまあ、コツのようなもんは特にないですけど、好みに合うって言うてくれる人がいるのでありがたいです。結局は好みですわぁ。ここの(木の葉丼)が良いって言うてわざわざ来てくれる方もいますわ」
と、あくまで控えめに語るご主人の真面目な人柄が、きっとあの「木の葉丼」の美味しさに反映されているに違いない。
一時期は180店舗もあった「力餅食堂」だが、ここ数年、店主の高齢化や他の外食チェーンに押される形で閉店する店舗が相次ぎ、今では80店舗を切っているという。「力餅食堂 中崎店」のある北区にも4店舗あったのが廃業し、今ではここ中崎店だけになっているという。うれしいことに中崎店は娘さんが後を継いでくれるそうで、これからも安泰そうで安心した。
関西にお越しの際は、「力餅食堂 中崎店」の優しさを感じる「木の葉丼」をぜひ食べて見て欲しい。そして気に入ったら他のお店の「木の葉丼」と食べ比べてみていただきたい。お店ごとに細かい違いが見つかるはずだ。
お店情報
力餅食堂 中崎店
住所:大阪府大阪市北区中崎1-9-2
電話:06-6372-1458
営業時間:11:00~19:30
定休日:水曜日
※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。
書いた人:スズキナオ
1979年生まれ、東京育ち大阪在住のフリーライター。安い居酒屋とラーメンが大好きです。exciteやサイゾーなどのWEBサイトや週刊誌でB級グルメや街歩きのコラムを書いています。人力テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーでもあり、大阪中津にあるミニコミショップ「シカク」の店番もしており、パリッコさんとの酒ユニット「酒の穴」のメンバーでもあります。色々もがいています。 Twitter:@chimidoro
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