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【中島聡×清水亮】我々の仕事はAIに奪われるのか──ディープラーニング時代の生き残り方を考える #engineer_moshi

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アイデアをカタチにした人だけが、組織の中の推進者になれる

清水:ご無沙汰しています。唐突ですが、中島さんは最近コードを書かれています?

中島:書いてますよ。最近はデジタルドキュメントにビジュアルオーディオ機能を組み込めるオープンソース「Swipe」をなんとかモノにしようと頑張っています。

対話型漫画、サウンドノベル、グラフィックオーディオブックから、双方向ビデオ、チュートリアル、プレゼンテーションまで制作できるデザインソリューションという位置付け。これをやるために、UIEvolutionとは別の会社を作り、僕は半ば趣味としてやっている。

清水:最近出された『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』(文響社)も売れているようですね。あれって、時間術のノウハウ本というより、エンジニアの生き方に関する本でしょう。夢中になるぐらい好きな仕事なら頑張れ。それができないならすぐ辞めたほうがいい、という。

中島 聡氏
UIEvolution Inc.のファウンダー。マイクロソフトでWindows95、Windows98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトなどを務めた。現在シアトル在住。有料メルマガ「週刊 Life is beautiful」でも活躍中。

中島:そうなんですよ。たしかに体裁は時間術のノウハウ本にはなっていますが、僕がこの本で言いたかったのは、自分のパフォーマンスを思い切り発揮できる仕事を選ぼうよ、ということ。

そもそも上司に命令されずとも、誰に言わなくても夢中でやってしまう。そういう仕事はその人に向いているというべきです。逆に言うと、人に言われないと仕事しない、締切に追われないとできないのであれば、その仕事は向いていないと思う。

清水:同感です。

中島:僕自身、何か面白いものを見つけたら、ささっとプロトタイプを作り、最初の2日で8割方作ってしまう人でした。本の中で「ロケットスタート時間術」とか「2:8の法則」と呼んでいるものです。

Windows95のプロトタイプ開発でもそうだったし、OSとWebブラウザを合体させる、後のWindows98につながるプロジェクトでもそうでした。

どんな仕事でも企画をアイデアのままではなく、形にした人がその企画の推進者になれるということを、僕はMicrosoftで学んだんです。

たしかにこうした仕事のやり方は誰もが真似できるものではないかもしれない。けれども、組織の中でどうやって重要な仕事を任されるかというと、やはり勝つのはアイデアを形にできる人なんですね。

IT業界には常に流行り言葉があって、例えば「モバイルファースト」とか「ディープラーニング」とか。それをあれこれいう評論家タイプのエンジニアは多いけれど、目に見える形で動くモノを作って見せれば、そういう人への評価は高くなる。

組織の中で重要なポジションを占めたいのであれば、まずは作っちゃうこと。上司の許可なんていちいち求めてはいけないんです。

清水:エンジニアというのは、モノを作れる人ですからね。僕も自分で作っちゃうタイプだけれど、組織のメンバー全員それができるかというと少数です。100人に1人ぐらいじゃないでしょうか。

中島:なぜみんなやらないのかとは思いますね。たしかに、せっかく作っても採用されないことは多い。その無駄を避けたいのかな。実際、僕も無駄にしたプロジェクトは数知れず。

例えば、Node.jsサーバーをiPhone上で動かすプログラムとか。死にものぐるいで5カ月ほど集中して作って、オープンソースにしたけれど、あまり使われていないし、僕自身も今は使っていない(笑)。

でも、そこで学んだことは多いし、自分としては満足した。そういう無駄を重ねるうちに、いつかはヒットする製品も生まれるはずなんです。

清水:結果的にそれは無駄にはならないですよね。

経営戦略の違いはあれど、日米にイノベーションの差はない

清水:Microsoftの話が出ましたが、よく日米を比較して日本の企業からクリエイティブなものが生まれないという人がいるんだけれど、僕は必ずしもそうは思わない。日本のベンチャーが技術的に劣っているとか、クリエイティブなものが作れないかということはないと思います。

