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『永い言い訳』西川美和監督インタビュー「自分にとって心当たりがある事を、女は風穴と感じ男は傷つく」

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妻が死んだ。これっぽっちも泣けなかった。そこから愛しはじめた―。

『ゆれる』『ディア・ドクター』の西川美和監督が、第153回直木賞候補作にもなった自著を自身の監督、脚本により映画化した『永い言い訳』が現在公開中。長年連れ添った妻を突然失うが悲しむ事も泣く事も出来ない人気作家・幸夫(本木雅弘)が、同じく妻を亡くした陽一(竹原ピストル)と2人の子供と触れ合う事で失ったものを見つめ直すヒューマンドラマだ。

この物語について「3.11の震災に着想を得た」という西川監督。主演の本木雅弘について、作品作りについて、色々と話を聞いた。

―本作の原作となる小説「永い言い訳」は、3.11の震災に着想を得たそうですね。

西川美和:3.11の東日本震災から半年ほど経過した頃、被災して家族や仲間を失われた方々の痛ましい姿を報道で目にしました。それについて、気の毒だと感じながらも、綺麗なエピソードばかりが伝えられることに違和感を感じたんです。人間同士の関係性は綺麗な形ばかりではなく、後味の悪い別れ方をしたまま相手が帰らぬ人になってしまったという不幸も、あの突然の災厄の下には少なからず存在したのではないかと。そんな事を考えたのがきっかけです。

―兄弟や友人では無く「夫婦」をテーマにした理由はどんな事があったのでしょうか。

西川監督:う〜ん、最初から夫婦で行こうと思いついたので考えたことがなかったですね。でも、今質問されて考えてみると、やっぱり「所詮他人だから」ですかね。私自身が結婚経験がないから偉そうなことはいえませんが、夫婦って持続していく事自体極めて難しい関係性なのではないかとも思います。親子や兄弟のような血のつながりもないのに人生の長い時間を共にする。最初は血のつながり以上の熱を持ってはじまったりもするのに、年齢やお金や子供の問題でどんどん関係性も変わっていきますよね。本作で描いたのは子供のいない夫婦ですが、子というかすがいが無い夫婦というのは、二人がつながって行く理由を他に言い逃れ出来ない、極めて危うく濃密な関係だと思います。意地悪な言い方をすれば、私からすると描くモチーフとして面白さを感じているのだと思います。

―本作はご自身が執筆された同名小説が原作となっていますが、映画の為に書く脚本では無く小説がスタートだったことでいつもの映画作りと違う点はありましたか?

西川監督:映画は多くのお金を元に作られるものですから、商業映画の為の脚本を書く時には、どうしても多くの人にちゃんと受け入れられる表現やテーマになっているかどうかが意識されてしまいます。ですから「ちゃんと伝える」という目標の元に、ストーリーラインもキャラクターもある程度の分かり易さを保ちながら書いて行くのですが、本来は分かり易くした描写からこぼれ落ちたところに、人間像や心情の面白さがあるのでは無いかと思い、映画づくりよりもまず先に、そういう部分を一度躊躇せずに小説としてしっかり書き込んでみようと思いました。

―なるほど。では小説を書く作業は楽しかったですか?

西川監督:一人で机に向かうという作業は自由で気楽でありつつも、寂しく孤独だったもので、その後に1年間かけてスタッフ・キャストと仕事が出来たのはご褒美の様な時間でもありました。これまではスタッフが自分の為に汗をかいてくれている事を申し訳なく、プレッシャーに感じる部分がありましたが、本作については自分が年をとったからかもしれませんが、とても楽しい時間でした。

―主演に本木雅弘さんを抜擢した理由を教えていただけますか?

