ガジェット通信

見たことのないものを見に行こう

未来を見据えて可変するガレージハウス&アトリエ【edge HOUSE】

DATE:
  • ガジェット通信を≫

▲建築家の自邸兼オフィス。読者諸兄ならば興味津々なのではないだろうか。業界屈指のカーガイである建築家と陶芸家である夫人とのコラボレーションで生まれた狭小ガレージハウスをご紹介する

ガレージを取り込んだ建築家の自邸|建築家・中村高淑(unit-H 中村高淑建築設計事務所)

建築家に車好きは多いが、中村高淑さんは別格だ。上の写真を見て、二輪好きな方は「おや?」と思ったに違いない。そう、あの名作コミック『キリン』で主人公が乗るカタナ(スズキ GSX1100S。中村さんのカタナはフルレストア&フルカスタム車)と、ライバルである930型ポルシェ 911(以下911)が収まっているのだ。

中村さんは、どこの現場にもカタナや911で出掛ける。どちらもコンディションは絶好であることはいうまでもない。二輪の機動性の高さは、都市部での仕事が多い中村さんには有効だし、911のリアウイングは打ち合わせスペースのない建設現場ではテーブルに早変わりする。この様子を現場で目にすると、じつに絵になる。

マニア垂涎の2台に乗りながらも、気負いがない。さり気ない。当たり前のように日常使いする姿がカッコいい。これほど6輪が生活に密着している方も珍しい。Facebookなどにアップされている現場写真には、ほとんど911やカタナがフレームの片隅に入っている。まるで絵画の落款印のような役目を果たしているかのようだ。

今回は、そんな中村さんの自邸兼オフィスを取材する機会を得た。場所は横浜市青葉区。近隣は有数の高級住宅街で、美しく整備された街並みが特徴だ。その閑静な住宅街の一角に、5月に竣工したばかりの中村邸はあった。間口4.0m、奥行き13.6m、敷地面積54㎡という細長い敷地を最大限活用し、狭小スペースに2台の愛車が収まるビルトインガレージを設置。ガレージ部分は多目的に活用することが視野に入れられており、さらに階上には陶芸家である夫人のアトリエも備えていることが特徴である。

建物の間口は2.77m。これは、911とカタナのサイズに合わせたもの。どちらか1台を出し入れする際にも、干渉しないギリギリのサイズだという。ガレージの先にはミーティングスペースを設置。その間にはあえて仕切りを設けていないので、いたってオープンな雰囲気をもっている。ガレージの床材にはクッション性の高いラバーウッドを採用。ダークトーンのカラーがカタナや911の雰囲気とマッチし、「愛車と過ごす空間」を演出している。中村さんのクライアントには車好きが多いから、この空間でガレージハウス設計についての打ち合わせをすることは、きっと至福の時間となるに違いない。

1階部分は、愛車2台を屋外に出すことで、ギャラリーやイベントスペースとして活用することも視野に入れている。さらに将来的には事務所の拡張や店舗への転用も可能となるように考えられているとのこと。

2階以上のフロアへは、玄関脇のらせん階段を経由する。鉄の素材感を強調したらせん階段は、スペース効率を考慮したうえで最良の選択であり、玄関を入った際に最初に目に飛び込んでくるアイキャッチともなっている。

2階はダイニングキッチンと、夫人のアトリエ。このフロアの特徴は、キッチンを可動式としている点。将来に渡りレイアウトの変更を容易にするとともに、狭い通路スペースの微調整がシーンによって可能。このような空間の可変性は、ベッドルームとバスルームがある3階も同様。可動式のパーティションを兼ねたクローゼット家具によって、必要に応じて部屋の広さを変えたり、ゲスト用の小部屋とするなど柔軟に間取りを更新できる。

住む人の変わりゆくライフスタイルに合わせた高い適応力をもつ

中村邸のコンセプトは、あらゆる空間を多目的に使えるように設計されていること。「小さな建築だからこそ、自由度を高めることで長い年月にわたってフレキシブルに住み続けられるように考えました」と、中村さん。ガレージやダイニングルームの空間活用は、住む人のライフスタイルが変わったとしても柔軟に対応できるように…という考えが具現化されているというわけだ。

