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介護職員が「喜び」「共感」「共有」を提供することで生まれる高齢者の絆

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ご高齢者や 認知症が進んだかたにも楽しんでいただける音楽会、「音楽の花束」を主催しておりますGOTOです。

現在デイサービス「空の花 高井戸」で行っている研究では、音楽を利用することでチームでのケアがスムーズになるということがわかってきました。

今回は孤独から心を開くようになった、ある男性利用者様の例を書いてみます。

利用者様同士で打ち解けられるよう雰囲気を作る

お会いした当初は、他の方に関心を持つことはほとんどなく、奥さまを亡くされてからはますます殻に閉じこもりがちになり、デイでは終日静かに過ごされている方でした。

GOTOが入職して音楽レクリエーションを始めると、最初の回から声を出して歌われ、「この歌はいいね」と感想を口にされました。スタッフや周囲の方との会話が少なかったこの男性にとって、ご自身の思いを他者に伝えるきっかけができたのです。大きなしっかりしたお声で歌ったり、感想を言葉にされたことは、スタッフにとってもちょっとした驚きだったようです。

その後いろいろな楽曲を提案していくと、歌謡曲では、「これはこの時代を明るくした歌だよ」「この歌手はいい声だった」など、楽曲や歌手にまつわることを、唱歌だと「中学くらいで習ったよ」「いまの季節にぴったりだね」、ご存知ない曲でも「知らなかったけれどいい歌だね」と思いついたことをどんどんお話しされます。

GOTOがその言葉を拾って周囲のかたやスタッフが共感しやすいように場づくりをすると、みるみる周囲の方との会話が増えて打ち解けてこられました。

「知らなかったけれどいい歌だね」という言葉には、多くの意味がある

音楽レクを行うに時はさまざまな配慮が必要ですが、特に曲目は注意深く選ぶべきだと思います。例えば、ひとつの曲がある方にとっては楽しく、他のある方には特別な悲しい思い出があり、琴線に触れて寂しくなってしまうこともあります。リクエストに応えていたら、その他の方が楽しめなくなってしまうという、難しい局面もあります。しかしこうした心配をするあまり、一般的な曲ばかりを選びすぎてしまうのも考えものです。

「知らなかったけれどいい歌だね」という言葉には、多くの意味が含まれています。これまでの人生で触れることのなかったものに初めて触れた喜び。その曲に対する気持ちへの共感。そして共感の言葉を発することで生まれる、その人たちとの思いや活動の共有。このケースのように、言葉を発するということ自体、その方にとっての大きな変化である場合もあります。

チームケアに活かせる音楽レクのために大切だと感じるポイントをまとめてみます。
目的を持ってプログラムを作成(どのような構成にするか、目的を持って組み立てる)
心に響く楽曲提案の工夫(どのように提案するかで反応、反響、効果は違ってくる)
対象者からの思いを引き出し、その価値を高める場づくりの能力(どのような感想や言葉を引き出せるかを工夫し、それをケアに活かす形にする)

男性の話しに戻りましょう。

スタッフへの文句も信頼関係の証

同じ時期、施設全体がひとりひとりへのケアを充実していこうという研究をしはじめ、この方に対しても「入浴の際に会話を引き出していこう」「趣味のことができる環境を作ろう」など、積極的なアプローチが始まりました。一生懸命働き掛けるスタッフたちの雰囲気がこの方の気持ちを活性化し、周囲との交流が活発化していきました

ある日入浴担当のスタッフから、お風呂に入りながら亡くなった奥さまのことを懐かしんで涙を流されたという報告があり、それを境にこの方の表情がどんどん明るくなり、さまざまな変化が起き始めました。

例えば、息子さんばかりの男所帯で身支度に時間がかかるため、朝のお迎えが早いと支度が整わずお待ちすることがあり、むっつりと車に乗られて来所するのが常でした。しかし、表情が晴れやかになってきたこの時期から、この方はスタッフに「文句を言う」ようになりました。「こんなに早くきちゃったのか」「他を回ってから来ればいいのに」「いやだなぁ」。こんなふうにスタッフに思ったことを言えるようになったのは画期的なことです。

「玄関の鍵が見当たらず、出かけられない」ということでご利用を中止し、送迎スタッフが戻ってきたこともありました。それを聞いて施設から、「いつものズボンのポケットか、洗濯物の中にあるかもしれませんよ」と、電話で探し方をお知らせしました。すると数分後に、「見つかったよ。これからもう一度迎えに来てもらえないかな」とお電話があり、来所されると「手間をかけて悪かったね。来られてよかった」と笑顔でお礼をおっしゃいました。

以前でしたらこうしたやり取りを面倒と考え、そのまま黙ってお休みされたと思います。スタッフとの信頼関係ができたことで伝えたいことをきちんと伝え、ご自分の希望することを実行できるようになったのです。

さいごに

現在この方には冗談を言い合う親しいお仲間ができ、席を立つたびに「どこへ行ってきたの」「ええとね、北海道」「歩いて?」「ううん、ちゃりんこ」などと言い合っては大きな声で笑っておられます。リハビリも、「やらないの?行っておいでよ」と声を掛け合って、一緒になって取り組まれるようになりました。

このケースには生活上の自立支援にまだまだ課題はありますが、孤独の中でストレスを抱えていた当初の状況は大きく改善され、社会参加への意欲が顕著に現われています。そこには、スタッフや周囲との意思疎通や交流といった点で音楽提供が発端となった変化の重要性が挙げられると思います。

音楽にはまだまだできることがある。GOTOの模索は続きます。
次回もどうぞお付き合いください。

この記事を書いた人

後藤 京子(GOTO)

「音楽の花束」代表。星美学園短期大学講師。東京音楽大学卒、同大学第2副科オルガン専攻修了、邦楽演奏コース長唄三味線専攻修了。1986年日本ピアノコンクール全国大会第3位、受賞記念演奏会出演、1987年読売新人演奏会出演。NHK邦楽技能者育成会に学ぶ。短大西洋音楽史講師、小学校音楽科教諭を経て2004年より「音楽の花束」のプロデュース活動を始める。2015年きらめき認知症シスター(きらめき認知症トレーナー協会認定)取得。カトリック東京カテドラル関口教会オルガニスト。デイサービス「空の花 高井戸」取締役副社長。>>公式サイトへのリンクはこちら「音楽の花束」

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