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『千日の瑠璃』39日目——私は追放だ。(丸山健二小説連載)

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私は追放だ。

一頭がこだわる堅固な志操、それが直接の原因となってうつせみ山の野猿のあいだに生じた、追放だ。狡知に長けた大猿に率いられたひと群れと、変り者で知られるその一頭のあいだに挟まれた私は、きょう遂に火花を飛ばした。そして腹黒い列座の面々は、猿として生きなくてはならぬ本筋を再三再四逸脱したという理由で、生き物として一個の存在足り得ている、あくの強いその猿と、袂を分かつことにしたのだ。

私は、伝統に泥む猿たちの力を背景に、浮いた立場のその猿に《離れ猿》の烙印を押し、二度とうつせみ山に足を踏み入れてはならぬ旨を厳しく申し渡した。直接咎の対象となったのは、人間のように二本の脚で立って歩こうとした行為だった。ところが、凛々しく、激し易く、それでいて陽性な気質のそいつは、私の言葉に神妙に聞き入るわけがなく、望むところだと言ったかと思うと、断固たる態度と口調で反論を開始した。猿の境遇にいつまでも甘んじていることの愚かさと危険性について事を分けて諭し、猿を超越する意義について堂々たる論陣を張り、いみじくも道破した。険悪な空気が流れ、両者は憎悪の念に燃え、一触即発の危機に陥った。あの少年が現われなかったらどうなったかわからないだろう。離れ猿は、猿にとても近い仕種の少年のあとについて山を下りて行った。猿たちの嘲りの鳴き声で、谷という谷がいっぱいに埋まった。
(11・8・火)

丸山健二×ガジェット通信

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