『深夜食堂』のマスターが“通”な飲み方を伝授? 俳優・小林薫さんインタビュー
新宿ゴールデン街を思わせる飲み屋街の路地裏にひっそりとたたずむ深夜営業の「めしや」。
そんな「めしや」を舞台に巻き起こるさまざまな人間模様を描いた人気シリーズ『深夜食堂』が、11月5日公開の『続・深夜食堂』として、ふたたび映画館に帰ってくる。
▲「めしや」の店内。年季の入った雰囲気が味わい深い
営業時間は夜12時からとめちゃんこ遅いし、カウンターだけのこぢんまりとした店内は、ヤクザやら、ゲイバーのママやら、ストリッパーやら、やたらと事情通で世話好きなおじさんやらの、濃いめなキャラの常連さんたちでいつもいっぱい。
いちげんさんがフラッと暖簾をくぐるには、なかなかに勇気のいる店構えのこの「めしや」だが──。
▲メニューは「豚汁定食」のみ。酒も「3杯まで」が店のルール
顔にワケありな“疵”のあるちょっとコワモテなマスターは、正式なメニューは“豚汁定食だけ”と言いつつ、「できるものならなんでも作るよ」なんていう神対応すぎる営業方針で、客の胃袋を鷲づかみにしてしまう素敵な御仁。
▲この厨房からマスターが作る気取らない逸品が次々生まれる
エピソードごとに登場する客たちの「思い出」がつまった“飯テロ”感満載の美味しそうな料理の数々。そして、誰に対してもつかず離れずの絶妙な距離感で接してくれるマスターの存在……。そこから醸しだされる、いかにも居心地のよさそうなあの雰囲気には、思わず「飲みてぇ」、「食いてぇ」、「行きてぇ」と唸ってしまった人も、少なくないに違いない。
▲劇中のメイン料理ともなっている「豚汁定食」。これで600円なら毎日食べたい!!
そんなわけで今回は、もし仮に「この人が飲み屋のマスターだったら絶対行きたいランキング」があるなら、ぶっちぎりの1位に推したい『深夜食堂』のマスター役、小林薫さんに直撃インタビュー。ご自身のプライベートでのお酒の飲み方から、思い入れのある料理まで、“メシ”にまつわるお話をうかがった──。
私生活でも「酒は3杯まで」を実践!?
▲インタビューを快諾してくださった小林さん。やっぱりシブいっす!!
──劇中の「めしや」では「お酒は3杯まで」が決まりですが、小林さんご自身は、ふだんどんなお酒の飲み方をされているんでしょう?
自分ではあんまり意識したことはないんだけど、ビールを大きめのコップに一杯もらって、次に日本酒を一杯。そこから芋焼酎に変えて、2軒目でハイボールっていうのが、定番のパターンになってるみたい。焼酎だけをずっと飲んでると、どこかガラが悪くなっちゃう気がするから、たぶん最初に日本酒みたいな上品なものでホワーッとさせて、それを焼酎で一定に保ちたいんだろうね。
──あまり深酒もされないほうですか?
まぁ、そこには体力的な問題もあるからね(笑)。ただ、外で飲むときはやっぱり自然とテンションも高くなるし、一緒に飲んでる方たちが「これで終わり?」ってなるのも忍びないから、「もう一軒行こう」ってことでバーに行ったりはするよ。それでも、みんなにも予定はあるだろうから、だいたい12時ぐらいには締めるけど。
──お気に入りの銘柄などがあったりは?
それが、あんまりないんだよね。人から教えてもらったりしたときには、それを手に入れて飲んだりすることはあるけど、「コレ」ってものに決めなくても、美味しいお酒は日本じゅうにたくさんあるしね。いまは、新潟の『鄙願』っていう日本酒がウチにあるんで、「さて、これをいつ開けようか」と思ってるくらいかな。
──焼酎では、どうでしょう?
宮崎の『㐂六』(きろく)っていう芋焼酎をよく飲んでる。わりと有名だと思うんだけど、あらためて飲んでみたら、「旨いな」って見なおして(笑)。それを最後の仕上げで飲むのが、最近は好きだね。お店によってはプレミアがついていることもあるみたいだけど、ウチの近所の酒屋ではなぜだか普通に手に入るしね。
男子たるもの、食へのこだわりはもつべからず!?
