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認知症介護の主体は誰?自己満足の介護になる前に知っておきたいこと

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私が理学療法士になりたての頃、認知症を有する80代の女性が、私の所属するデイケアを利用することになりました。担当者会議の中で、「家ではベッドで過ごすことが多く、トイレや入浴の介護が大変だから、ぜひ歩けるようになってほしい」とのご意向を、ご家族からいただきました。

下肢筋力の向上もご家族の意向は…

まだ経験も知識も浅かった私は、この利用者様に対し一生懸命リハビリを行いました。なんとか伝え歩きができるまで下肢筋力の向上も図れ、ご家族も喜んでいるだろうと思っていました。しかし、状況確認のためご家族へ電話した際、思わぬ返答をいただいたのです。

「うちのおばあちゃんは歩けるようになって、徘徊が始まったのよ。前の歩けないときの方が良かったわ」

結局、ご家族のご意向により、この女性は施設へ入所となりました。高齢者が徘徊し、転倒、そして骨折し寝たきりとなる。よく報告されている事例です。ご家族は転倒による骨折も心配されていたのかと思います。

この利用者様はコミュニケーションも図れており、「散歩したい」が口癖でした。「主体はどこにあるのか」という事を深く考えたきっかけとなりました。

自己満足の介護が引き起こす問題

介護福祉士の定義に以下文章があります。

…介護者に対して介護に関する指導を行うこと
参照元:社会福祉士及び介護福祉士法第2条第2項

在宅だけではなく、施設に入居されている場合においても、主体は利用者様とご家族にあります。私が過去に経験したようにサービス提供者側が自己満足に陥ってしまうと、そのサービスは利用者を支配することに成り下がります。

病院や施設、在宅で完結される介護やリハビリテーションが全てではなく、その後を見越した展開が必要です。私自身の考えですが、介護やリハビリテーションは、利用する者とその家族の未来を創ることだと考えています。

利用者様とそのご家族が望むかたち(未来)をいかに創り上げていくか、また如何にそのかたち(未来)に近づけるかをさまざまな手段を用いて課題を解決し、創り上げていくことが必要だと思います。

利用者様とそのご家族の未来を創る

「多職種協同」という言葉があります。この協同には、さまざまな専門家がその知見に基づき利用者様に対してアプローチを行いますが、その「協同」の中に利用者様を含めるべきだと考えています。ただ話し合いの中にご利用者様やその家族を参加していただくだけではなく、利用者様と家族も「資源」として考えます。

勿論、過度な負担となるような取り組み方は避けるべきですが、主体が利用者様本人やご家族であるからこそさまざまなプランに取り入れ、「望まれている未来を創り上げていく」ことが大切なのではないかと思います。

ひとつの例ですが、私が以前働いていた施設では、利用者様に対して調理教室を定期的に開催していました。この調理教室には、ご家族の方にも参加していただきました。施設内の行事なので、「何故、わざわざ家族が参加しないといけないのか?」と、家族の参加が叶うまでは職員や家族の理解を得ることが大変ではありましたが、主体は利用者様とご家族であることを訴え続けました。

実際に家族が参加すると、利用者様の普段の生活の様子を知ることができました。包丁の使い方など、新たな課題を職員や家族、そして利用者様本人も把握することができるなど、課題に対する共通認識が高まりました。これがきっかけで家族の訪問回数が増加したりと、さまざまな好循環がうまれました。

主体は誰なのか明確にする

介護を展開する上において、主体が誰にあるのかを把握することはとても重要です。我々職員が行っている役割を、利用者様とそのご家族に担ってもらう。これは我々の仕事を放棄するのではなく、できることを伸ばす大切な要素であると思います。

私が以前行っていた独りよがりで自己満足なサービスの押し付けではなく、主体を見つめ、適切なサービスを提供させていただくことが求められているのではないかと考えています。

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この記事を書いた人

中村洋文

鹿児島県沖永良部島出身
介護福祉士 / 理学療法士 / 実務者研修教員/その他
病院、知的障害者施設、デイサービス管理者、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム等の医療・福祉施設にて勤務。現場だけではなく、行政側の立場としても市役所勤務の中で介護保険にも携わる。介護保険認定審査委員も歴任。現在、福祉系専門学校での講師及び居宅介護支援事業所、訪問看護等の介護保険事業を手掛ける会社の共同代表として活動中。介護医療現場、また行政側の様々な経験をもとに認知症高齢者本人とその家族の想いを教育現場や全国各地での講演会等で発信しています。

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