中島:清水さんの「enchantMOON」のように独自OSだけでなくハードウェアまで作っちゃう会社があるわけですからね。会社だから霞を食って生きることはできない。何らかの形で稼がないといけない。それをこなしつつ、無謀にも独自のタブレットまで開発しちゃう(笑)。なかなかアメリカにもないことですよ。

清水 亮氏
UEI代表取締役社長 兼 CEO。電気通信大学在学中に米Microsoft Corpで次世代機のOS/SDK開発に携わる。98年よりドワンゴにてエグゼクティブ・ゲーム・ディレクター、アーキテクトを歴任。03年より現職。11年よりHTML5フレームワークenchant.js、13年よりenchantMOONを開発。

清水:そう言っていただけると嬉しいです。実際、シリコンバレーのベンチャー企業と話すと、日本人が知らないようなプロダクトやサービスが無数にある。ただ、そのアイデアは東京で聞く話と質的には変わらない。イノベイティブかどうかという意味では、むしろ日本の方が優れている部分もたくさんある。

ただ、向こうにはそれをビジネスとして試す環境があり、投資してくれる投資家もいる。その無数のアイデアの中からグローバルなヒット・プロダクトを生み出す人材や資本力の厚みは感じますね。

製品がイノベイティブかどうかと、それがビジネスとしてグローバルにスケールしていくかどうかとは、とりあえず別の話なんです。

中島:mixiとFacebookを比べても、SNSとしてmixiのほうが先んじていた部分は多々あるんです。ただmixiは世界にスケールしなかったが、Facebookはした。その違いはどこにあるか。

僕はmixiが株式上場やキャッシュフローをポジティブにすることを急いだあまり技術開発が遅れてしまったという側面があると思う。

一方、Facebookは赤字のまま突っ走りながら、世界的にスケールすることを優先した。結局、彼我の違いは、経営戦略というか資本戦略の違いであって、技術的な差ではないだろうと思うのです。

もちろん、技術とビジネスが結びつかないと、たしかに世界に広まらない。そこは悔しいところだけれど。

ソースコードを読まずして、なんでプロダクトが作れるのか

中島:ところで、昨今はエンジニアの勉強会が大盛況と聞きます。僕は作りたいものがあるから勉強するけど、勉強のための勉強はしないタイプ。最近のエンジニアの勉強のスタイルをみていると、なんというのかなあ……

清水:勉強が足りなすぎる(笑)。

中島:例えばオープンソースでも流行りものがあると、それはjQueryでもいいんだけれど、みんなさっと飛びついて、少しかじって、それで何かを作っちゃう。ささっと使いこなしているように見えるけれども、実はオープンソースの中味までしっかり勉強する人は少ないように思えます。そこが心配。

使うのはいいんだけれど、中味を読まずになんで使えるのと僕なんか思いますね。jQueryぐらいしっかりしたOSSならいいけれど、中途半端なOSSだと僕の場合、ソースコードを読んでエッセンスだけ抜き出して、自分のバージョンを作ったりする。

こういうテクニックがあるんだなと、でもソースコードが汚いから、こういうふうに変えちゃおうとかね。OSSをちょっと組み合わせると、それなりのものが作れちゃう。でもそれは、僕からすると勉強とは言わない。

清水:中島さんがおっしゃることはよくわかります。たしかにAndroid OSはなんでこんなに遅いんだろうと、ソースコードを読むと愕然としますよ。

点一個描画するのに何回関数を呼んでいるの、みたいな。ハードウェアの構造を知らない人が書いているじゃないかと思うような部分もあります。

とはいえ、10GBもあるソースコードを全部僕一人が直すのは無理。僕が生きているうちに終わらない。ダメだと思っても我慢しながら使う。そこは割りきって使うしかない。

中島:CPUがものすごく速くなっているから、ソフトウェアの側が結構さぼっていてもなんとかなっちゃう。昔だったらこんなコードは許されないというのもとりあえず動いちゃうということはありますね。

清水:保守性という錦の御旗がありますからね。保守性が上がるからあえて非効率なコードを許していたりする。僕がそういうことを指摘すると、古いねとか言われちゃうんですけれど。

ディープラーニングは、伝統的なエンジニアの仕事を奪う?

