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『1/6 LONELY NIGHT』は氣志團の深淵なる世界を魅せつけたバリバリのメイジャー1stアルバム

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今週末の9月17日と18日の両日、『氣志團万博2016 ~房総ロックンロール・チャンピオン・カーニバル~』が開催される。“ありえないメンツが集う究極のイベント”という煽り文句を何ら誇張に感じないほど、ものすごい出演者が揃った野外フェスで、ホストである氣志團の手腕の確かさ、人徳の高さをうかがわせるイベントである。今回はその氣志團のアーティスト性を、メジャー1stアルバム『1/6 LONELY NIGHT』から改めて検証してみたい。

日本社会に横たわるヤンキー文化
2010年、北野武監督の映画『アウトレイジ』が公開された時、とある映画評論家が劇場に“リアル・アウトレイジ”な人たちが結構な割合で訪れている様子を目の当たりにして、「映画業界は大事なファン層をないがしろにしてきた」といった論調で、所謂ヤクザ映画がいつの間にかレンタルビデオ・DVD市場中心の作品になっていたことを揶揄していた。その続編である『アウトレイジ ビヨンド』(2012年)の興収が前作の倍となったことも、この種の作品を支持する層が一定数以上存在することを証明したに他ならないし、その後の北野監督作品『龍三と七人の子分たち』がコメディーながらも元ヤクザが主人公だったことは、そのニーズを配給側が実感してのことだったのだろう。かように、ニッチとはまた別の意味で、確実に一定層の需要のある市場というのは存在しているもので、映画で言えば今夏公開の『シン・ゴジラ』はそこを刺激して大ヒットしたのだろうし、“ヤンキー (不良少年)文化”は確実にそのひとつと言える。
ヤンキー文化の発祥には諸説あろうが、70年代の“ツッパリ”辺りを端緒と捉えても大きく観点はずれないはずだ。リーゼントヘアで、“長ラン”“短ラン”等の変形の学生服、“ドカン”“ボンタン”等の幅の広いズボンに身を包み…といったところがファッション的なデフォ。今、巷ではほとんど見かけないので、「どこに需要があるんだよ!?」と突っ込まれるかもしれないが、コミックの世界では確実に横たわり続けているジャンルである。80年代初期の『BE-BOP-HIGHSCHOOL』『湘南爆走族』、90年代の『クローズ』『疾風伝説 特攻の拓』、00年代~10年代では『WORST』『ドロップ』辺りがその代表で、『クローズ』はその実写映画『クローズEXPLODE』の公開が14年なのだから、このジャンルの勢いが衰えない何よりの証拠と言える。青年漫画誌や月刊漫画誌には今も尚このタイプの作品があるので、ヤンキー文化は今後も脈々と続いていくことをうかがわせる。では、音楽シーンにおいてヤンキー・カルチャーを代表するアーティストは…と言えば、これはもう80年代の横浜銀蝿、そして02年にメジャーデビューを果たした氣志團がその双璧であることは間違いない。

徹底したヤンキー文化への敬愛
横浜銀蝿に関して言えば、当時は良くも悪くもヤンキー文化が巷にあふれていた頃で、巧く時流に乗った感もあったが(無論、それだけでヒットチャートを独占できるほど当時の音楽シーンも甘くはなく、アーティストとして彼らに実力が備わっていたことは言うまでもないが)、氣志團が登場した90年代後半にはすでに所謂“裏原系”と言われるファッションブランドが人気を博しており、リーゼントにサングラス、変形学ランにボンタンという出で立ちは、ある世代より上には確実にアナクロと捉えられたに違いない。しかし、80年代をリアルに体験していない世代にとって氣志團はかなりの興味深さをもって受け入れられたのだから、サブカルチャーの世界は分からない。60年代後半に爆発的な人気を誇ったグループサウンズが80年代に“ネオGS”として再評価されたことがあったが、横浜銀蝿から約20年を経て氣志團が現れたというのは、これに似た構造だったのかもしれない。ただ、氣志團が単に懐古主義的に盛り上がるのではなく、新世代にも圧倒的に支持されていったのは、彼らの──おそらくはバンドの中心人物である綾小路翔(Vo)の──自己プロデュース能力の高さに決定的な勝因があったことは疑いようがないであろう。
若干アップデイトされていたものの、前述の通り、その出で立ちは70~80年代ツッパリそのものであり、メジャー1stアルバムのタイトル『1/6 LONELY NIGHT』は、漫画『湘南爆走族』の中でも特に人気の高かった物語である『1/5 LONELY NIGHT』からの引用で、M1「房総与太郎狂騒曲」は、これまた漫画『BE-BOP-HIGHSCHOOL』の『高校与太郎狂騒曲』からの引用である。また、M4「湾岸夜想曲 ~ルシファーズ・ハンマー’94~」は漫画『疾風伝説 特攻の拓』に登場する天羽時貞の愛車、ヤマハSR400の別称であろうし、M11「國道127號線の白き稲妻」の《「コバルトブルーの夏の朝を迎えに、パールホワイトのFXは今夜も疾走り出す。」》の“FX”とは、同じく漫画『疾風伝説 特攻の拓』に登場する鳴神秀人の愛車カワサキZ400FXのことであろう。もっと言えば、M7「暁がよんでる」は、《あの頃の俺が もう少し強ければ/大人だったなら/おまえの弱さに 気づいてやれたね/夜明け 待ち侘びて》という歌詞が、漫画『湘南爆走族』の『青ざめた暁』を彷彿させるし、M10「黒い太陽」の《そのスピードで 魅せてくれよ/夜を照らす太陽 黒い太陽 さぁ!!》は、『湘南爆走族』の作者である吉田聡の、これまたヤンキー・暴走族漫画『荒くれKNIGHT』の主人公、善波七五十の異名“真夜中の太陽”に由来したのではなかったかと邪推できる。つまり、モロにヤンキー文化のオマージュなのである。

