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「電力問題の本質は自由化」 阪大・八田教授が語るエネルギー政策

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大阪大学の八田達夫招聘教授

 ことし3月11日の東日本大震災以降、計画停電が起き、夏には大口契約の企業や公的機関等に対して電力使用制限が発令された。日本の電力供給体制は脆弱性を露呈したと言える。福島第1原発の事故による放射能の影響だけではなく、原子力発電を含む電力のあり方への関心が国民の間で高まっている。

 大阪大学の八田達夫招聘教授は「問題の根底は本質的な自由化をしなかったことだ」と電力供給体制の欠点を指摘する。国のエネルギー基本計画を見直す総合資源エネルギー調査会(総合エネ調)・基本問題委員会のメンバーであり、「電力の自由化」論者とされる八田氏に話を聞いた。

■「問題の根底は、本質的な電力の自由化をしなかったこと」

――原子力発電をはじめ電力のあり方への関心が国民の間で非常に高まっている。そもそも何が問題点なのかをお聞きしたい

 日本の電力供給体制には、需要量を抑制する手段はなく、新規参入者の発電を促す仕組みもないという問題点を抱えている。そのため、ある限度を超えて電力が不足すると、計画停電や電力使用制限に陥る。これが、福島第1原発の事故で、電力供給が欠落したことによって起きた計画停電や制限令の原因だ。

 問題の根底は、本質的な電力の自由化、すなわち新規参入者と電力会社が対等に競争しながら需要と供給とを価格メカニズムで調整する状況に改革することをしていなかったことだ。

――なぜ電力不足時に需要量をコントロールできないのか

 そもそも日本では、大口の需要家と発電所は契約する時に電力価格を決めるが取引数量に決めない「使用権契約」が行われる。だから、大口の需要家は電気を固定契約価格で使いたいだけ使う。電力の不足が起きた時にも価格が上がらないから、需要家は買い続ける。当日どれだけ電力を使用するかは、需要家の勝手となる。つまり、肝心の時に一斉に需要量を減らすメカニズムがない。使用権契約であることが、電力供給体制を不安定にしている。

 しかも、使用権契約であるため、当日いくら使われるか分からないから電力会社は心配で仕方ない。そのため、電力会社は過大な発電装置と送電線装置を持たされることになる。また、当日に需要家があまり電力を買わないリスクもある。それらの分の(リスクに応じて上乗せされる)リスクプレミアムが売る側に足されるので、電力の価格が高くなっている。

■電力供給体制を安定させる解決策はあるのか

――どうすれば使用権契約から抜け出せるか

 「確定数量契約」を選択可能な制度にすればよい。確定数量契約とは、時間ごとの取引数量まで確定する契約である。これができるようにするには、そのような契約を希望する需要家と発電会社が、取引量を前日に「明日はこれだけ使う、あるいは発電する」と中央給電指令所(電力使用量を監視しながら、発電量や流れをコントロールするところ)に届け出られるようにすればよい。前日の届け出以上に需要家が買ったら、電力会社の中央給電指令所と需要家が精算する。これを「リアルタイム精算制度」といい、そのときに用いる価格は、次に説明する「調整電力の限界費用」である。

 まず「調整電力」。電力は常に需給が一致していないと発電機が壊れてしまう可能性があり、壊れると停電が起きる。だから、非常に狭い範囲で需給を一致させるように中央給電指令所は、瞬時に、前もって入札している発電所に対して発電要請を行う。それを調整電力の調達という。さらに調整電力の最後の一番高い価格を「限界費用」という。

 リアルタイム精算制度では、需要家が余計に買ったら限界費用を持って清算できるようにする。その代わり節電したら、一種の発電とみなして、その分を限界費用で買ってくれるようにする。そういう仕組みにすると、確定数量契約を結ぶことができるようになる。そうなると、当日の需給が逼迫していると値段が上がるから、節電すると大儲けできるから節電のインセンティブができる。また確定数量契約になると、発電所は必要なだけの発電機を持てばいいから、無駄なことをやらなくて済む。

