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助けを呼ぶキャベツ、立ち聞きするナズナ

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植物が会話をしている? 「そんなバカな」と決め付けるのは早計だ。
彼らには彼らのコミュニケーション手段があると分かってきた。

あらためて、植物と動物とは違うということ

植物は動けない。動物の目鼻口のように役目が定まった装置が、決まった数、いちばん都合の良いところにちゃんと配置されているわけでもない。葉っぱの繰り返しだ。でも光合成などというスゴいことをする。エイリアンと言ってもいい。だから、我々の認識(常識?)で植物を判断してはいけないのだけれど、往々にしてそれをやってしまう。

「植物が助けを呼ぶなんて無理」「立ち聞きするって、耳ないのに」「そもそも、それを考える脳がないじゃん」という考え方は、往々にして本人の気付かぬままに、ヒトの立場で全ての生き物を分かろうとする(潜在的な)思考回路に起因するのだろう。ここでは、キャベツやシロイヌナズナなどの植物を用いて研究してきた我々の成果を紹介したい。

助けて! をどう伝えるか

まず植物は「いつ」「誰に」助けを伝えるのか? 植物の主要な敵の一つは害虫である。植物は、害虫の食害を受けた時だけ、その害虫の天敵を呼び寄せて、助けてもらうということをする。つまり「敵( 害虫)の敵( 天敵)は味方」という関係性を使った防衛で、ここで天敵は植物のボディーガードといえる。我々は害虫に寄生して殺す寄生蜂という天敵に注目して研究してきた。彼女らの多くは植物にとって頼りになるボディーガードだ。では、どうやって呼んでいるのか。

植物が寄生蜂を呼ぶための方法は「傷ついた際の香りの放出」である。我々が実感しやすい例は、葉をちぎった時の匂い(みどりの香り)である。我々がちぎって出るなら、害虫が葉を食べた時にも当然出るはずで、そのことは多くの食害葉で確認してきた。不思議なのは、ハサミで一気に傷つけた時の匂いの大部分がみどりの香りなのに対して、害虫がじわじわと食べた葉からは、みどりの香りに加え「揮発性テルペン」というグループに属するいろいろな香りが出てくる。しかも植物は、害虫種ごとに異なる「食い方の作法」に反応し、異なった香りのブレンドを放出する。さらにスゴいのは、作法特異的な香りブレンドに反応して、それぞれの害虫の寄生蜂が特異的にやってくる(これには寄生蜂の香りに対する学習が関与している場合もある)。擬人的にいえば「植物は香りブレンドを調整して、今、食害している害虫種を示す情報を大気中に放出し、寄生蜂はその情報を利用(学習)して被害株に来る」ということだ。この香りブレンドによる被害植物と天敵との香りコミュニケーションはキャベツだけでなく、さまざまな分類群の植物で報告されている。

立ち聞きして危機に備える

被害株に隣接する健全株にとって、隣で暴れている害虫の次なるターゲットはわが身ということになる。害虫被害株からの天敵誘引性の香りブレンド情報は、いったん大気中に放出されると、誰でも利用できる。この情報を健全植物が「今そこにある危機」情報として立ち聞きし、来るべき害虫に対する防衛レベルを高めておくという現象(植物間の香りコミュニケーション)も研究している。香りを嗅ぐといっても、動物が持つような嗅覚受容体があるわけではない。それにもかかわらず、シロイヌナズナでは動物に匹敵する高い匂い受容感度を持っているようだ。動物とは全く異なる作動原理を持つ植物の香り認識システムとは、いったいどのようなものなのだろう? 我々の成果はまだ氷山の一角にすぎない。
執筆:高林 純示
絵:大坪紀久子

上記は、Nextcom No.27の「情報伝達・解体新書 彼らの流儀はどうなっている?」からの抜粋です。

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Junji Takabayashi

京都大学 生態学研究センター 教授
1956年生まれ。京都工芸繊維大学繊維学部卒業、京都大学農学博士。
同農学部助手、ワーゲニンゲン大学研究員、京都大学農学研究科助教授を経て現職。
2007年4月より2年間同センター長。
昆虫-植物間相互作用に関して基礎から応用まで取り組む。

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