インスパイアを隠さないサウンド構築
さて、ここからが真の氣志團のすごさ。これでバンドサウンドがドゥーワップとかモロにオールディーズだったり、3コードのR&R中心だったりしたら、それはそれで話題にはなったろうが、幅広い世代から支持されたかどうか。おそらく一部好事家たちの嗜好品に留まったに違いない。M1「房総与太郎狂騒曲」とM11「國道127號線の白き稲妻」に入った単車のエキゾーストノートは横浜銀蝿1stアルバム『ぶっちぎり』を彷彿させるが、それ以外にはあまりヤンキー文化の影が感じられないのである(強いて言えば、M6「愛と平和」とM11「國道127號線の白き稲妻」辺りにその匂いがなくもないが、何もロッカバラードはヤンキーの専売特許ではないのでその指摘は当たらないだろう)。サウンド面においては、むしろ多くの人が連想する、分かりやすい不良性はなく、実にバラエティー豊かなのだ。M2「甘い眩暈」、M10「黒い太陽」ではBOØWYやBUCK-TICKらへのリスペクトを感じさせる一方で、M4「湾岸夜想曲 ~ルシファーズ・ハンマー’94~」、M5「デリケートにキスして」ではサーフロック的というか、スパイ映画BGM的というか、スリリングなギターアプローチを聴かせる。かと思えば、M8「涙BOY涙GIRL」では渋谷系への愛情も示している。また、自らの音楽性をパンクとヤンキーの融合“ヤンク・ロック”と名付けた通り、M3「鉄のハート」ではパンクチューンも見せるが、決して分かりやすいだけのパンクではなく、M5「デリケートにキスして」は前述の通りのアプローチを見せている他、M7「暁がよんでる」では間奏で3拍子に転調するというドラマチックなアレンジも響かせている。多彩であり、器用と言い換えてもいいと思う。
個人的には、外見からも音像からもオマージュとリスペクトとが溢れている状態──言わば“全部乗せ増し増し”的な感じこそが氣志團の本質だと思う。インスパイアを受けたものをスポイルせずに再構築する手腕は本当に素晴らしく、もっと称えられていいと今も思うほどだ。氣志團の容赦ない愛情露呈はこの他にも多々ある。この『1/6 LONELY NIGHT』のジャケットは伝説的なパンクバンド、INUのアルバム『メシ喰うな!』のもじりだし、メンバーのシルエットが入ったロゴマークはBOØWYのロゴがモチーフである。“氣志團現象”というライブタイトルはBUCK-TICKのライヴタイトル“BUCK-TICK現象”から、02年3月に代々木公園野外ステージで行なったフリーライブ“氣志團 原宿暴動 3.30”は、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの“TMGE YOYOGI RIOT 2001523”から拝借したものだ。とにかく徹底しているが、これだけに留まらないのがすごさを通り越した氣志團の恐ろしさ。M5「デリケートにキスして」。このタイトルは、アニメ『魔法の天使クリィミーマミ』オープニングテーマ「デリケートに好きして」から、歌詞に出てくる《♂ ♀ KISS!!》は松本明子のデビューシングル「♂×♀×Kiss(オス・メス・キス)」からの引用である。“氣志團万博”の内容や、デビュー10周年を記念して開催した対バンスタイルでのシリーズGIG『極東ロックンロール・ハイスクール』で多くの漫画家やイラストレーターがTシャツのイラスト・デザインを担当したことでも明白になったが、氣志團はヤンキー、ロックに限らず、アニメ、アイドル、所謂サブカルにも造詣が深いのである。嗚呼、深淵なるかな、氣志團の世界。この情報量の豊富さは、もはや邦楽シーンの至宝と言って差し支えないと思う。

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