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GRAPEVINEの初期傑作『Lifetime』に見る、優れた芸術作品ならではの表現スタイル

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現在、盟友とも言えるTRICERATOPSと対バン形式で、ライヴツアー『IN A LIFETIME』を決行中のGRAPEVINE。このツアーは2014年以来、2回目となる“アルバム再現ライヴ”で、文字通り、1枚のアルバムを曲順に沿って生演奏で再現するというライヴステージだ。今回、GRAPEVINEは『退屈の花』、TRICERATOPSは『TRICERATOPS』と、共に98年リリースの1stアルバムを演奏するということで、新旧ファンの垣根を超えて話題となっている。前回の本コラムでは『TRICERATOPS』を取り上げたので、併せてGRAPEVINEは『退屈の花』を…とも考えたが、バインと言えば、やはりこちらでしょう! バンド史上最高傑作との呼び声も高い『Lifetime』を紹介する。

テーマが不明確だからこその芸術
「何がテーマだなんて、簡単に言えるならこんな苦労をして、映画なんて創らないよ。ひと言で言えるなら、プラカード持って町を練り歩くさ」。映画監督、黒澤明が残した言葉である。名言であり、至言と言っていいと思う。確かに、言いたいことがはっきりしているなら、それを言うなり書くなりすればいいわけで、コミュニケーションの手段としてはそうするのが早い。しかし、人間の思うところ、考えるところ、感じるところはそんなに単純ではない。色に例えると、それらは決して原色ばかりではなく、中間色であったり、あるいはマーブルであったり、グラデーションであったりするのが普通である。だからこそ、映画は時間をかけて物語を練り、人を配し、画を撮り、音を録り、フィルムをつなげるのだろう。映画に限らず同様のことは芸術全般に当てはまると思う。無論、音楽もしかり。簡単に説明できる感情や思想なら、それを書いたプラカードを持って町を練り歩けばよい。それらが複雑であったり、捕らえどころがなかったりするからこそ、メロディーがあり、リズムがあり、楽器のアンサンブルがあるのだろうし、もっと言えば、アーティストたちはそれらを何曲も集めてアルバムを作るのだろう。時々、「今回のアルバムのテーマは何ですか?」なんて質問を見かけるが、これは完全に御法度。ちなみに黒澤明はインタビューで「この映画は何がテーマですか?」と聞かれると、決まって不機嫌になったと言われる。我々も気を付けなければいけない。
即ち、大抵のアーティスト、ミュージシャンが発信しているものはそんなに簡単に言葉で説明できるものではないということになる。歌詞は言葉であるだけに作者の感情や思考がその他の要素以上に伝達されやすい印象もあるが、さにあらず。実際、《人にやさしく してもらえないんだね/僕が言ってやる でっかい声で言ってやる/ガンバレって言ってやる》(THE BLUE HEARTS「人にやさしく」)や《僕等は泣くために 生まれてきたわけじゃないよ/僕等は負けるために 生まれてきたわけじゃないよ》(同「未来は僕等の手の中」)辺りは比較的に分かりやすいメッセージと受け取れるが、《ドブネズミみたいに美しくなりたい/写真には写らない美しさがあるから》(同「リンダリンダ」)は字義通りには読み取りづらかったりする。また、“分かりやすい”とは書いたが、上記の歌詞はいずれも行間を読ませるに十分で、文章だけでも味わい深い代物だ。こうした作風は、何も甲本ヒロト、真島昌利に限ったものではなく、井上陽水、桑田佳祐らの御大にも見られるし、それこそ洋楽では枚挙に暇がないので、これはある意味、ロックの醍醐味と言えるのかもしれない。前置きが随分と長くなったが、歌詞と言えば、GRAPEVINEを忘れてはならないであろう。その文学的な歌詞は当代随一、いや、上記大御所にも匹敵する邦楽史上、屈指の表現スタイルではないかと思う。

曖昧でありつつも深みのある歌詞
《素晴らしき迷路に舞うメッセージ/見とれては消えた/めぐりあうたびに溺れて 見失うたびに胸焦がしてた/願いは波に揺られて まだ見えない明日へ/何も変わらない朝へ》(M2「スロウ」)。

《そうきっと 急ぎ疲れたんだ ほんの少し/情熱を 抱えたままで立ってたのさ/何もかも全て受止められるなら 誰を見ていられた?/涙に流れて使えなかった言葉を 空に浮かべていた/いつも いつも/心はただここにあった》(M4「光について」)。

《捨てられない言葉が唯邪魔になるだけ/願ってはみた――/”さよなら”の暑さがまた僕等を焦がした/こころが真白にした 君がいない空/舞上っては消えるから》(M10「白日」)。