西川監督:本木さんって皆さんがご存知のとおり、とてもハンサムですけれど、コメディが出来るチャーミングさがありますよね。周防監督の作品等を拝見して、「二枚目の主人公が、七転八倒する役」が書けた時にはお願いしたいなと思っていました。脚本が上がった後、是枝監督から「今回こそ本木さんじゃない? 幸夫に近い部分あると思うよ」と言われて。それまで私は本木さんって少しのほころびも無い人だと思っていたので、意外だったのですが、本木さんも自分に通じる部分があると感じてくれた様でお願いする事が出来ました。そして「全く共感出来ない役」では無い分、自分の自意識と対峙する様で演じるのはとても辛かった事と思います。

―幸夫というキャラクターは、西川監督自身「自分に近い」と語ってらっしゃいますね。

西川監督:そうですね。幸夫は男性のキャラクターですが、近親憎悪というか、私自身の屈折に近い部分があって。本木さんに演じていただいてからは、自分から少し離れたかな、とは思っています。元々、幸夫については「愚かで弱いけれどなんとか生きて行く」というキャラクターにしたかったので、

―他の男性キャラクターについてはいかがでしょうか。

西川監督:竹原ピストルさん演じる、大宮陽一は、私の様な人間にとっては、キラキラ輝いていてとてもうらやましい存在ですね。彼は運送業を生業としていて、富裕層では無いけれども、きちんと地に足のついた愛情豊かな生活をしている。そして、長男(真平)は、豪快で明るい父親の息子でいながら、繊細で多くの葛藤をもっていて。フラジャイルで、とても愛しい存在です。そしてまた素敵なのは、池松壮亮さんが演じた岸本という幸夫のマネージャーです。このキャラクターは小説では30代の設定で描いていたのですが、若いのに達観したような池松さんの存在感を見た時に、彼ならば本木さんとのギャップもまた効いてくるのではないかと思えました。現場では本木さんが池松さんに「若いのにどうしてそんな抑えたお芝居が出来るの?」と質問攻めにしておられました(笑)。

―西川監督の作品に子供が登場するのが新鮮であったのですが、お2人とお仕事をしてみていかがでしたか?

西川監督:元々子供を登場させたいと思っていたわけではなく、妻を事故で無くした陽一というキャラクターの為に必然だったのですが、私自身はとても不安が強くて。これまで子役とお仕事をしても楽しさより苦痛を感じることのほうが多かったんです。撮影現場というハード過ぎる仕事場に、小さな子供に居させること自体違和感も持って来たし、私自身のジャッジもゆるくなるんです。例えば子供が途中で疲れて眠くなってしまったとしたら「もうOKにしちゃおうか」といい加減なところで匙を投げてしまったり。ですが、そういう苦手意識も強かったので、あえて今回はちゃんと正面からやってみようと。やっぱり思うようにならないことの連続でしたけれど、子供は大人の意のままになる存在では無いという、頭では分かっている事を身を以て体験出来た事はとても豊かな経験になりました。

―本作、幸夫の生き方に自分を照らし合わせてドキッとしたり、ゾッとしてしまう男性が多いのでは? と私は感じました。

西川監督:出資者の中年男性は「こんな映画撮らせるんじゃなかった」と涙目で試写室から出て来ました(笑)。受け止め方が女性と男性では違って面白いなと思いましたね。自分にとって心当たりがある事を、女性は風穴と感じ、男性は気づかされたくなかった、と傷つくような差もあるのかもしれません。

―本木さんは幸夫という役に対し「今回の役をとおして、家族に誠意ある態度をとろうと反省しました」とおっしゃっていますね。

西川監督:そうなんですよね、そう言ってくださっていて。でも映画って本来はそういう風に即効性のあるものでは無くて、「これを観たら家族関係が良好になりますよ!」とは言えないのですが(笑)。皆さんそれぞれの映画体験があると思いますが、もしかしたら夫婦で観ても良いし、奥さんが先に観て「あなた観てみて」と言うのも良いのかもしれない。

―私個人的にも、多くの方に映画を観ていただき、たくさん感想を聞いてみたいです。今日はどうもありがとうございました!

『永い言い訳』大ヒット上映中
出演:本木雅弘/竹原ピストル 藤田健心 白鳥玉季 堀内敬子/池松壮亮 黒木華 山田真歩/深津絵里
原作・脚本・監督: 西川美和

(C)『永い言い訳』制作委員会

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