ガジェット通信

見たことのないものを見に行こう

第76回 新入訓練は辛い(その1)

DATE:
  • ガジェット通信を≫

 話が前後するが、刑務所生活を時系列に従ってもう少し詳しく説明していこうと思う。
 入所して最初の原則2週間は新入ということで「考査工場」への配属となる。別に工場ではないのだがそのように命名されている。12月10日に入った雑居は新入雑居で先住者が3人いた。

 一人は2日後に工場に配属となる者(前期組という)、他の二人はその後1週間で配属となる者だ(後期組という)。すぐに工場配属になる人については短い間でしかなかったのであまり印象がない。
 残りの二人は、鹿児島でトラック運転手をしていた中年とまだ若い人である。どういうわけか、ここでは何の犯罪をしたかについて覚せい剤以外はあまり喋らないし、聞くこともしないという暗黙の了解があるようだ。刑期については自ら言う人もけっこういるのだが。だから同房の二人が何をしたのかは知らない。

 運転手は気のいい人だった。刑期は1年と短かったように記憶している。余暇時間にはよく私の近くにきていろいろな話をしていた。
 ある日読んでいる本を持ってきて、この字が分からないから教えてくれと言う。「邂逅」だった。「カイコウ」だよ、出会いというような意味だよと教えたら喜んでおり、いつまでも「山本さん、すごいな」と連発していた。妙にうれしかった。

 若い人は夕食後しきりに奥さんに手紙を書いている。また大学ノートの裏表紙に刑期満了までのカレンダーを書いており、毎夕食後にその日を斜線で消していた。私もマネをした。この人は出所後には介護の仕事をしたいそうで、ここでも医務での介護を希望していた。

 考査工場では、工場配属のための適性検査や面談、刑務所生活の心得などの講義があるが、何よりものメインは厳しい訓練である。
 この訓練によって身も心も刑務官の言いなりになるようにしつけられ、真の受刑者となっていく。この訓練を部屋の出入りから見てみる。この訓練をくだらないと思うかどうかだが、私はくだらないものと思っている。

 出房となったら、流し台の下にある靴箱から自分のスリッパを取り(雑居ではそこに置いてある)、出入り口の土間にきちんと揃えて置く。少しでも揃っていないと「きちんと揃えろ!」と雷のような大声で怒鳴られる。スリッパを揃えたからといって、すぐに履くわけではない。
 いったん畳の縁まで後ずさりに下がって、両手は指の先まで伸ばして指と指の間をあけないで、太ももの横にくっつけ、直立不動となる。その状態で「○○番、出ます」とあらん限りの大声で言う。この声出しは、少ない人で2回、多ければ5回ほども「声が小さい、聞こえない!」とやり直させられる。

 刑務官の「よし」の声で一歩を踏み出す。ここでのすべての行動は、刑務官の「よし」との声がなければ始まらない。やれやれ大声出すのも大変だし下らないなと思いつつ、「よし」との声で畳の縁から一歩踏み出すと、そこで、いきなり「違うだろう!」の怒鳴り声。あっと思うがもう遅い。ここでは、すべて左足から一歩を出さなければならないのだ。最初からやり直しとなる。
 入り口を出ると、その出たところで検身となり、身体検査を受ける。履いたばかりの靴下も脱ぐ。持って出させればいいのにとは思った。検身が終了すると2列縦隊で行進をして考査工場(教室)へと向かう。
 わずか、10メートルほどの距離だが、その間「手を振れ!腿を上げろ!」と怒鳴りまくられる。「1,2」と声も出さなければならないが、それに対しても「声が小さい!」との怒鳴り声が飛んでくる。(つづく)

元記事

第76回 新入訓練は辛い(その1)

関連情報

法、納得!どっとこむの記事一覧をみる ▶
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

TOP