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介護職員間の連携の見直しが、高齢者へのよりよい介護環境提供につながる

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ご高齢者や 認知症が進んだかたにも楽しんでいただける音楽会、「音楽の花束」を主催しておりますGOTOです。

デイサービスで音楽提供を始めてから、ひとりひとりのご利用者さまの変化を驚きとともに観察、研究し続けています。そこには音楽だけではなく、スタッフ間の連携が取れていなければできないことがたくさんあります。

今回は、「スタッフ間の連携がいかに周囲に影響を与えるか」についてお話したいと思います。

社長の本音が見えていなかったあの時

入職する前、「ご利用者さまと一緒に庭の手入れをしたいのに、なかなかそういう活動に結び付けられない。庭のあるところに施設を作った意味が活きる機会なのに」という社長の悩みを聞いていました。

その時、GOTOは単純に、「みなさんとの庭仕事は気分転換にもなるし、健康にもよさそう。できるといいですね」と答えていました。

しかし仕事を始めてすぐ、もっと深く、大切な意味が込められていたことに気づいたのです。

最初の気付き「『ご利用者さま』はみんなではなかった」

最初の重要な気付きは、社長が言う「ご利用者さま」が特定のかたを指していたことです。そのかたは元植木職人。寡黙で頑固な印象で、他のかたとあまり交わらず、デイに来るとむっつりと座っています。聴力の衰えにより、ご家庭でもコミュニケーションが減り、理解の行き違いからしばしば暴力に発展することがあったとのことです。ご家族からケアマネに相談があり、通所介護をはじめられました。

まれにお声を聞くのですが、大きくぶっきらぼうで、会話も続かず、活動をご提案してもあまり積極的ではありませんでした。このかたに対し、当時のスタッフは特に対策を講じておらず、いわば「あるがまま」に過ごしておられました。なるほど、社長はこのかたにアプローチしたいんだなと思いました。

第2の気付き「傾眠が見られても歌に興味はある」

このかたは、音楽レクリエーションでお声を出すことはなく、傾眠されている姿がよく見受けられました。聞こえの問題とは思いましたが、起きている間は歌詞を書いた模造紙をじっとご覧になっておられます。二番目の気付きは、歌に興味を持っているということです。この興味を、どのように引き出すか考えました。

第3の気付き「自ら話したいという気持ちを持っている」

そこである日、音がよく聴こえるようにと目の前で音楽レクを実施してみました。視覚的にも訴えかけることができるかもしれないと考え、いつもの設置型の大型キーボードではなく、そのかたの真向いの机上に小型のキーボードを置きました。

すると、「今日はこんなとこでやるの?」「へぇぇ、よく手が動くね」「そんなにがんばったら疲れちゃうだろう」「いっぱい弾くね」など、思いがけずたくさんの言葉をいただきました。終わってからも「たいへんだね」などと言葉が途切れず、「このかたは元来寡黙ではなく、自発性を持って話したがっている」という印象を受けました。3番目の気付きです。

そこで別の日には「みかんの花」を取り上げ、「どんな花なのですか?」と、花についての質問してみました。すると皆さんに向かって、「小さくて白い。木に咲くけどとても小さくて、すごくいい匂いだよ」と話してくださいました。「木には棘があるから痛いんだ」ということも教えてくださいました。

このやり取りを通じて、他のご利用者さまに「このかたは植木職人だ」ということを改めて認識していただくことができました。すると、ぶっきらぼうな言葉や、大きな体でむっつりとしておられるところを怖がっていた女性たちからも「このかたは職人だから」と受け入れられ、周囲のかたとも関係がぐっと和らぎました。

第4の気付き「ほかの利用者さまに気を使っていた」

これと同時にこのかたは、会話がかみ合わなくとも言葉を発し、ご自分からコミュニケーションをとろうとする様子が多くみられるようになりました。第4の気付きです。ご自身の聞こえの問題について、ほかのかたに随分気を使っておられたのです。

