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大前氏 日本に必要なのは働き方改革ではなく「休み方改革」

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 8月3日に行なわれた閣議で、安倍内閣は事業規模28兆1000億円もの経済対策を決定した。このなかの目玉は「働き方改革」で特命担当相を新設、加藤勝信1億総活躍担当相を兼務させている。経営コンサルタントの大前研一氏が、日本に最も求められている本当の働き方改革とはどんな内容なのかについて解説する。

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 安倍政権が「最大のチャレンジ」と位置付けているのが「働き方改革」だ。とくに、同じ仕事をしている人に同じ給料を払う「同一労働同一賃金」の実現や長時間労働の是正、最低賃金の引き上げなど非正規労働者の処遇改善に力点を置き、それを実行するために第3次安倍再改造内閣で「働き方改革担当相」を新設した(加藤1億総活躍担当相が兼任)。
 
 安倍首相は記者会見で「“非正規”という言葉をこの国から一掃します」と大見得を切っている。また、厚生労働省は、仕事を終えてから次の始業までに一定時間の休息を入れる「勤務間インターバル」制度を導入した中小企業に対して助成金を支給する方針を明らかにし、2017年度予算の概算要求に約4億円を計上した。
 
 まさに“上から目線”のマイクロ・マネージメントだらけで、民間企業の箸の上げ下げまで政府が差配しようとしている感が強い。

 それに経団連も表向きは同調しているが、実は“面従腹背”である。たとえば、御手洗冨士夫・元経団連会長(現在は名誉会長)が会長を務めているキヤノンは「国内生産回帰」を高らかに宣言しながら、今も半分ほどは珠海やベトナムを中心とした海外生産で、国内雇用はほとんど増えていない。

 いま日本に必要なのは、政府による強制的・一律的な働き方改革ではなく、国民が自由に長期間の休暇を楽しめるようにする「休み方改革」の施策である。

 観光庁がまとめた2016年版『観光白書』によると、2015年の国民1人あたりの国内宿泊観光旅行の回数は年間1.4回、宿泊数は同2.3泊にすぎない。一方、欧米の観光旅行宿泊数は、統計では年間20泊前後だが、実際に私が見るところでは30泊以上だ。

 マッキンゼー時代の経験から言うと、たとえばイタリア事務所からは6月末に「See you in September.」という連絡が届き、7~8月の2か月は夏休みで誰もいなくなる。私たちが「なぜイタリアだけ2か月も休むのか」と文句を言ったら、「お客さんがいないから」という答えが返ってきた。

 つまり、お客さんがバケーションで旅行に出かけてしまうため、コンサルタントはやることがないというわけだ。アメリカは事務所全体ではなく、個々人が自分の仕事の状況に応じてバラバラに2週間単位の休みを年3回くらい取得する。勤勉と言われたドイツも近年は1か月の休みを取るようになった。そうすると結局、日本だけが休めない。お客さんが休まないし、上司や同僚への遠慮、部下の手前などもあるからだ。

 実際、総合オンライン旅行会社エクスペディア・ジャパンの「有給休暇の国際比較調査」(2015年)によると、日本の有休消化率は60%で、韓国(40%)に次いで世界ワースト2位である。しかも、日本人は53%が自分の有休支給日数を把握しておらず、これは他国を大きく引き離して第1位だ。

 また、有休を取得することに罪悪感を覚える日本人は18%で、これも第1位となっている。休み方に関しては、日本は世界の中でも極めて特異な国なのだ。

 ドイツの場合、夏季は6月下旬~9月前半、冬季は12月後半~3月末に約2週間ずつ休みを取るのが普通だ。冬季はスキーバケーションで、その時期は学校の地区によって異なっている。だからドイツのスキー場は週末や年末年始だけ大混雑する日本のスキー場と違い、平日も週末も年末年始も同じようにそこそこ混んでいる。これはスキー場やホテルにとっても、利用客にとっても非常にありがたいことである。

 日本の場合はゴールデンウイークやシルバーウイーク、お盆、年末年始にバケーションが集中しているわけだが、今後はアメリカスタイルで自分の好きな時に1~2週間の休みを取れるような工夫をしなければならない。そうやって休みを平準化しないと、日本のツーリズム産業は成長しないと思う。そもそも国が祝日や連休を増やして国民を強制的に休ませようとすること自体、大間違いなのだ。

 また、日本は1人あたりGDPが欧米より低く、初任給も大卒で平均月額20万円程度と、この20年くらい上がっていない。これは生産性が向上していないことの証左にほかならない。雇用を減らして1人あたりの生産性を高める努力を、企業が怠ってきたからである。つまり(雇用が大幅に減る)生産性の改善こそが日本企業に求められる最優先項目ということになる。

 働き方・休み方改革は企業が各々の社内事情に応じて自主的に取り組むべき副次的な課題である。それを安倍政権は人気取りのために「働き方」を企業に一律的に押しつけようとしているわけで、これほどのポイント外れの愚策はない。さっさと引っ込めるべきである。

※週刊ポスト2016年9月30日号

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