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アズテック・カメラの『ハイランド・ハードレイン』は、ネオ・アコースティック・ブームを世界中に広めた定番アルバム

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35度を超すような暑さが毎日続くと、さわやかな音楽を聴いて少しでも涼しい気持ちになりたいもの。久々に、アズテック・カメラのデビューアルバム『ハイランド・ハードレイン』をレコード棚から取り出してみると、そのみずみずしい柔らかなサウンドに暑さを忘れて聴き入ってしまった。そんなわけで今回は、テクノポップ全盛のロック界にアコースティックなサウンドを持ち込んで成功を収めたネオアコの代表的なアルバムを紹介する。

80年代初期のロック事情
70年代中期から音楽産業が爆発的に巨大化することで、ロックンロールが登場した50年代と同じように若者の怒りを買い、既成の音楽を一度破壊するための媒介としてパンクロックが登場する。しばらくすると、パンク自体も肥大化した音楽産業に取り込まれ、商業ベースに乗ってしまう…という状況について、これまでの名盤紹介でも都度述べてきたわけだが、これまでの音楽の変遷は、全て“アナログ録音”という同一の環境下の話であって、これが80年代に突入すると“デジタル録音”や“デジタル機器”の台頭で、ロックを取り巻く状況は一変する。
80年代初頭から、シンセサイザーをはじめとするデジタル機器の普及によって、ロックの方法論は大きく変わろうとしていた。要するに、テクノポップやエレクトロポップと呼ばれる音楽が登場、ロック、ソウル、ディスコ、ジャズなどの音楽は、一部を除いてデジタル機器を使ったレコーディングの全盛時代に突入する。YMO、クラフトワーク、バグルスなどに代表される初期のテクノポップは世界中で大流行、その後ユーロビートやニューロマンティックスへと移行しながら、その多くがダンス音楽の一部として組み込まれていく。これは80年代のデジタル機器がまだ誕生したばかりで、無機質なリズムしか演奏できなかったことと、ディスコなどでは逆にその無機質さがダンスに向いているということで受け入れられたからである。

ポストパンクのミュージシャンの活動場所
一方、70年代後半から続くパンク~ニューウェイヴの波も、巨大なレコード産業に取り込まれていく。ロックスピリットを持ったミュージシャンほど巨大化したレコード会社を避けるようになり、インディーズという新たな表現場所を獲得し活動していく。ジョイ・ディヴィジョン、ザ・キュアーなどの耽美派や、プレファブ・スプラウトやザ・スミスなどのメロディー重視派、エルヴィス・コステロ、ニック・ロウらのニューウェイヴ派もインディーズ出身で、80年代にはラフ・トレード、チェリー・レッド、ファクトリー、4AD、スティッフ、クレプスキュールなど、注目を集めたインディーズレーベルは数多い。

アズテック・カメラの登場
アズテック・カメラは1980年にスコットランドで結成され、メンバーチェンジを繰り返しながら、レコードデビュー時にはギターとヴォーカルのロディ・フレームとベースのキャンベル・オウエンスの二人組となっている。81年にインディーズのポストカードから2枚のシングルを発表後、中堅の注目株であるラフ・トレードへ移籍している。そこで3枚の12インチシングルをリリース、これが地元イギリスだけでなく、日本の輸入盤専門店でも注目を集めることになる。
当時はディスコが流行っていたから、より長時間の収録が可能(言うまでもないが、当時はCDではなく、まだレコード盤が本流の時代である)で音質の良い12インチシングルが全盛で、ロックのシングルレコードも例外ではなかった。特に同じ曲のバージョン違い(エクステンドバージョンやラジオミックスなど)などにも人気が集まっていた。現在ではCD化に際してボーナストラックとして、当時の12インチシングルからバージョン違いやリミックスバージョンが収録されていることも多い。

本作『ハイランド・ハードレイン』について
1983年にリリースされた本作は、テクノ全盛にもかかわらず生ギターを中心にしたサウンドと甘酸っぱいメロディーが詰まっていて、デジタル機器のチープな音に飽きがきている時でもあっただけに、そのみずみずしいサウンドは大いに認められ、世界的な注目を集めるほどになった。
他にもペイル・ファウンテンズ、ザ・スミス、ヤング・マーブル・ジャイアンツ、エブリシング・バット・ザ・ガール(ベン・ワットとトレーシー・ソーン)、フェルト、ブルーベルズなど、ネオ・アコースティック派は数多く存在したが、アズテック・カメラほど素直なサウンドを持ったミュージシャンはほかに見当たらなかったし、ロディ・フレームのメロディメーカーとしての際立った才能もあって、現在に至るまで多くの人に愛される結果となっている。
収録曲は全部で10曲。1曲目の「思い出のサニー・ビート(原題:Oblivious)」はラフ・トレードからの第二弾シングルで、彼らの代表曲のひとつ。青春映画のタイトルトラックとしても使えそうな、トロピカルムードあふれる軽快なナンバーで、後の渋谷系ミュージシャンたちにも大きな影響を与えたはずだ。
3曲目の「ウォーク・アウト・トゥ・ウインター」は、ネオアコ全体を代表する名曲中の名曲。当時、ラフ・トレードのミュージシャンを集めたコンピ『Radio Twelve』(‘83)に、この曲の別テイク(7分46秒におよぶロングバージョン!)が収録されていて、それが欲しいためにこのアルバムを買うはめになったことを昨日のことのように覚えている。他にも「ピラー・トゥ・ポスト」や「バック・オン・ボード」など、アズテック・カメラの代表曲というだけでなく、ネオアコの代表曲がいっぱい詰まっているので、興味のある人はぜひ聴いてみてほしい。ポストパンク~テクノポップ全盛という時代に、アコースティックなサウンドで勝負するところに、僕は彼らのロックスピリットをビシビシ感じるのである。
時代はデジタル機器とダンス音楽を要求していただけに、彼らのやり方が時代に逆行しているかのように思っていた人も少なくなかったが、アズテック・カメラの立ち位置は、同じアコースティックでも60年代のフォークロックや70年代のシンガーソングライターの音楽とはまったく違ったテイストである。メロディーの組み立ては、ロックというよりはポップスに近いし、デジタル機器も隠し味として取り入れていることなどから見ると、むしろ90年代を見据えた最も新しいロックのスタイルを、ロディ・フレームは狙っていたのでないかと僕は考えている。

おまけ
なお、現在リリースされている本作のCDは、12インチシングルのB面曲を3曲追加した全13曲入りバージョンが主流となっている。「ウォーク・アウト・トゥ・ウインター」のロング・バージョンやヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」のカバーが聴きたいという人は、現在は廃盤の『カバーズ&レア』(‘94)を中古レコード店で探してください。

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