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「期待はずれのドラ1選手」の言葉は仕事術にも通じる

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「仕事の話を野球でたとえるのはおっさんの証拠」と若い人は嗤う。だがそれのなにが悪い? 野球はそれだけ偉大なスポーツなのだ。ドラフト一位で期待はずれに終わった元プロ野球選手たちの言葉を通じて、フリーライターの神田憲行氏が考える。

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 この原稿を書いているとき、日本シリーズで日本ハムの西川遥輝選手がサヨナラ満塁ホームランを放った。彼を見るたびに「こいつドラフト2位なんだよなあ」と思う。1位はあの斎藤佑樹投手だ。斎藤を腐すつもりはなく、高一から甲子園で取材していた西川があのハンカチ王子の次の評価を受けたことが感慨深く、またこうしてレギュラーで出場していることにスカウトの眼力の高さを思わされる。

 ドラフト下位指名は素材採用というか、「将来モノになれば」という感じで指名される選手もいるが、上位指名はそうはいかない。契約金も高いし、確実に出てきて貰わないと困る。困るのだが、現実はなかなかそうもいかず、不本意な成績でユニフォームを脱ぐ選手が現れる。「期待はずれ」という罵声とともに。

「期待はずれのドラフト1位 逆境からのリベンジ」(元永知永著、岩波ジュニア新書)は、そうした期待に応えられなかったドラフト上位指名の元選手たちの言葉を集めた本だ。まずこの手の本が「岩波ジュニア新書」から出たというのが面白い。同新書は「ジュニア」と名前は付いているが大人が読んでも十分な深い内容の新書も出しており(茨城のり子の「詩のこころを読む」は名著である)、本書も子どもに親しみやすい口語体で書かれながらも、元選手たちの言葉は働いている者の心を掴む。

 登場するのは水尾嘉孝(1990年横浜大洋ホエールズ1位)、的場寛一(1999年阪神タイガース逆指名)、多田野数人(2007年北海道日本ハムファイターズ1位)、江尻慎太郎(2001年日本ハムファイターズ自由獲得枠)、河原純一(1994年読売ジャイアンツ逆指名)、藪恵壹(1993年阪神1位)、中根仁(1988年近鉄バファローズ2位)である。

 辞めた経緯もその後の人生もさまざまだが、通読して選手としてうまくいかなかった原因にひとつの共通項があるように感じた。それは監督・コーチとの人間関係である。とくに下りてくるアドバイスにどう対処するか。著者も登場人物も「アドバイスを聞きすぎてもダメ。聞かなさすぎてもダメ」と繰り返し語る。

「聞きすぎてもダメ」というのは、指導で自分のフォームがおかしくなり、本来の長所を消してしまう可能性があるからだ。たとえば河原はこういう言葉を残している。

《私はすごく器用だったので、コーチに言われたことはすぐにできました。『やれ』と言われた通りにやって……少しずつ何かが崩れていったような気がします》

《コーチのアドバイスでも聞き流すことができれば良かったのですが……自分のやり方を押し通す強さが足りなかったかもしれません》

 巨人時代の河原のえげつないストレートを覚えている身からすれば、そんな屈託があったとは意外だ。

「聞きすぎてはダメ」というのは、私もドラ1で入団しながら不本意な成績で終わった元選手から聞いたことがある。

「監督とコーチで言うことが違っていたりするからです。しかもあの人らは2、3年で変わるでしょう。そのたびごとに違うアドバイスを聞いて、バッティングフォームがおかしくなりました。でも現役時代にそれなりにやってた人たちですから、なまじ言うことに説得力があるんだよなあ……」

 またドラ1選手にはアドバイスをしたがるコーチも多い。メディアの注目が集まるからだ。その選手が活躍すれば、「○○の師匠」とマスコミに持ち上げられ、コーチの再就職に有利に働く……という計算もあるようだ。

「聞かなさすぎてダメ」だったのが、水尾。監督からサイドスローを勧められて拒否した途端、2軍でも練習させてもらえなくなった。バッテリーコーチに練習の相手をお願いしても、「お前と一緒にいたら、上からにらまれるから嫌だ」と言われる。もはやイジメに近い。一方で面白いのは江尻は同じくサイド転向を勧められて、それに乗っかり成功した。小林繁・2軍投手コーチから勧められ、いったんは断った。だが「俺が責任を持つ」と言われて決めた。江尻は小林の助言を、サイドスロー投手が少ない「マーケットを見なさい」という意味だと理解し、自分の上手投げのボールが通用しないことを「その実力でレッドオーシャンに飛び込んでどうする?」と表現している。現在はIT企業で働いているビジネスマンらしい表現である。

 この本では悩めるドラ1が垣間見た指導者の魅力的な姿も紹介されている。53歳の私としてはどうしてもその中から教訓を引き出してしまう。とくに若い人を指導する人が読めば参考になることがいくつも書いてある。たとえば水尾はトレードで出されたオリックスの仰木彬監督の姿に学ぶことが大きかったという。

 どんな選手でもミスをする。ミスをするとだいたいの監督は「なにをやっているんだ」と激怒する。するとグラウンドの選手もコーチも監督の激怒が収まるまで、対応が遅れてしまう。しかし仰木は違う。

《ことがおこった瞬間に、すぐ手を打ちます。相手よりも先に指示を出して、選手たちを動かしていました。(中略)仰木さんは(神田注・激怒するという)反応ではなく、対応をしていました》

 もうこれだけで胸に手を当てて反省を迫られる管理職の方は多いのでは無いだろうか。同様のことを多田野も語っている。多田野は大学卒業すぐのドラフトでは漏れて、アメリカに渡り、マイナーリーグ、メジャーを先に経験している。アメリカでは5年間で10人くらいのピッチングコーチと出会ったが、一度も怒られたことがないという。4者連続でホームランを打たれたときも「明日頑張ろう」と励まされた。

 私の若いころは野球が世界の中心にあって、先人からの仕事の教えも野球のたとえが多かった。いま私がそれをやると若い人に失笑を買ってしまう。だが53歳のいまでもジュニア新書から教訓を導いてしまうのは、やはり野球がそれだけ偉大なスポーツだということだ。……とここまで書いて不安に駆られたので蛇足ながら付け加えるが、この本を読んで若い人が「アドバイスは聞きすぎない方がいい」とか、一面的に捉えないでほしい。いま管理職クラスの友人から、「若い人がいうことを聞いてくれない」という悲鳴が聞こえてくる。この本に登場するのは1年間に12人しかいない超エリートの述懐だ。99%の普通の若者は、ちょっとぐらいおっさんの言うことに耳を傾けてくれることをお願いしたい。

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