さて、問題がはっきりしてくるとスタッフの技術が冴え始め、このかたへのアプローチが始まりました。

スタッフからの声掛けが増えてくると、このかたも「俺は耳が遠いから、聞こえない。悪いね」と、しっかり伝えてくださるようになっていきました。誇り高い職人気質が邪魔をして、お手洗いの誘導を拒絶されることも多かったのですが、タイミングを見計らって声掛けをすると「ん?行くの?まぁいいよ。仕方ないな」と、大きな声で笑いながら腰を上げるように変わりました。

「誰かひとりの気付きや働きかけだけではだめなんだ」と、GOTOもスタッフも、社長が思い描いていた「その人にあったケア」に思いが及ぶようになりました。

スタッフたちが代わるがわる窓辺にお連れして、「この庭、どう手入れしたらいいでしょうね」と聞くようになると、手入れ方法や剪定時期などを教えてくださるようになりました。そこで「それじゃあ、温かくなったら一緒にやりましょう」と言うと、はじめは「俺がやるの?ここで働かされるのか?」と茶化しておられました。しかし、「どんな道具がいりますか?」と具体的に聞くと剪定ばさみなど教えてくださいました。いよいよやる気スイッチが入ったのです。

スタッフが連携を取り、社長の想いが実現

春になり庭に出られるようになるとすぐに、【個別機能訓練Ⅱ「庭の手入れ」】がスタートしました。ご自身の意見を伺いながら、草取りをしたり、どこに花を植えるかを相談したり、木の剪定をしたり、スタッフが一緒にすすめます。するとみるみる、このかたに変化が現われ始めました。

植物好きな別の男性ご利用者さまたちとも一緒に作業をすることで、フロアでの会話もぐんと増え、互いに冗談を言い合うまでなりました。野菜作りに取り組まれ、「収穫行きますか」「おう、行くよ」というスタッフとのやり取りも軽妙になってきました。

先日の草取りの時間は、しゃがんだ体勢が辛いかと思い10分程度で終える予定が、「あっちもやろう」「ついでだから」とご本人がなかなかやめず、結局40分近く続けられていました。それまで「俺は身体が固いからリハビリ体操はできないよ」とおっしゃっていたのがウソのようです。

「これからどんどん庭に出られるように足腰を鍛えておかないと」と、スタッフからの声掛けが具体的になると、リハビリ体操にも積極性が出てきました。体操前のテーブル移動も「俺がやるよ」と進んでやってくださいます。

脳トレの時間には樹木や花の図鑑を読み、「これはすごく勉強になるよ。知っていた木も、いろんな種類があったりするんだ」と新しい知識を得る意欲が出てきました。音楽レクでは、「職人だった時は演歌なんかよく歌ったよ」と歌集を見ながらリクエストをしてくださるようになりました。

介護環境を整えることでご家族にもいい影響が

今でも、ご家庭での悩みは尽きません。しかし、お薬の飲み忘れや水分摂取不足などの相談をいただくと、スタッフがラベルやチェックカードを作ってお声掛けし、ご家庭と連携を取りながらスムーズなケアに結び付けております。家庭内での暴力はすっかりなくなったとのことです。また、来所日を増やされたのですが、デイの日は30分前には玄関でスタンバイをしていると、ご家族が苦笑いしておられます。

音楽レクをきっかけとしたチームプレイで、そのかたが、そのかたらしく安心して豊かに暮らせるようにお手伝いをすることができたのです。

音楽ができることはまだまだある。GOTOの高齢者施設での手探りは続きます。次回もどうぞお付き合いください。

この記事を書いた人

後藤 京子(GOTO)

「音楽の花束」代表。星美学園短期大学講師。東京音楽大学卒、同大学第2副科オルガン専攻修了、邦楽演奏コース長唄三味線専攻修了。1986年日本ピアノコンクール全国大会第3位、受賞記念演奏会出演、1987年読売新人演奏会出演。NHK邦楽技能者育成会に学ぶ。短大西洋音楽史講師、小学校音楽科教諭を経て2004年より「音楽の花束」のプロデュース活動を始める。2015年きらめき認知症シスター(きらめき認知症トレーナー協会認定)取得。カトリック東京カテドラル関口教会オルガニスト。デイサービス「空の花 高井戸」取締役副社長。>>公式サイトへのリンクはこちら「音楽の花束」

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