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田村直美がそのロックスピリットを注ぎ込んだ『N’』に見るアーティストとしての誠実さ

めっきりメディアで『ポケモンGO!』が取り上げられる回数が減った気がする。オリンピックが始まった時は、確か「内村航平が『ポケモンGO!』をやっていて…」的なトピックもあったように思うが、終盤に近付くにつれてその類のニュースもほとんど聞かれなくなった。まぁ、「何と移ろいやすい世の中であろうか」と消費世界ゆえに無常さを揶揄したい気持ちが沸々となくもないが、そういうコラムじゃないので音楽方向へ話題を起動修正──。“ポケモン”の曲と言って多くの人が思い浮かべるのは松本梨香の「めざせポケモンマスター」ではなかろうか。優れたゲーム性もさることながら、“ポケモン”を世界的なポップアイコンにしたのはアニメの力も大きかったのは間違いない。今回紹介する田村直美も、22thシングル「Ready Go!」が『ポケットモンスター』の5代目オープニングテーマに起用された上に、そのカップリングである「新たなる誓い」は『ポケットモンスタークリスタル ライコウ雷の伝説』のオープニング&エンディングテーマとして使用されたことがあり、当時、少年少女だった人たちにも馴染み深いシンガーではないかと思う。
『N'』(’95)/田村直美 (okmusic UP's)

PEARLのSHO-TAからソロシンガーに
80年代末からのバンドブームを知る人にとって、田村直美と言うと“PEARLのSHO-TA”という印象が強いのではなかろうか。PEARLとは87~93年に活動したロックバンド。バンド名はジャニス・ジョプリンのラストアルバム『PEARL』から拝借したというから、そこからも志しの高さが分かるであろう。デビューした87年というのはBOØWYが解散を発表した年であり、その前年にはすでにレベッカがブレイクを果たしており、日本でロックミュージックがポピュラーになり始めた頃。プリンセス・プリンセス、THE BLUE HEARTS、BUCK-TICK、ユニコーンもデビューした年で、バンドブームが胎動し始めていた時期であった。PEARLはSHO-TAのヴォーカル力の確かさはもちろんのこと、ドラマーが女性だったことや、ベーシストが当時はまだ珍しかった5弦ベースを使っていたことも注目され、その頃のロック専門誌では常連だった印象がある。だが、結論から言えば、その行く末を嘱望されつつもPEARLはブレイクには至らなかった。バンドブームが爆発する前であり、市場もまだそれほど大きくはなかった頃で、若干時代が早すぎたのかもしれない。バンドメンバーもメジャーデビューにあたって制作サイドの意向で集められた、言わば“寄せ集めバンド”だったという話もあるし、それゆえにアルバム制作の度に試行錯誤を繰り返していたことは当時からSHO-TAは語っていた。バンド本位、アーティスト本位のマネジメントという概念も薄かったのだろう。要するに、そんな時代だったのである。
88年から89年にかけて、メンバーが相次いで脱退。4thアルバム『Century Toys』を出す頃には実質的にバンドはSHO-TAひとりになり、94年から彼女は田村直美名義で活動をスタートする。そして、94年4月の1stシングル「自由の橋」、5月の2nd「あきらめられない夢に」に続いて7月に発表した3rdシングル「永遠の一秒」が、『銀座ジュエリー・マキ・カメリアダイヤモンド』のCMソングに採用されたことも手伝ってスマッシュヒット。一気にシーンに浮上する。そして、同年11月、テレビアニメ『魔法騎士レイアース』のオープニングテーマにもなった4thシングル「ゆずれない願い」が7週連続のチャートベスト10入りで120万枚を超えるミリオンセラーを記録し、翌95年のNHK紅白歌合戦にも出場。田村直美は完全にブレイクを果たす。「永遠の一秒」は90年代J-POPシーンの象徴とも言える『カメリアダイヤモンド』のCMソングであり、「ゆずれない願い」は人気アニメのテーマ曲と、タイアップ効果があったことは間違いないが、いくらCDバブル期だったとはいえ、それだけで何十万枚ものセールスを記録するほど甘くはない。『カメリアダイヤモンド』CMソングでもヒットしなかった曲はたくさんある。彼女の確かなパフォーマンス、アーティスト性が評価されたと見るべきであろう。

ロックサウンドを如何なく発揮
その証左を、95年6月に発表された2ndアルバム『N’』に見ることができる。本作はチャートでも1位となり、彼女のアルバムの中では最高セールスを記録した作品ではあるが、決してポピュラリティーの高さだけに特化したアルバムではない。田村直美のロックスピリットが如何なく発揮されているのである。オープニングのM1「CARRY ON」からブラックミュージック・フィーリングあふれるソウル系ナンバー。M4「ママの恋人」ではサイケデリックなストリングスの使い方をしている他、M6「すべての未来に光りあれ」もまたソウルフルなR&Rだし、ブルージーなM8「AGAIN」、ファンキーなM9「SILVER SPOON」と、ロックアルバムとして1本筋を通しながら、バラエティーなサウンドメイキングに腐心している様子が伝わってくる。さらにはM3「NAKED LOVE」ではAORにも近い抑制されたアレンジを聴かせてくれたり、M5「ONE」はボサノヴァ調と、ソロならではと思われる多彩さも楽しい。個人的には5thシングルでもあるM10「STAIRWAY」で、タイトルからも分かる通り、オールドスクールと言えるレッド・ツェッペリンへのオマージュを捧げている一方で、M9「SILVER SPOON」ではラップ調なヴォーカリゼーションに対して意欲的な彼女の姿に注目したい。アルバム『N’』発売の前年、つまり田村直美のソロデビュー時には、スチャダラパーと小沢健二での「今夜はブギーバック」、East End×Yuriの「Da. Yo. Ne」がヒットしていたが、おそらくそれと無関係ではないだろう。本人がどこまで強くラップ調を望んだのかはわからないが、ロックの偉人への敬愛を忘れずに、新型音楽へ果敢にチャレンジする彼女の姿勢に、アーティストとしての誠実さが見て取れる。

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