あの「野食ハンマープライス」主宰・茸本朗氏と行く、アナジャコ釣り@東京湾【調理&実食付き】

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エクストリームな「野食ハンマープライス」

「食べたことのないものを食べてみたい。その味が知りたい。

誰も食べたことのないものは、なおさら食べてみたい。

そしてもしそれが美味しかったならば、こんなにうれしいことはない」

きょうご紹介する、茸本朗(たけもとあきら)さんの言葉です。

野食ハンマープライス」というサイト、ご存じでしょうか? 茸本さんはこの運営者で、彼自身の言葉を借りれば「変ないきものを食べてはレポート」し、なおかつ「野外のものをできるだけ美味しく食べる」ことに心血を注いでいるサイトなのであります。

サンプル1:ウシガエルが食べられるならばオタマジャクシもいけるのではと考察する茸本さん

このサイトを最初見たとき、茸本さんの迷いのない実食ぶりに感銘を受けました。「知らないものを食べてみたい」というその思いに、まーったくウソがない。たとえば海の生きものなら、マグロと釣り餌になるような多毛類とが彼の眼には等しく映っているのが感じられ、同時に「食べてみたいもの」なんだなーということがとっても素直に伝わってきたんです。

サンプル2:「釣りをする人でも触れない人がいる」青イソメにトライする茸本さん

と、上記の2サンプルだけだと「ゲテモノ食いの人?」と思われちゃうかもしれませんね。いえいえ、最初にも書いたように茸本さんはあらゆる生きものを「できるだけ美味しく食べる」ということに重心を置いてるんです。

少年時代の愛読書は動植物図鑑

茸本さんの父親は転勤族で、10歳のときに九州に赴任。この地で茸本少年は釣りと出会い、見事にハマります。

ほぼ毎週末釣りに行ってました。ときには、ハゼ120匹をひとりで釣ってきたこともあります。たまりかねた母親が「誰が料理するの!」って怒ったんですよ。そしたら父親が、柳刃包丁と出刃包丁をプレゼントしてくれて。自分で料理しろ、ということですね。そのとき11歳でしたが、以来ずっと料理をしています。(茸本さん)

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これがその父親からのプレゼント、大事に使い続けてもう20年選手。「研ぎ続けて使ってきたので、すっかり小さくなりました」と茸本さん。料理をはじめると同時に、朝市をのぞくのも大好きになったそう。

朝市には出会ったことのない様々な魚がいっぱいいるわけですよ! ワクワクするんですよね。料理し始めの頃、なんの魚かは忘れたけど朝市で買った魚を刺身にしたんです。多分うまくいかなかったと思いますけどね(笑)。その後は見よう見まねで料理をしつつ、ずっと毎週末は朝市と釣りです。でも勉強もしてたんですよ。親がうまいなと思うのは、塾のテストでいい成績だったら釣りに連れて行ってくれたんです。だからがんばりました。(茸本さん)

どんどん興味の幅は広がっていき、川釣りもするようになり、山や野原で食用となる植物の採集もはじめるように。

学生時代の愛読書といえばとにかく図鑑類でした。「食用にもなるが、あまりおいしくない」みたいなことが図鑑に書いてあっても、実際に食べてみると「うまいっ!」ってことが結構あったんです。「やってみないと分からない」と強く思うようになりましたね。高校時代に没頭したのは、キノコです。松原に出かけていってキノコを採取して、干したり瓶詰にしたり、保存・加工法の研究にも夢中になりました。さすがに同級生から「おまえ、おかしいよ」って言われてましたけど(笑)。

高校1年生のとき、親から許可を得て、食用のキノコを採取するようになったんですが、ポルチーニ(和:ヤマドリタケ)と間違えて毒キノコを採取してしまったんです。ひどく吐きました。少しかじっただけだったのでまだよかったんですが、しっかり食べていたら危なかった。これで反省したんです。自分に厳しくなりました。キノコで中毒になったのは、そのときだけです。(茸本さん)

と、茸本ヒストリーを記していると面白いことが多すぎでキリがないのです! 今回は、そんな茸本さんの日常活動に同行させてもらい、野食生活をちょっと体験させてもらいました。今回狙うのは、アナジャコです!

