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低迷する日本のシンクロ界を立て直した、井村監督の奇跡の指導力とは? メダル獲得の秘訣は「優れた状況観察能力」と「臨機応変な指導力」

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リオ五輪で2大会振りとなる念願の銅メダル(チーム種目は3大会ぶり)をもたらした井村雅代日本代表監督。日本シンクロの「お家芸復活」を世界に大きく印象づけた。

結果にこだわり、世界の第一線で32年間結果を出し続けてきた彼女の言動から、一流の結果を目指すビジネスパーソンやメンバーを率いるマネージャー/経営層が学ぶ事は多いのではないだろうか?

写真提供:Enrico Calderoni/アフロスポーツ

日本及び中国で、オリンピック9大会連続でメダルをもたらした彼女に数年間の取材を重ね、勝負哲学や波乱のシンクロ人生に迫った最新書籍『井村雅代 不屈の魂』(河出書房新社2016年6月発売)から2回にわたってエッセンスをお届けする。今回は後編。前編はこちらから。

■勝つための戦術と臨機応変な対応策の提示

これらの個人への鼓舞やコーチングに加えて、井村は勝つための状況分析と戦略立案実行に余念がない。数多くのエピソードを紹介した書籍からその幾つかピックアップしてみよう。

【その1】「勝つための戦略と一貫した行動」

2015年の世界選手権では、審判員が各国の技術レベルを判断する「チームのテクニカル演技」で勝つための戦略を練った。

まずは音楽と演技構成だ。曲に合わせて演技をするシンクロでは、音楽の出来栄えが演技の成否を大きく左右する。表現力の力量が十分に備わっていない選手の現状を見極め、作曲家の大沢には「表現力を必要とせず、一本調子のリズムを叩きこむように刻む日本の曲」をオーダーした。ねらいは、メダルを撮り続けていた頃の強かった日本の姿を審判員たちに思い出してもらうことにあった

続いては「井村の知名度の活用」だ。1984年から2004年まで六大会連続メダルをもたらしたその名を知らない者はシンクロ界ではいない。今の日本代表はその井村が率いていることを印象付ける必要があった。そのために大会期間中、選手に自分と同じスポーツウェアを着るよう求めた。井村の指導を受けるチームであるとアピールするためだ。迎えた本番では久しぶりに見せる、日本らしい、正確で難易度の高い演技を見せつけ銅メダルに輝いた。

【その2】「冷静な状況分析とベストな対応策の提示」

会場プールの特徴分析と対策も、シンクロ競技において重要なポイントの一つである。

例えば、リオ五輪の会場となったMaria Lenk Aquatics Centreは、選手にとって難敵の屋外プールだ。普段練習する室内と比べて、泳ぎの目印にできる天井がなく、風により倒立した脚が煽られまっすぐに保つことが難しい。本番会場を事前視察した井村は、同じく屋外プールのあるグアムでの集中合宿、サンパウロでの事前合宿を行い、万全に傾向と対策を練ってきた。

かたや、2015年世界選手権では、本番2日前に目にした、室内超巨大スタジアムプールに対して「予定していた演技では試合会場全体を魅了することが出来ない」と直感し、超短期間での演技の修正点(上半身の使い方、水面への当たり方)を具体的に指示し、見事メダルを獲得している。

この会場で0.1点でも多く点を取るにはどうしたらいいか、本番までの二日間、必死に考えました」と井村は振り返る。

大きな国際大会では、予測のつかないことに出くわすことが少なくないが、井村はその場に応じて直ちに対応できる状況察知能力と、引き出しを持っているのだ。

以上のように、数々の勝利におけるプロセスや井村の言動を紐解くと、単なる精神論・根性論ではなく、「状況判断に長けた臨機応変な指導」「経験から裏打ちされた明確かつ各論でのきめ細やかな指導」など、まさしく世界で戦うプロフェッショナルコーチの姿と言えよう。

■グローバルリーダーに通じる、中国代表監督時代のエッセンス

最後にもうひとつ。井村氏といえば、世界7位の定位置だった中国チームに2大会連続のメダル成果をもたらし、中国でもシンクロの母とも呼ばれている。その成果の背景にも、波瀾万丈の濃い物語と戦術ノウハウが盛りだくさんである。

書籍『井村雅代 不屈の魂』の第2・4・5章では中国代表監督時代の約4年間の濃いエッセンスに迫っている。今回は頭出しのみとなるが、以下の通りビジネスパーソン、グローバルで活躍する人材にとって、学べる内容が多いのではないだろうか?

・中国代表監督就任決断の背景と井村を支えた人達

・中国が世界で勝つための戦略と戦術(世界が中国をどう捉えているか?の分析と対策)

・中国と日本のスポーツに対する姿勢の違いと背景

・中国人(選手/組織トップ)とのコミュニケーション

・大きな危機をどう乗り越えたか?(北京五輪前の四川地震、選手の水疱瘡)

『あした』のことはわからない。あるのは『いま』だけ」と常々話す井村だが、東京五輪を迎える2020年の夏はどこでどうしているのだろうか?

きっと69歳になった井村がプールサイドで情熱を込めて怒鳴っている姿があると強く期待しながら、今後の井村監督の動きに益々注目したい。

参考図書

井村雅代 不屈の魂: 波乱のシンクロ人生 (河出書房新社)

作者:川名 紀美

文:大森拓人

スポーツライター、社会心理学専攻

大学で行動文化学社会心理学科を学んだ後、企業スタートアップやソーシャルセクター等の立ち上げに関わる。社会心理学的切り口(個人と個人の関係性、個人と集団に与える影響)を基に、一流スポーツ選手から学ぶ「モチベーションマネジメント」「リーダーシップ、コーチング」「戦略・戦術」等の記事を制作。特に関心を持るスポーツ分野はテニス・シンクロナイズドスイミング・バレーボール・陸上競技

井村雅代

【略歴】

1950年大阪市生まれ。中学生になりシンクロを始める。

大阪市内の中学校などで保健体育科の教諭を務めた後シンクロ指導者となり、1978年(昭和53年)から日本代表コーチに就任、1985年(昭和60年)からは「井村シンクロクラブ」を創設、競技者育成を行い独特のスパルタ式指導法で世界的な選手を次々と育てた。

【指導者として五輪でのメダル受賞歴】

ロサンゼルス(デュエット銅メダル)、ソウル(デュエット小谷実可子・田中京組銅メダル)バルセロナ(ソロ奥野史子銅メダル)、アトランタ(チーム銅メダル)、シドニー(デュエット立花美哉・武田美保組、チーム種目それぞれ銀メダル)アテネ(デュエット立花・武田組、チーム種目それぞれ銀メダル)

北京(中国代表チーム銅メダル)ロンドン(中国代表デュエット銅メダル、チーム銀メダル)、リオ(デュエット乾友紀子・三井梨紗子組、チームそれぞれ銅メダル)

著者:川名紀美

1947年生まれ。ジャーナリスト。1970年に朝日新聞社入社。神戸支局、大阪本社学芸部、社会部を経て1995年から論説委員。社会福祉全般、高齢者や子ども、女性の問題に関する分野の社説を担当。2009年5月、朝日新聞社退社。

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