《真夏に咲いた花は枯れて/あの日歩いた道忘れて/話疲れた夜を越えて/息を染めた/無駄な夢を見てました 意味の脆さも知ってた/壁の前に立ち尽した 君の姿を見つけた》(M12「望みの彼方」)。
いずれの歌詞も物語がはっきりと分かるものではない。心情の吐露、あるいは回顧のようだが、それすらも明確ではない。しかし、明日がまだ見えなかったり、言葉は涙に流れて使えなかったり、あるいは捨てられずに唯邪魔になるだけだったり、花は枯れたり、無駄な夢を見たりと、決して明るい内容でないことは何となく分かる。無常観と言ってしまうと具体的になりすぎて色気をなくすのかもしれないが、そんな感じであり、行間だらけ──いや、行間を読むというより、雰囲気を汲み取るのが精いっぱいといった印象だ。この曖昧でありつつ(曖昧であるがゆえに…とも言えるか?)、深みがある歌詞はGRAPEVINEというバンドの大きな特徴であり、武器と言える。作詞を手掛ける田中和将(Vo&Gu)は、過去のインタビューで歌詞は自らの体験から導き出されたものであることを認めていたので、リリックの内容に虚偽はなかろう。また、「聴いてくれてる人たちが、音楽に触発されて、それぞれの映像を見てくれれば一番だと思う」とも述べていたそうで、あえて想像の余地を残しているのは間違いない。その結果、作り手と受け手との間に、その組み合わせそれぞれにしかあり得ない接合点が生まれるのだと思う。そこに相互作用が働いているかどうか分からないものの、少なくともこの活動そのものは芸術の根幹と言える。

旋律、サウンドにも内包された芸術性
随分と大仰な書き方をしてしまったが、誤解を恐れずに言えば、GRAPEVINEのリリックは小難しいものもあるのだが、その小難しさを小難しいままに出しているではなく、きちんとポップミュージックと成立させている点が彼らのすごさだろうと思う。その要因は言わずもがな、いいメロディーとサウンドにある。メロディーはメンバー全員が手掛けるが(この時期は4人)、世評が高いのは亀井亨(Dr)の作る旋律であろう。ものすごくキャッチーというわけでも、分かりやすい大衆性を帯びているわけでもなく──加えて言えば、田中のヴォーカリゼーションも極めて個性的なわけでも、圧しが強いわけでもないのだが、それゆえにか、何者にも似ていないGRAPEVINEらしさを生み出している。これまた言葉にしてしまうのは何とも色気のない話だが、ウエットと言おうか、センチメンタルと言おうか、叙情的と言おうか、実にエモーショナルなメロディーである。
ギターサウンドはさらにエモーショナルだ。ソウルミュージックとは別の意味でソウルフルと言ってもいい。西川弘剛(Gu)が奏でるギターはオルタナ系のラウドさ、ノイジーさを如何なく発揮しているが、レッド・ツェッペリン=ジミー・ペイジの影響を感じさせるメロディアスさを随所で響かせている他、M1「いけすかない」、M6「Lifework」、M 11「大人(NOBODY NOBODY)」等ではブルースフィーリングを感じさせるなど、ベーシックにはオールドスクールなロックンロールやR&Bがあることも分かる。それでいて泥臭くないように仕上げているのは、本作から5thアルバム『another sky』までタッグを組んだプロデューサー、根岸孝旨氏の功績もあるのかもしれない。M13「HOPE(軽め)」ではサイケデリックなサウンドを施してはいるが、洋楽マニアが趣味的にやっているような、“これ見よがし”感全開のそれではないところにも好感が持てる。サウンド面においても、偏った鳴りを見せていないのもGRAPEVINEらしさと言えるかもしれない。
さて、まとめると、曖昧だがそれゆえに想像の余地を残す歌詞、エモーショナルだが押し付けがましくないメロディー、ソウルフルだがしっかりと抑制されたバンドサウンドが三位一体となっているのがGRAPEVINEである。わざと回りくどい言い方をしたが、要するにこのバンドを構成する要素には、はっきり“これだ!”と言及できるものが少ないのである。しかしながら、彼らの音楽を聴いたことがある人、あるいは恐縮ながらここまでの拙文を読んでいただければ説明の必要はなかろうが、GRAPEVINEの音楽には、それを聴いた時、受け手の精神、感覚に何らかの変動があるものであることは間違いない。これまた彼らの芸術的センスを証明するところである。その上、この『Lifetime』がデビュー2年目の99年に発表された2ndアルバムであることも忘れてはならない。栴檀は双葉より芳しであり、秀才は晩成にしかず──『Lifetime』はGRAPEVINEがそういうバンドであることを示す名盤である。

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