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『女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?』の著者・村松秀プロデューサーに聞く「ぐるぐる思考」の必要性

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『女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?』

東大を目指す受験生には少々ショッキングな著書の執筆者である、工学部卒業後 NHKでプロデューサーとして活躍する村松秀さんにインタビュー。自身がプロデュースしたテレビ番組の企画を基に本を書いたという村松さんの学生時代や現在の仕事内容、知力を鍛える「グルグル思考」の必要性について聞きました。

女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?

作者:村松 秀・五月女 ケイ子

出版社:講談社

グルグル思考は世界を変える

―― 中学、高校時代はどんな生徒でしたか。

村松秀(以下、村松) 体が弱かったのであまり活発な生徒ではありませんでした。じゃあ何していたかって思い返すと、テレビやラジオをよく視聴していた記憶が強いです。NHKの『ウルトラアイ』という生活科学番組が当時すごく人気で僕も大好きでしたした。例えば、お酒を飲むと蚊に刺されやすいのかを調べるために、蚊帳の中にわざわざ蚊を入れて、お酒を飲んだ人と飲んでいない人で比べる、という体当たり実験をしていました。

『オールナイトニッポン』というラジオ番組もよく聴きましたね。当時は中島みゆきさん、とんねるずさんなどがパーソナリティで、独特なダラダラ感に無条件に引き付けられました。空気を視聴者と共有できる、というのはすごいことで、現在番組制作をする際にも常に気にかけていることです。心許せる友達とバカ話するのが楽しいと思えるのは、お互いその場の雰囲気や気持ちを共有できているからでしょう。番組側と視聴者が空気を共有することで生き生きとしたメッセージが伝わると考えています。

高校の文理選択のときには理系を選び、理科Ⅰ類を受験しました。父親がエンジニアであるなど親族に理系が多かったこと、文系就職もできるので将来の選択肢を狭めないことなどが理由でした。社会や国語が得意で、文理どっちつかずな人間でした。大学生活も、やりたいことや自分の将来もはっきりしない「モラトリアム」の典型でした。

―― 現役で理Ⅰに合格します。どんな学生でしたか。

村松 駒場の前期教養課程では文系科目もたくさん履修しました。しかし、自分が本当に何をしたいのか結局決められないまま進振り(現在の進学選択)を迎えました。だったらなるべく進路の幅が広い学科に進学するのがいいんじゃないかと思い、コンピューター、半導体など多様なことを学べる電気電子工学へ進学しました。

ところが、進学してみると講義の世界が一気に深くなり「電気電子って得意じゃないんだ」って気付きましたね。「気付くの遅すぎでしょ」って感じですけど(笑)。専門の世界というのは、その道を本当に突き詰めたい人が自発的に学ぶ場所だと実感しました。自分は何か一つを深く細く掘り下げて深めることより、世の中とつながりながらより広く物事を考えたいタイプだと思い直し、このまま電気電子系にいるのはまずいと思いました。自主留年して進振りをやり直したいと思ったのですが、すでに単位を十分に取得していたためそれも叶わず……。なら、どうにか卒業して就職するしかないと考えたときに、自分がずっと大好きだったテレビの世界が単なる夢から具体的な就職先としてにわかに視界に入ってきました。理系で学んだ経験を生かして『ウルトラアイ』のような科学番組を作れるのなら、テレビの道はそれまでの人生を否定せずポジティブに捉えられる選択になると思ったんです。

―― NHKに入局しディレクターやプロデューサーとして活躍します。何を意識して番組を制作していますか。

村松 「エル」ではなく、「ワル」ということですね。情報を「伝える」のではなくメッセージが「伝わる」ことが大事です。伝えることは今や一般の方々でもブログやSNSで簡単にできます。「伝わる」というのは、こちら側のメッセージを視聴者がしっかりと受け取り、そして腑に落ちるということです。ですが、これはきわめて難しい。

「伝わる」ためには、説明を分かりやすくすればいいという単純な話ではありません。例えば、先に述べた「番組側と視聴者が空気を共有すること」を作り出すのも工夫の一つでしょう

