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中井貴一、棒読みで感情が伝わる俳優になることを目指す

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。現在公開中の映画『グッドモーニングショー』に主演する中井貴一の言葉から、俳優人生について語った言葉をお届けする。

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 中井貴一は、同時期に全く異なる演技を見せてきた。近年でもフジテレビのドラマ『最後から二番目の恋』で平凡な市役所職員を演じながら、NHK時代劇『雲霧仁左衛門』では貫禄の芝居で盗賊の首領を演じている。

「エンターテインメントは、常に緩急だと思っています。それは俳優人生も同じです。俳優の人生を一つの映画とした場合、そこにも緩急を考えながらお客さんに見せていきたい。

 僕は19歳で会社を作り、自分で判断したり、スタッフたちと相談しながら物事を決められる状況にありました。そうすると、どうしても選ぶ仕事が自分の好みに寄りがちになってしまうことがあります。なるべくそれを払拭して、それでも役の好き嫌いはどうしても出てしまいますが、その選び方に緩急をつけることで、お客さんに飽きないようにしていただきたいという気持ちは強くあると思います。ですから、軽い役と重い役とを配分してやっていくということは意識しているつもりです」

 そんな中井貴一が目指す役者像とは、どのようなものなのか。

「結局、自分は自分でしかありません。でも、どういう風にその味を変えられるかは考えています。最終的な狙いは、内面を変えることで、観ている方に外面まで変わったように見せたい。

 これは子供の頃から、おふくろに聞いていた話なのですが。小津安二郎監督が、祇園で六代目の尾上菊五郎さんと飲んだ時のことです。小津先生の前で菊五郎さんはだいぶお酒が進んで、踊りを始めたそうなんです。

 着ていた着物を脱いでふんどし一枚になって、そこにいた芸妓に三味線を弾かせながら踊った。最初は立役(男)で踊り始めて、途中から女形になり、最後はまた立役に戻る。

 それを見た小津監督がおふくろにこう言ったそうです。『でぶっとしたふんどし姿のオッサンが綺麗な女になったと思ったら、最後にまた男に変わっていったんだ』と。衣装を変えたら男が女になる──歌舞伎って、そんなもんじゃないんですよね。太った男がふんどし一丁でも、お客には女だと思わせることができる。それが歌舞伎役者だということを六代目は小津先生に見せて、先生はそれを受け取った。

 先生の映画もそうなんですよね。笠智衆さんがずっとセリフを棒読みしているように思えるのに、その中に常に感情があるようにお客には聞こえてくる。

 その話を子供の頃から聞いていて、見てくれを大きく変えることよりも、見てくれには大きな変化はないけれども全く違う人間に見える俳優になりたいと思いました。棒読みで感情が伝わる俳優になることを目指しています。物真似というわけではないですが、笠さんのように『みんなはどうしてる?』『そうかい、よかった』それだけで、どれだけ家族を心配するかを表現できる俳優になりたいですね。

 そのためには、今は声だったりとか言霊の大切さを意識しています。『サラメシ』という番組のナレーションをしていますが、あれもその通過点の一つです。声だけで、夜に観ている人の精神を昼に戻したい」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

◆撮影/五十嵐美弥

※週刊ポスト2016年11月11日号

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