天才・プリンスの不在を逆説的に印象づけた、まさに“トリビュート・ライブ”。 ミネアポリス・ファンクの革新性とポップ・フィーリンクに心沸き立つ初秋の夕べ。

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天才・プリンスの不在を逆説的に印象づけた、まさに“トリビュート・ライブ”。 ミネアポリス・ファンクの革新性とポップ・フィーリンクに心沸き立つ初秋の夕べ。

 キーボード/シンセによるエッジの立ったリフ。斬新な響きと質感を取り込んだアヴァンギャルドかつポップなリズム――今年4月に急逝した天才・プリンスが築いたミネアポリス・ファンクを継承するエフ・デラックスが、殿下のクリエイトした革新的な音楽性をファンの前で披露し、彼の功績を讃えるライブが、大阪と東京のビルボードライブ』で実現した。

 パフォーマーはプリンスがプロデュースしたザ・ファミリーやザ・タイム、さらにはプリンス&ザ・レヴォリューションのメンバーたち。スザンナ・メルヴォワンが直前に来日中止になったのは残念だが、それでもエリック・リーズ(Sax/Key)やセント・ポール・パターソン(Vo/Bass/Key)を筆頭に、プリンスと共に音楽キャリアを重ねてきた、まさに“ファミリー”な面々が揃った。

 2011年に『gaslight』をリリースした彼らが、本家本元のミネアポリス・ファンクを存分に味わわせてくれた今宵。聴くほどに音楽的な革新性に満ちたサウンドは、その独特な存在感からも、プリンス不在の大きさを逆説的に実感させるステージになった。
ライブでの先鋭的なアプローチは今も変わらない。常に観客を挑発し、煽情的な瞬間もあるステージマナー。彼らにとっては、音楽のポップとラジカルな要素が両立している。エッジの立ったサウンドが、そのままポップ・ミュージックになる。それがミネアポリス・ファンクの本質だ。

 タフなビートに導かれてステージ横の階段を下りてきたエリック・リーズとセント・ポール・パターソンは、マッドハウス、ザ・ファミリー、レヴォリューション、エフ・デラックスのナンバーを矢継ぎ早に繰り出してくる。メリハリの利いたリズム、彫りの深いメロディ――どの曲もしっかりした輪郭を持っているが、その中で最も印象的だったのは、ハイライトに演奏された名曲「アメリカ」。自由、愛、歓喜、平和を切羽詰まった空気感と共に表現したブルーな佇まいのファンク・ナンバーは、プリンスが80年代に訴えた内容が、残念ながら21世紀の今も課題として置き去りにされている現実を如実に伝えてきた。

 そして、アンコールで歌われた「ナッシング・コンペアード・トゥ・ユー」。しっとりした演奏に誘われて、観客の間からコーラスが自然発生的に広がっていく。儚く、美しい旋律。会場が一体になった完璧な瞬間を肌で感じながら、僕は改めてプリンスに想いを馳せた。

 かくも名曲をたくさん遺し、ポップ・ミュージックを革新したプリンス。彼の音楽は、これからも僕たちの気持ちを未来に繋いでくれることを確信しながら、生暖かい空気が澱む六本木の街をあとにした。

◎公演情報
A tribute to Prince
fDeluxe (formerly known as The Family)featuring former members of Prince & The Revolution, The Time and Madhouse

ビルボードライブ大阪 2016年9月3日(土)
ビルボードライブ東京 2016年9月4日(日)

Photo:Masanori Naruse

Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。まだまだ残暑が厳しいこの時期。しかし、季節は着実に落ち着きを取り戻しているから、久々にボルドー・スタイルの赤ワインを楽しむのもいい。幻のボルドー・ワイン『ペトリュス』とブラインド・ティスティングで最後まで競い合った『プピーユ』などがタイムリーか。メルロの新しい可能性を示してくれた酸と果実味が絶妙なバランスで両立したノーブルな味わいは、今までのイメージを心地好く覆してくれる。ボルドー地区で育まれた“新しい正統”の味わいを、この秋にぜひ!

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