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笑福亭鶴瓶 『スジナシ』は芝居でなくフリートークなんです

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。現在公開中の映画『後妻業の女』に出演している笑福亭鶴瓶の言葉から、故・相米慎二監督作品に出演した時の思い出などをお届けする。

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 笑福亭鶴瓶は1990年、相米慎二監督・牧瀬里穂主演の映画『東京上空いらっしゃいませ』に二役で出演している。

「相米監督には今でも凄く影響されていますよ。演技については全く言わないんですが、その代わり何テイクも撮るんですよね。牧瀬の乳を揉んだりとか、牧瀬をおぶってバーっと行く場面も。こっちはもう全然わからんでやってるわけですよ。『もう早う…』『何が悪いねん』とか言うと、『黙ってやれ』とか言われて。

 でも、そこにつらさはないんですよ。愛情があるんです。何もなく何べんもやられるんじゃなくて、一番いいのを引き出すために気を遣うてるんですよね。だから、俺らも『こいつに負けんようにやったろ』『こいつの一番ええと思う演技をしてあげよう』と思うようになるんです。

 今も同じような手法をする演出家はいますけど、そこに愛情があるかないかでえらい違いですよ。今は、一つの場面を最初から最後まで何度も回すんですよね。あれは自分らの都合で回してるところがある。
 
 あるとき、役者さんがずっと泣く演技をしておられて、僕もそれを受けていたんですが、こっちは意味も分からんのに監督が『はい、次』『はい、次』と言うてくる。それで僕はその監督に言うたんです。『何度も撮る、その意味を言ったれ』って。何べん撮ってもいいけど、意味も分からんのにやらされるのはつらいですから」

 近年では、毎回一人のゲストと即興で芝居を作り上げていくテレビ番組『スジナシ』で当意即妙の演技を見せている。

「あれは何も芝居してないんです。フリートークなんですよ。フリートークで、僕はインタビュアー。役を演じながらインタビューをしているんです。だから自然に見えるんだと思います。それは一般の人には観ていて分からないかもしれないけど、そうすることでなんぼでも役はできるというか。『誰か来はったんか』『あんた、いくつやねん』って聞くと、相手から返ってくるわけですから。

 フリートークとの違いは、芝居だから黙れることです。トーク番組は黙れないじゃないですか。でも芝居は黙れる。ジッと考えていると、それが自然な間になるんですよね。

 演技でも自然にしようとする思いを持っているんですが、それを持ち過ぎると自然じゃなくなる。フリートークをしていると自分なりの自然でいいんですが、芝居になって相手がいると、それに合わせて自然のあり方も違ってくるんですよ。

 たとえばこの間、山田洋次監督の『家族はつらいよ』という映画に出たんですが、山田さんはオッケーを出さはったけど僕はすごい嫌だったんです。不自然やなと。笑わしにかかっている最悪の芝居と思ったんですが監督は駄目出しされんかった。なぜかと思って試写を観たら、全体のバランスを観ると、その『笑わしますよ』という芝居が映画には合うてるんです。自分としては嫌やったんですが、お客さんは笑うてる。

 普通、ベタは自然じゃないんですが、ベタの方がナチュラルになる空間も映像の中にはあるということです」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

◆撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2016年9月9日号

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