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家具デザイナー小泉誠さんに聞く 丁寧な暮らしのヒント

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家具デザイナー小泉誠さんに聞く 丁寧な暮らしのヒント

丁寧なデザイン。身の丈のデザイン。家具デザイナー・小泉誠さんの仕事はよくそんな言葉で表現される。時代や流行に媚びることなく、人と暮らしに向き合って、真摯にものをつくってきた。そんな小泉さんのものづくりに、「丁寧な暮らし」のヒントを探っていこう。

箸置きも家も、生活に必要な「道具」です

肩書は「家具デザイナー」だが、小さなものは箸置きから、大きなものは住宅まで、小泉さんはいろいろなものをデザインする。

「インテリアもプロダクトも建築も、僕からすれば生活に必要な道具。生活の道具の全体が家具だと思っています。デザインするときの考え方もみな同じで、分けていることのほうに違和感があります」

そもそも今のような分類ができたのは近代になってからだとか。

「生産体制が分かれたとか、流通が分かれたとか、理由はさまざまあったでしょう。しかし、人が道具を手にした石器時代からたどれば、煮炊きするのにカマドや鍋が必要で、食べやすいよう器も必要、箸もないと困るといった具合に、必要に応じてどんどんできていったものが道具なのです」

「家もそうです。生きていくには雨風をよけたり寒さをしのいだりする必要があって、住居がつくられました。身を守るという意味では、家は実は洋服とも近い。人ありきで考えればそうなります。日本家屋にはまた、押入れや畳など家と一体になった家具もたくさんありました。人の暮らしをサポートしていくものが道具なら、家も箸置きも一個の道具といえます」【画像1】東京・国立市にある「こいずみ道具店」。自身のデザインを伝える場として開設した。築50年の靴店兼住居をリノベーションしたもので、棚にキッチンウェアや小物が並ぶ(写真撮影/上條泰山)

【画像1】東京・国立市にある「こいずみ道具店」。自身のデザインを伝える場として開設した。築50年の靴店兼住居をリノベーションしたもので、棚にキッチンウェアや小物が並ぶ(写真撮影/上條泰山)

なぜこれをつくるのか、考え方まで伝わることが大事

人に“使われる”道具をつくっていて、そのスケール(大きさ)が変わるだけ。そう話す小泉さんだが、家より大きな建築は手がけない。

「ものづくりの基本というのは、ガラス職人のコップだとか、家具職人の椅子だとか、人ひとりが自分の目の届く範囲で、きちんと手をかけて仕上げるものにあると思っています。それでいうと木造住宅も、大工さんがほぼ1人でもできる木工事(※)で家の形になります」

※木材の加工・組立の総称

ものづくりの現場では、「関わる人1人ひとりがなぜこれをつくるのか、考え方にまで納得していることが大事」だと話す小泉さん。現場で自分の思いや考えを伝えられる最大限のスケールのもの、それが「家」なのだそうだ。

「大きな組織で量産するものは、こうした丁寧さを求めるのが難しい。むしろ決められた図面通りに正確に、より速くと、ものづくりが“作業”になりかねません。だから、僕はなるべく個の集まり——素材をつくる人、職人、デザイナーなどプロフェッショナルな個人の協働でものをつくりたい。そこでは各人の能力が存分に発揮され、自分たちだからこそできる唯一のものをつくろうと、みんなが一生懸命になります」

「とりわけ家は、誰のためにつくるのか、プロダクトと違ってユーザーの顔が見える数少ない道具です。施主も住み手の立場からものづくりに加わり、一緒につくっている感覚や価値観を共有して、楽しんでほしいですね。住んだあとが絶対に違うと思いますよ」【画像2】こいずみ道具店は敷地10坪の小さな建物だが、地下から小屋裏まで計6層の空間がパズルのように入り組む楽しいつくり。ハシゴひとつとっても、前傾姿勢をとれるよう角度をつけた踏み板、手すりの握り心地など、細部まで丁寧に設計されている(写真撮影/上條泰山)

