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松本清張賞の最終選考にも残った理系ミステリー!CodeIQ出題者・柳井政和氏が作家デビュー

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プログラマだからこそのストーリー展開とトリック

柳井氏のミステリー作家デビュー作品『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』は、20代の女性起業家が主人公。人材派遣会社を経て、腕のよいプログラマを企業に斡旋するビジネスを立ち上げる。

ところが取引先で、自分の会社が送り込んだプログラマが企業データを暗号化して失踪。“身代金”を要求してくる事件が起こる。

出資者の紹介で調査の補佐役として紹介されたのが、鹿敷堂(かしきどう)桂馬。現れたのは、いかにもやる気のなさそうなプログラマだったが……。

プログラマだからこそのストーリー展開とトリック。“プログラマあるある”も随所に散りばめられ、プログラマなら面白さは倍増すること間違いなしの作品だ。

そしてこの作品、なんとストーリーのベースを貫くアイデアは、CodeIQがきっかけだったのだという。

「CodeIQの初期の頃は、いろいろな人のプログラムを採点するスタイルがメインだったんです。そのときに気づいたのが、同じ問題を解いてもらっているのに、千差万別のコードで解答されてくることでした。この人のコードはすごいな、という人もいれば、きっとこの人はビジネス系の人だな、という人もいた。コードからその人の背景が透けて見えるという貴重な体験をさせてもらったんです」

数百人のコードには個性があった。連続して出題していると、同じ人のコードを何度も見ることになる。

プログラマというのは、コードから人生や能力、職業観、人柄までも見えてしまうということです。この情報はいつか使える、と思っていました」

小説の中では、これが謎解きの重要なキーワードになっている。

ゲーム会社からボードゲーム制作で独立する

柳井氏がプログラムを始めたのは、大学4年のとき。以来、コミケ向けの同人ソフトなどを作るようになった。ゲーム会社の在職中に趣味で作ったフリーソフト「めもりーくりーなー」が、オンラインソフト大賞に入賞。その名が知られるようになる。

2002年に独立するが、実はこのときの事業はボードゲーム制作。子どもの頃から、ボードゲームが大好きだったのだという。

「小学生の頃、ファミコンを買ってもらえなかったので、友達の家で遊んで、家に帰ってボードゲーム化するという遊びをいつもしていたんですよね。いずれは自分でボードゲームの会社を作りたかった。ゲーム会社に就職したのは、社会経験が積みたかったからです」

クロノス・クラウン合同会社 代表社員 柳井政和氏
「マンガでわかるJavaScript」「プログラマのためのコードパズル」などの著者。「めもりーくりーなー」などのオンラインソフトも公開。シミュレーションゲームなど思考系ゲームを作るのが好き。http://crocro.com/

ゲーム会社では企画職で採用されたが、配属されたのは、まさかの新規事業。高級卵の訪問販売をしていた時期もあるという。そしてゲームの広報に異動。その後、ようやく企画に携わり、4年半で退職。もともと考えていたボードゲーム制作で独立した。

「ただ、ボードゲームを一年やってわかったことは、そんなに儲からないということです。ニーズがなかった。もうひとつは、在庫がたまっていくんですよね。アパートのスペースの半分が埋まってしまったこともありました(笑)」

そんなとき、オンラインソフト大賞の関係の飲み会で、「iアプリでRPGを作れるヤツはいないか」と声をかけられた。

「作ったことはありませんでしたが、シミュレーションRPGなら好きだから作るよ、と応えて。このとき初めて携帯電話を買ったんですよね(笑)。それで、プロの仕事としてプログラムをし始めるんです」

デビューまでに、実に12年もかかった

当時はプログラムもグラフィックもすべて自分で手がけた。外注することなく、一人で完結する。これが、自分にフィットした。

「プログラムに限りませんが、作り込んでいくのが好きなんです。このときは、容量の少ない中で、パズルのようにプログラムを書いていました。定められたサイズに収めるために、このコードをどう書けばもっと軽量化できるか、徹底的に考えるわけですね。この頃の経験が、CodeIQの問題の出題につながっていたりします」