プロデューサーとして番組を立ち上げた科学(?)エンターテインメント番組『すイエんサー』には、視聴者に「どういうこと?」と思わせるような「違和感」を与える工夫がたくさんあります。タイトルの意味が全く分からなかったり、火曜日放送なのに「すイ」という言葉が入っていたり。スタジオ収録がなく、MCやゲストはベンチに座り、カメラは固定された小さな一台しか使わない。「黄身がど真ん中のゆで卵を作るにはどうするか」など、そこまで大事そうではないことをなぜあえて番組で取り上げるのか。視聴者は違和感が気になってだんだん癖になってくる。癖になるってことは番組の空気を共有できているということでもあります。心許した友達との会話のように、空気を共有しているからこそ「伝わる」面白さがあるんです。

また「伝わる」ためには伝えるべきメッセージを十分に考え抜く必要もあります。そのために、番組のテーマについて専門家と対等に話せるくらい、徹底的にリサーチし、取材し、学び、テーマを掘り下げます。

例えば、今から20年ぐらい前、環境中の合成化学物質がまるでホルモンのように働き、野生生物や人の生殖機能等をかく乱しているのではないか、という問題があることを知り、ドキュメンタリーで取り上げようと考えました。ところが当時の日本にはこの問題の専門家は10数人しかいない上に、問題となっている合成化学物質のことを皆がばらばらな用語で呼んでいました。そこで専門家たちと議論しながら「環境ホルモン」という科学的な用語を生み出しました。テーマへの深い理解に基づいた平易な用語があるから市民にも伝わりやすくなり、以降、国内外で環境ホルモンの問題が極めて重要視されるようになりました。

―― 『女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?』を執筆しました。今の高校生が「女子高生アイドルに負けない東大生」になるにはどうすればいいでしょうか。

村松 知力とは、思考力や発想力、実践力を束ねた生き抜く力のことですね。それは、簡単に答えが見つからないような問題を、関係ないことまでも含めて無駄にでもとことん考える「グルグル思考」によって鍛えられるものと思っています。『すイエんサー』でリポーターを務める女子高生のモデル・アイドルたちは、「バースデーケーキのロウソクの火を一息で消したい!」など日常の中の素朴な疑問に台本なし、打合せもなしのガチンコで向き合い、「グルグル思考」を徹底的に鍛えてきました。学校教育では決して味わえない、頭が沸騰するような知的なグルグル感は、ばかばかしいようでも、無駄なようでも、とにかく必死に考えることを楽しいと感じられる原動力になります。

彼女たち「すイエんサーガールズ」の知力がどれだけ鍛えられたか知ろうと、東大生とのガチンコ知力対決を企画しました。「紙で丈夫な橋を作れ」などのお題でこれまで4回知力対決をしましたが、なんとすイエんサーガールズが3勝1敗で勝ち越しているのです。すごいことです。

しかし自分の高校生・大学生時代を思い返すと、東大生が負けるのも無理はないと思えるところもあります。私自身、電気電子系の学科に進学してショックを受けるまで「学びとは教えてもらえるもの、与えられるもの」と思っていました。東大に合格したのも学校で与えられたものにうまく対応する器用さをたまたま持っていたからでしょう。学校教育ではどうしても決められた単元を消化し、覚えるべき単元を学ぶことに注力せざるを得ず、グルグル思考を身に付ける時間がなかなかありません。

東大生の良さの一つはAならばBとスマートに論理的に考えられる力ですが、その思考法は直線的です。しかし、世の中の多くの問題は直線的な思考で解けるような単純なものではありません。分からない問題と対峙したとき必ず役立つのがグルグル思考です。私も番組を制作する際、関係なさそうな出来事の間に共通の意味がないかなどさまざまな斬新な切り口で社会を捉えようとトライし続けて、伝える価値のあるテーマを探します。グルグル思考を日常的に鍛えた高校生たちが成長すれば、国内外に山積する課題を解決してくれるのではないでしょうか。グルグル思考は世界を変えるんです。

取材・横井 一隆 写真・久野 美菜子

文:hontoビジネス書分析チーム

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