「ヨーロッパでは当たり前のように、200年300年と長く使われる建築があります。それは、ライフスタイルが異なるオーナーに代わったとしても対応できる設計だからなのです。日本ではリフォームもままならない住宅が多いのですが、たとえコンパクトな建築でも、可変性をもたせることで長期にわたって住む人のスタイルに対応できると考えています。この家が、その好例になればと…」

このような考えを実現するために用いられたのが“薄肉ラーメン構造”と呼ばれる手法だ。1階はRC構造、2階と3階は木造とするなかで、柱と梁の接合に工夫が施されたことにより、従来よりも柱部分における張り出しがないことが特徴。十分な間口がとれない狭小ガレージハウスにとって柱の張り出しは重要なポイントで、一般的な工法を採用した場合には、カタナが収められなくなってしまうほどの差が生じるという。

同様に梁型もでないので、天井高さを犠牲にすることなく、高さ制限の厳しい狭小地において建物の高さを低く抑えることができる。実際の敷地面積を考えると、数値以上に空間の広がりが感じられる中村邸には、そのような工夫が施されていたのだ。

中村さんは続けて、「住む人の変わりゆくライフスタイルに合わせた高い適応力をもつことこそが、これからの住宅に求められると思うのです」

現在必要なものだけにとらわれることなく、これから変化していく未来を想像しながら、そこに対応できる建築を考える。持続可能な建築が増えていくことを願い設計された中村邸には、身近で新しいガレージハウスのあり方が示されているのかもしれない。

▲ガレージ入り口はガラス製のドア。壁面ギリギリまで開放することが可能で、愛車の出し入れを容易にしている

▲左手のドアが玄関。横の壁面は広いガラス窓で、見せるガレージとしてライトアップされた様子に、思わず立ち止まって見入ってしまう

▲ガレージとオフィスはスペースを共有しているが、引き戸で間仕切りをしている。コンパクトで作業効率のよさそうなレイアウトだ

▲あえて塗装をせずに鉄の素材感を生かしたらせん階段。壁面にはギャラリーのように建築模型が並ぶ

▲2階のダイニングスペース。中央のテーブルは可動式で、大人数でのパーティも開催可能。シンクを備えたテーブルを兼ねたキッチンも移動が可能で、水回り部分はジョイント式で切り離せるようになっている

▲3階の寝室。ベッド横の壁はパーティションを兼ねた可動式のクローゼットで、ベッドの反対側にゲストスペースを容易に作り出せる

▲夫人のアトリエには、個性豊かな陶器の作品が並ぶ。らせん階段でアクセスすると、ガラス越しに作品が眺められる

【陶芸家ゆえのこだわり:夫人が心を込めた作品もガレージハウスを彩る】

■エントランスの一角にある陶壁が、とても特徴的で目を引く。これは、5㎝四方の陶板(タイル)を張ったもので、幅100㎝×高さ240㎝というサイズが強い存在感を放っている。これは陶芸家である中村夫人の手によるもので、素人目にも一つひとつが丁寧に作られていることがわかる。「陶板は1枚の布を織るように時間をかけて作りました。温かみのある土の手触り、質感を生かしながらも空間に溶け込むようにデザインしています」

■主要用途:専用住宅

■構造:混構造(RC 造+ 木造+ 薄肉ラーメン)

■敷地面積:54.07平米

■建築面積:32.40平米

■延床面積:94.99平米

■設計・監理:unit-H 中村高淑建築設計事務所/中村高淑

■TEL:045-532-4934

■http://www.unit-h.com/nakamura

【関連URL】

中村高淑建築設計事務所text/菊谷 聡

photo/田村 弥

※カーセンサーEDGE 2016年8月号(2016年6月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

関連記事リンク(外部サイト)

中村高淑建築設計事務所

カテゴリー : 生活・趣味 タグ :
日刊カーセンサーの記事一覧をみる ▶
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

TOP