手がけたゲームはライセンス契約だった。毎月収入が入ってきて、時間もできるようになり、次は何をしようかと考えるようになった。

「このとき浮かんだのが、物語を書きたい、という思いでした。ゲーム作りも面白かったんですが、もっとたくさん物語そのものを作ってみたかった。実は漫画も描いていて、Web上で連載を持っていたり、書籍が出たりしていますが、本格的な漫画を描くとなると一つの物語を何年にもわたって書くことになる。だったら、数ヶ月で一つの物語を仕上げられる小説がいいな、と」

小説なら次々に作品を出せる。たくさん物語を作れる。ゲーム制作の一方、小説で物語を作る人になろうと考えた。

「正直、ナメていました。小説なんて、すぐに書けるものだと思っていました。すぐに思い違いに気付きました。今は謙虚です」

今から12年前のことである。つまり、デビューするまでに12年かかったのだ。新人賞に応募するも、まるでうまくいかない。小説を書き始めて3年目、KADOKAWAの日本ホラー小説大賞の最終選考まで残ったが、再び鳴かず飛ばずの時期が続いた。

「12年間で50作くらい書いて投稿しています。最終選考に残ってからは、まとまった時間が取れないとダメだ、1年に半年くらいは小説を書けるようにしようと考えて、仕事の収入の構造を2~3年かけて変えました。ライセンス料や広告料、印税でまかなえるようにしたんです。需要があった時代だから、できたやり方でした」

正規の道でデビューしたかった

新しい取り組みに挑んで、ソフトやコンテンツをネットで発表する。そうすると、半年、一年後に仕事につながったりすることが多かった。

「ただ、小説のほうはまったくうまくいかない。モチベーションが下がって、人生を間違えたんじゃないか、と考えた時代もありました」

新人賞に応募しなくても、作家デビューの道がないわけではない。だが、柳井氏は賞への応募にこだわった。

「携帯ゲームの制作をやっていた頃、ユーザーは月額課金の人に限られていました。多くの人に届けたいのに、届けられなかったんです。そのとき思ったのが、メインカルチャーで仕事をしたい、ということでした。そのためには、正規の道でデビューしたかった。そうしないと、届く人が少なくなる。それこそ、食うだけなら、どうとでもできる。そうじゃないところで勝負してみたいという思いだったからこそ、賞を目指したんです」

ジャンルはこだわらなかった。SF、ホラー、ライトノベル、ミステリー……。何でも書いた。

「やってみてわかったことは、何が自分に合うかは自分ではわからないということです。仕事と同じです。やってみないとわからない。どのジャンルの需要があるかも、自分にはわかりません。結局のところ、自分でわかることには限りがあるのだと思っています。人に教えてもらうからこそ、わかることがあるんです」

そして、作家デビューできた理由も、そうした“第三者の目”にあったと語る。

小説では読者がコンパイラ。事前にデバックしないと

「なんとか書くことができたとしても、それが読者としてどうなのか、自分ではわからないんです。おかしいところにも気づけない。だから、真っ先にやったのが、大学の先輩にメンターになってもらうことでした。

たくさん本を読んでいる人に、書いたものを読んでもらって、いろんな指摘を受けました。厳しかったですよ。これダメ、あれダメ、このページはいらない、とバッサリやられてばかり。一方で、こういうのを読むといいよ、これが参考になるよ、とも教えてもらえて」

それを繰り返すうちに文章の無駄が減っていった。同じことを何度も繰り返したりすることがなくなった。ボリュームバランスも整っていった。

「言ってみれば、小説を書くための脳の改造です。これに時間がかかったんです。プログラムを書くときは、コンパイラを通して動くようにしますが、小説では読者がコンパイラなんです。人間が読んで、物語が想像できる文章を書かないといけない。

書いている本人はできていると思っているけれど、違う。これは、コンパイラでエラーが出るプログラミングと同じ。第三者の目から見たらどうなるか、検証できないとダメなんです」

実は柳井氏、前回の松本清張賞でも、最終選考に残っていた。今回のデビューは、これが大きかったと語る。

「プロのアドバイスをもらうことができたからです。選者の評も編集者の指摘も厳しかったですが、おかげでデバックができた。選考で何を見られているかもわかった。答え合わせができるようになったんです」

では、約700作品の中から4作に残った今回のデビュー作はいかにできたか。次回に続く。

(執筆:上阪徹 撮影:近藤俊哉)

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