【画像2】こいずみ道具店は敷地10坪の小さな建物だが、地下から小屋裏まで計6層の空間がパズルのように入り組む楽しいつくり。ハシゴひとつとっても、前傾姿勢をとれるよう角度をつけた踏み板、手すりの握り心地など、細部まで丁寧に設計されている(写真撮影/上條泰山)

ひとつひとつ丁寧に、要素を足して考える

そうやって小泉さんたちが丁寧につくったものは、どれもシンプルだと感じさせる。しかし、いわゆる“引き算のデザイン”、要素をそぎ落として行き着いた形かというと、その解釈は違うという。

「現代が足し算で満たされた世界なので表現としては引き算に見えるだけで、本来のものづくりは足し算だと思っています。この形はどうだろう。この大きさはどうだろう。色をつける必要があるのかないのか。いろんな要素を一つひとつ丁寧に足して深めていくと、必然的にだいたいの形が決まってくる。それが原型で、シンプルといってもいいのですが、いわゆる“ふつう”になるのです」

それはまた“十分”ということでもあるそうだ。

「日本の過去の道具はみんなそうですが、例えば大工道具のカンナ。欧米のものは日本より形が複雑ですが、あれは多くの人が持ちやすい形で、人によっては持ちにくい余計な形。一方、日本は、ある程度まで使いやすくしたら修理しやすさも考慮して、“あとは自分で使いこなすか”というところでデザインするのをやめます」

「使いこなすというのは肝心なことで、例えば雪平鍋が1個あれば、煮るも、焼くも、炒めるも、ほとんどの調理ができます。ああしたものを“十分”とか“丁度いい”とかいうんですね」【画像3】「すぐに売れるもの」よりも「じっくり売れるもの」をつくりたいという小泉さん。道具店の小屋裏に設けた和室は昼寝や考え事に最適なお籠もり空間(写真撮影/上條泰山)

【画像3】「すぐに売れるもの」よりも「じっくり売れるもの」をつくりたいという小泉さん。道具店の小屋裏に設けた和室は昼寝や考え事に最適なお籠もり空間(写真撮影/上條泰山)

時を経ても使い続けられる道具をつくっていきたい

古道具が好きな小泉さんは、自分のつくるものも古道具になればいいと思っているそうだ。

「(古道具の)定義は三つあって、一つは、物理的に丈夫で壊れないもの。手直しができて使い続けられるものです。二つめは、機能が必要十分であるもの。機能が多いとそのすべては使わないし、面倒くさくて、飽きてしまう。といって、足りなければ不便です。三つめは佇まい。なんだかこう美しいとか、愛着がもてるとか。佇まいが悪いと使う気が起きないので、美しいことは大事ですね。そういうずっと使い続けられる道具を、僕はつくっていきたいんです」

三つの定義はむろん、最も大きな暮らしの道具である家にも当てはまる。長く使えて、十分で、美しい。そんな家にするために、自分たちの“ふつう”、基本の形がどんなものか、住まいに暮らしに落とし込んで、ゆっくりと足し算で考えてみてはどうだろう。つくった家を住みこなせば、それは丁寧な暮らしのはずだ。

構成・取材・文/今井早智●小泉誠(こいずみ・まこと)

家具デザイナー。1960年東京生まれ。木工技術を習得した後、デザイナー原兆英と原成光に師事。1990年にKoizumi Studio設立。2003年には「こいずみ道具店」を開設し、箸置きから建築まで生活に関わるすべてのデザインを手がける。現在は日本全国のものづくりの現場を駆け回り、地域との協働を続けている。2015年に手仕事をつなげる活動「わざわ座」を発起。2005年より武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。2012年、毎日デザイン賞受賞。著書に「地味のあるデザイン」(六耀社)など。

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