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“リアリズムの名手”が贈る、認知症の父と過ごした10年間

“リアリズムの名手”が贈る、認知症の父と過ごした10年間

 リアリティ溢れる描写力には定評があり、「リアリズムの名手」との呼び声も高い作家・盛田隆二さん。そんな盛田さんが、26年の作家人生において初めて世に送り出したノンフィクションが、『父よ、ロング・グッドバイ 男の介護日誌』(双葉社刊)。タイトルの”ロング・グッドバイ(長いお別れ)”とは、アルツハイマー型認知症を意味する言葉で、症状の進行とともに少しずつ記憶が薄れ、周囲の前からゆっくりと遠ざかっていく様子をさしています。

認知症の父と過ごした、10年におよぶ”長いお別れ”の日々を描いた本書は、もはや誰しも他人事ではない、親の介護問題に直面した当事者の悩みをリアルに描き、今年4月に上梓されるや否や、各界で話題となりました。

そこで今回は、著者の盛田さんに、介護体験および、渾身のノンフィクションへの思いをお聞きしました。 

* * *

――まず、ご自身の介護体験を書こうと思われたきっかけについて教えて下さい。

実は、父の介護については、『二人静』(光文社刊)という作品で、小説の形で一度書いているんですよ。お互いに過酷な境遇にある同い年の男女――認知症の父を介護中の男性主人公と、夫のDVで離婚後、場面緘黙(ばめんかんもく)症の娘を女手一つで育てている介護士の乾あかり――が出会い、恋に落ちるというフィクションなのですが、連載執筆当時、私生活では父の介護をしていたので、主人公の介護体験については、ほぼ実話。本書にも登場する介護士・乾あかりは、父をずっと担当してくれた介護職員の方がモデルです。

とはいえ、『二人静』はあくまでも恋愛小説の形を取っていたので、書けなかったこともたくさんありました。ある編集者から「『二人静』のようなフィクションではなく、盛田さんの介護体験をストレートにノンフィクションで書いたものを読みたいです」と言われたのが、初めてノンフィクションに挑戦したきっかけなんです。

――本書の帯には、作家・重松清さんが”読み進めるのがつらいのに、本を閉じられない。我が身を斬りながら「家族の晩年」を真っ向から描いた作家の覚悟に、圧倒された”と寄せている通り、非常にリアルな筆致で、ぐいぐい引きつけられました。

重松さんは作家になる前の編集者時代、僕のデビュー作『ストリート・チルドレン』の担当編集だったんです。本書の推薦文をお願いした時は、重松さんのお父様が危篤状態で、病室のベッドの傍らで、我が身に重ねながら、本書のゲラを読んでくれたそうなんです。寄せて下さった推薦文はもちろんですが、そんな状況の中で、僕の作品を読んでくれたという事実がとてもありがたかったですし、なによりも胸に迫るものがありました。

――それにしても、ここまで直接的に、家族の事情を書くのは、相当の勇気がいったのではないですか?

実は依頼を受けた時は、一度はお断りしたんですよ。認知症の父はもちろんですが、母もパーキンソン病という難病で亡くなっています。さらに父と同居していた妹は統合失調症を患っていた。この精神疾患に対しては、いまだに社会的な偏見も持つ人も多い。それに父母は亡くなっていますが、妹はこれからも生きていかなければいけないわけですから、どこまで書いていいものか、本当に悩みました。正直、自分の家族の事情を、世間に晒すことに不安がなかったといえば嘘になります。

――それでも書かれたのはどういうお気持ちからですか?

今まさに、両親や配偶者、家族の介護に直面している方にとって、僕の介護体験が少しでも役に立てたら、と思ったからです。もうひとつ、書き手としての挑戦、自分の家族と自分自身のことを、どこまで偽りなく、正確に描き出せるかという気持ちもありました。今回、初めてノンフィクションを書いたのですが、自分の体験を核にして描く小説を執筆するのとは違う充実感を得られました。

――時に冷徹に、時にユーモラスに描写されるお父様の姿は非常にリアルで、真に迫って来るものがありました。

大正生まれの父は、自分でお茶一つ入れたこともないような、亭主関白な人でした。それに「銀流し」と呼ばれるような、ダンディーでオシャレな人だったんですよ。だけど、その父が、母が亡くなったショックで、生きる意欲を失ってしまう。頑固でプライドも高かった人なのに、介護施設に入所した日は、まるで赤ちゃん返りしたかのように、顔をクシャクシャにして泣き出してしまったんです。厳格だった父が、まるで子供のようになってしまった姿を目にして……さびしいなって気持ちもありました。

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