■リスクを恐れて新規参入者が入ってこない

発電に新規参入者が少ない理由とは――

――新規参入者の発電を促す仕組みとは何か

 新規参入が入りにくい理由の1つは、いわゆる「同時同量制度」である。新規参入者、例えばエネット(NTTファシリティーズ、東京ガス、大阪ガスの3社によって2000年に設立した電力小売事業者)は自前の発電所を持っている。だが、エネットの発電する電力とエネットの客が買う電力が同時同量で、瞬時に一致することを義務付けるのが、この「同時同量制度」だ。具体的には、エネットが過剰に発電した分は、電力会社がタダで手に入れられる。発電の不足分に関しては3%を超えると1kw当たり30円というペナルティを払わなければならない。新規参入をしにくくしているシステムだ。

 原発が停止したなどで電力需給が逼迫すると、電力会社の限界費用も非常に高くなる。そういう時でも日本では、エネットのようなPPS(特定規模電気事業者)は過剰な発電をする動機が一切ない。余計に発電したらタダで没収されるからだ。

 それをやめて、PPSも過剰に発電した電力は、限界費用で清算できるようにする。すなわち、中央給電指令所が調整電力に使っている限界費用で買い取ってもらう。同様に、もしPPSが過剰に需要したら、それは中央給電指令所から限界費用をもって電力を売ってもらえるようにする。そういう仕組みにするとペナルティがなくなるから、新規参入者が非常に入りやすくなる。今はリスクを恐れて新規参入者が入ってこない。

■「再生可能エネルギーへの補助も、原子力への補助も性質は同じ」

――今回の原発事故以降、再生可能エネルギーへの関心が高まっている。原発はCO2(二酸化炭素)への切り札だとされていたわけだが、今後、地球温暖化対策をした発電の仕組みはどうなっていくのか

 すべての電気の発電コストは、その電力を使う人が負担すべきだ。同じように地球温暖化では、CO2(二酸化炭素)の排出量に応じて、炭素税をかけるのが一番素直な考えだ。

 原子力や再生可能エネルギーに対して補助をしようとするのは反対だ。どちらもまったく同じ様に、特定の業界を優位にする。補助を受けた業界は喜び、管轄の役所も喜び、口を聞いた政治家も喜ぶ。だが、火力の燃焼効率をあげてCO2の排出を下げることへのご褒美がなくなる。また、石炭と石油をやめて、その分を天然ガスに移行するとCO2を相当抑制できるが、そのインセンティブもまったくない。具体的な施策としては、炭素税を導入するのが良い。

――原子力発電をどう考えるか

 原子力も同じで、原子力にかかる費用は電力を使う人が全部負担すべきだ。使用済み核燃料の処分費用とか、地元対策費とか、事故が起こった時のための保険料も、原子力の電力を使う人が負担すべきだ。

 その代わり使用済み核燃料の始末は国がやらなければならない。そのための費用を電力会社にチャージする。その費用をいくら払うべきか責任を持ってやり、開示しなければならない。そういうことを全部国がやった上で、あとは電力会社が選択すればいい。

■電力生産計画を国が決めることはあり得ない

――最後に、エネルギー・環境会議と原子力委員会、そして総合エネ調。3つの会議が乱立している点についてお聞きしたい

 3つの会議は互いに関係するが、総合エネ調の重点テーマは電力供給体制だと思う。原子力委員会は当然、原子力をやるだろうし、もう1つのエネルギー・環境会議は環境とかなり関係付けられている。総合エネ調は、もちろん原子力にも関係あるが、電力の自由化や供給体制に重きをおいて議論すると個人的には思っている。
 
 総合エネ調は、例えば環境のためにどういう税金を取るかなどを考える場だ。これまでは電力のベストミックス自体をここ(総合エネ調)で決めるようなことをやっていたが、僕はそんなことはあり得ないと思う。基本的に、電力生産の計画を国が決めることはあり得ない。日本は社会主義国ではない。政府の役割は、発電の外部不経済効果(他の経済主体の経済活動に及ぼす影響)を税などによって内部化する処置を講じることだ。その上で、ベストミックスは民間が決めるべきだ。

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送] 第四回総合資源エネルギー調査会 基本問題委員会を冒頭から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv70868931?po=news&ref=news#0:02:36

(山下真史)

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カテゴリー : 政治・経済・社会 タグ :
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