清水:最近はそういうソフトウェアのブラックボックス化を憂うみたい態度ではいけないかもしれないと思うようになりました。特にディープラーニングに触れてからはそうですね。ディープラーニングはある意味、完全なブラックボックスだから。あれは、一種の「自然現象」と措定しなくちゃ、これからはどんなプロダクトも作れなくなってきます。

中島:ディープラーニングはたしかに面白いですよ。ソフトウェアエンジニアからするとある意味脅威です。顔認識の画像処理をするにしても、これまでは一生懸命アルゴリズムを考えるしかなかったのだけれど、それを考える必要がなくなった。

清水:考えたら負けみたいなところがあります。人工知能がどんなに物事を認識しているか、深層学習の一層ずつめくりながら見るんだけれど、結局人間には説明できない。だけれど、それを組み込んでいくしかない。

中島:例えば車の安全運転技術について、居眠りや不注意運転による事故をいかに防止するかという技術開発があるとします。寝ているのか携帯をいじっているのかという状況を認識して判断すればいいと、我々人間は思います。

ところがディープラーニングの時代になるとそれは必要なくなる。運転の様子をひたすら撮影しておけば、事故が起きた場合とカメラ映像の関連だけから傾向を判断して予防措置が取れるようになる。

人工知能がどのように学習しているかを一層一層みれば、たしかに携帯をいじっていたとか、居眠りしていたとかを認識していたんだろうとは思うけど、どうして事故が起きたかはあえて説明しなくてもいい。

結果的にいい技術ができるのはたしかなので。説明しなくてもいいというのは、昔ながらのエンジニアとしては耐えられないぐらい気持ち悪い事態だけれど……

清水:そういう時代に変わりつつある、その節目が今来ているということですよね。

中島:AIは僕の学生時代からあるもので、僕はかつてAIをバカにしていた。ただディープラーニングを知ってからは、突然尊敬するようになりました(笑)。

人工知能技術が発達すると、エンジニアはもちろん、医者なんかも困惑すると思うんですね。ある人の病状とその人のDNA情報を与えると、この薬を飲めばいいと、AIが指図してくる。

医者がその因果関係を説明できなくても、症状だけは改善する。損害保険の料率計算なども、データを元にAIがやってくれれば既存のアクチュアリー(保険数理士)は職を失うかもしれない。

ITの世界でも、トラディショナルなエンジニアやデータサイエンティストは職を失うかもしれない。そこに気づいていない人がまだまだ多いのだけど。

清水:そう遠くない将来、Ruby on Railsあたりで設計するようなWebはみんなAIが作ってくれます。仕様書をコンピュータ向けに翻訳するだけの仕事は生き残れない。つまりはプログラマのたいていは職を失うかも、ということですね(笑)。

エンジニアはもっと時代への嗅覚を働かせよ

中島:それでも生き残れるのは、ディープラーニングのような“猛獣”を使いこなせるエンジニアだけでしょうね。

清水:会社の経営でいえば、現場のエンジニアよりも、中間管理職、マネージャー、教育者とかのほうが、次の時代に生き残れるかもしれない。一人ひとりの人間という、ある意味ブラックボックス的なるものを使いこなせてきた人が、その能力を発揮できる時代が来る。

中島:エンジニアが、日々の仕事が忙しいから新しい仕事ができないとか、新しい技術を勉強できないなどと言い訳をしている場合ではないんです。人工知能が人間に迫ってくる、そういう時代にもっと危機感を抱くべきです。

上司に画像処理のアルゴリズムを書けと命じられても、「これからはアルゴリズム書く時代じゃないですよ、僕はディープラーニング使って処理しますよ」とちゃんと言えるかどうか。若ければ若いほど、上司に対してあなたはもう古いと言ってあげないといけない。その辺の嗅覚をきちんとしていないと、これからのエンジニアはだめですよ。

清水:中島さんは、ディープラーニングを単なる人工知能の技法の一つとしてだけでなく、これからのエンジニアの生き方を左右するものというところまで深く認識されている。僕も同じことを考えていたので、今日お話できてとてもよかったです。


(執筆:広重隆樹 撮影:平山諭)

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