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安倍首相 生前退位で意見食い違う保守派内の板挟み

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 天皇が「生前退位」の意向を明らかにした8月8日の“平成の玉音放送”は1か月過ぎた今なお、大きな反響を巻き起こしている。いや、むしろ時の経過とともに国民的な議論として広がりつつある。新聞各紙の世論調査では、生前退位に賛成・容認が朝日91%、読売81%、毎日84%に上る。

 ところが、なぜか政治の動きは鈍い。皇室典範では「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」(4条)と定められ、生前退位を認めていない。従って、国会で典範改正が必要になるが、安倍首相は皇統のあり方そのものを見直す典範改正に消極的な姿勢を見せている。

 首相はジャーナリスト・田原総一朗氏のインタビュー(8月31日)にこう“本音”を語っている。

「生前退位は認めるべきだが、まずは特措法で認め、その後で皇室典範の改正も検討すればいい」(Nikkei BP netより)

 政府は「首相の意向」に沿って、今上天皇一代に限り例外的に生前退位を認める特別措置法(特措法)を制定する準備を始めた。

 だが、その方針が明らかになると、皇室典範改正賛成派、反対派の双方から「特措法とは何たることか」という批判があがり始めた。自民党の長老で今上天皇の学習院大学時代の「ご学友」でもある島村宜伸・元農水相に話を聞いた。皇室と政治、その両方を結びつけて語れる数少ない人物だ。

「天皇陛下は自分の後をしっかり継続させることについて様々な思いをお持ちになってあのお言葉になったのだと思います。そうであれば、陛下一代の話ではなく、今後にもつながる軌道を整えることが政府の役割。生前退位を一代限りで認め、皇室典範の改正もしないというのが政府の考えであるなら、それは陛下のお気持ちと遊離している。

 確かに、皇室典範の改正には様々な意見がある。だから政府として面倒だというのもあるでしょう。しかし、それでも将来にわたる皇室のあり方を考えれば、必要な改正は行なわなければならない。面倒だからと皇室典範改正には触れず、特措法で済まそうというのは、総理が本来取るべき対応ではない」

『天皇論』などの著作で知られる漫画家の小林よしのり氏も同意見だ。

「譲位(生前退位)とは即位と一体です。本来、皇室典範を改正しなければできないはずの譲位を特措法をつくって行なうということは、即位まで特措法という例外的な措置で行なうことになる。国の象徴である天皇の即位が憲法と皇室典範という正当な手続きに則ったものではなくなり、天皇の権威そのものを傷つけることになりかねない」

 一方、皇室典範改正反対派は生前退位そのものに反対論が強い。保守政界の重鎮、亀井静香・元建設相の主張は代表的な見解だろう。

「天皇陛下は憲法で『国政に関する権能を有しない』と定められている。ですから、今回のお気持ちのようなことを公に言うお立場にないんです。天皇陛下は非常にまじめな方だから、海外への戦没者慰霊や被災地慰問など、できることは何でもやろうとされるあまり、本来の職務が正確に果たせないとお考えになり、生前退位のお気持ちを述べられることになった。もっと早く宮内庁が公務を減らすべきだった」

 生前退位をめぐる見解は島村氏や小林氏と真逆だ。しかし、政府が「特措法」という手段で対応することにはやはり厳しく批判した。

「政府は生前退位に一代限りの特措法で対応する姿勢だが、これは間違い。本来、仰ってはならない陛下の個人的なお気持ち表明に、政治が応えてはならないのです。もし、天皇の意向に沿って生前退位を認める対応をすれば、いずれは即位を拒否する方が出てこないとも限らない。そうなれば日本の天皇制は持たなくなる。天皇制の終わりの始まりになってしまう」

 保守派内の意見の食い違いに板挟みとなった安倍首相は、苦し紛れに特措法による一代限りの生前退位に逃げ込もうとして、逆に双方から批判を浴びるという皮肉な結果になっている。

※週刊ポスト2016年9月30日号

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