▲マスターの顔の“疵”の詳細は不明。ヘタに詮索をしないのも「めしや」のよさ
── 一方、『深夜食堂』の魅力と言えば、やはり料理。劇中に登場するお客さんたちのように、なにか思い入れのある逸品があったりはしますか?
お袋の味みたいなことで言うと、やっぱり僕は出身が京都だから、青菜とお揚げの炊いたんとか、身欠きニシンとナスの炊いたやつとか、気の利いたネーミングもないような、いわゆる京都の“おばんざい”が真っ先に浮かぶかな。ふだん、そういうものがウチの食卓にのぼることはないんだけど、小料理屋なんかに入ったときにあったりすると、「おー、コレコレ」って感じでつい注文しちゃう。そういうときは「確かにこういう感じで食ってたなぁ」と懐かしい気持ちにはなりますね。
──「あると、つい」ぐらいの感じだからこそ、美味しくも感じるんでしょうね。
まぁ、僕は基本的に「男子たるものが食いものにこだわるのは慎むべきだ」って考えだから、その場にあるものが美味しく食べられたらそれでいいんだけどね。尊敬する諸先輩方がそうであったように、僕自身も「男がグルメを気取るのは軽薄だ」みたいな空気感を、どこかで「カッコいい」と思ってきた昭和の人間だからさ(笑)。ただ、『深夜食堂』みたいな作品が、いまの時代に「おもしろい」と言ってもらえているのは、そういったグルメ的な方向性とはまったく逆を行っているからって部分もきっとあるんじゃないかな。
「どこか欠けている」のが作品の味わいに
▲常連客が集う店内。それぞれが不完全だからこそ「味わい」も生まれる
──最後に、マスター役として足かけ7年。ドラマがリメイクされた韓国に続き、中国、台湾などでも人気を博す『深夜食堂』シリーズへの想いをお願いします。
演じるうえでも「マスターはあくまでも傍観者」という言い方を、僕はしているんだけど、こうしてアジアでの評判なんかを聞いたりすると、驚きもある反面、いい意味で「僕らの手を離れてるな」って気はすごくするよね。常連客も含めて、あの世界のなかではそれぞれの役割や位置づけみたいなものがすでにできあがっているから、もはや自分たちで「ああしよう、こうしよう」っていうのをあんまり考える必要がないって言うかさ。
──たとえばゴールデン街に行ったら、ホントにあるんじゃないかと思えるほどに『めしや』に集うみなさんは自然体ですもんね。
不破(万作)さんや綾田(俊樹)さんのような先輩もいるのに、こんな言い方をしたら怒られるかもしれないけど、あそこの常連客ってどこかが欠けていて不完全な人ばかりでしょ?(笑)。そういう「足りない部分」がうまく集まっていることが、『深夜食堂』という作品のもつ、味わい深さにもつながってるんじゃないかな。
観終わったあとに、なんとも心地いい余韻に浸らせてくれるのが『深夜食堂』シリーズの醍醐味。見るからに美味しそうな料理の数々に、「郷愁」という名のスパイスをさらに利かせた大人のファンタジーは、映画館の大きなスクリーンでこそ味わいたい。
【小林薫】
1951年9月4日、京都府生まれ。唐十郎氏が主宰した『状況劇場』で俳優デビュー。その後は、日本を代表する名優のひとりとして、映画・ドラマと幅広く活躍する。本作でもメガホンを執った松岡錠司監督とは、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞に輝いた06年の『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』、08年の主演作『歓喜の歌』でもタッグを組んだ間柄。
【作品情報】
映画『続・深夜食堂』2016年11月5日、全国劇場公開!!
書いた人:鈴木長月(すずきちょうげつ)
1979年、大阪府生まれ。関西学院大学卒。実話誌の編集を経て、ライターとして独立。現在は、スポーツや映画をはじめ、サブカルチャー的なあらゆる分野で雑文・駄文を書き散らす日々。野球は大の千葉ロッテファン。 Twitter:@chogetsu_suzuki note:chogetsu_suzuki
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