【まめちしき】

アナジャコとは、北海道から本州の汽水域・干潟に住む甲殻類。九州の有明海~八代海あたりでよく食べられている。旬は5月~7月で、ゆでると赤くなる。身とミソには濃厚なうま味あり。

アナジャコ釣り初体験

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さて、我々は関東某所の沿岸部、夏の朝8時に集合しました。

もちもの:スコップ、数本の筆、長靴、汗ふき用の手ぬぐい。

いまアナジャコは数が少なくなっているので、乱獲防止の意味を込めて場所はふせておきますね。潮のひく時間にアナジャコは獲りやすくなるので、釣りの狙い目なんですよ。そしてアナジャコ釣りに筆は欠かせないものなんです。

※漁業権のないエリアで採取しています。

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やおら砂地をスコップで掘り出す茸本さん。これは何をやってるんですか?

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アナジャコは、こういう砂泥地にその名のとおり穴を掘ってすんでいるんです。この穴に、さっきの筆を差し入れて捕まえるんですよ。

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アナジャコが「なんだこいつは。出て行け!」とばかりに筆を押し出してきたときが捕獲のチャンスなんです。

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干潟のあちこちに筆トラップが仕掛けられます。知らない人が見たら、かなりシュールな光景ですな。

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おっ、さっそくアタリが来ましたよ。茸本さん、筆先のあたりをめがけて泥の中に手を突っ込みます!

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ゲット!!

これがアナジャコです。軽く泥を洗った状態のものにクローズアップしてみますね。

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スコップ状になっている第一脚ではさまれると結構痛いそうですが、茸本さんはなんなく触っていました。実際に持たせてもらったんですが、さほど暴れることもなく、おとなしい印象。一旦筆にかかったら、捕まえるのは簡単なものなんですか?

いえいえ、尾の部分を砂穴に引っかけて抵抗します。そうなると獲れないですね。また脚の部分は外れやすいので、うまくいかないと脚だけ引っ張り出すことになり、逃げられちゃいます。名人になると片手で獲りますよ。さほど力も入れずスッと捕まえるんですが、僕はまだその域には達していません。

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ハマグリやアサリなどの貝類も!

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アナジャコ釣りを続ける間に、干潟をゆくアナジャコの子どもを見つけました。

「うれしいですねえ。こうしてアナジャコが実際に繁殖して増えているのを目にするのは」と茸本さん。この釣り場所、都心からさほど遠いところではなかったのですが、アナジャコ以外にも様々な生きものが育っているのを確認できました。

熊手でそのあたりを探ってみると……。

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こんなに大きなハマグリが!

ここまで育ったものに出会えるのはかなりレアケースのよう。「きょうはラッキーですよ」としばし笑顔の茸本さんでした。

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こちらはアサリ。

関東近郊の干潟では一時かなり数が減ったとのこと。茸本さんもこの状況については持論があるようです。

都会の生きものは我々が思っているよりもずっとたくましい一方で、採取圧にはとても弱く、みんながこぞって獲りだすとあっという間にいなくなってしまいます。生きものを採取して食べようという人間は、同時に彼らがすむ環境を守ろうという強い意志を持たなければなりません。サステイナブルな活動(環境を保ち持続させていくこと)ができない者に、野食をする権利はありません。

この意志あればこその、野食活動なのですよね。

かつて東京湾にはアサリがそれこそたくさんいたと聞きます。音楽家・團伊玖磨のエッセイには、昭和20年ごろ千葉寄りの東京湾の浅瀬では「足の下全部が貝であるほどに増殖していた」という記述が(朝日新聞出版『なおパイプのけむり』より)。ほとんどがアサリだったそうで、戦争中に潮干狩りが禁止され一挙に増殖したよう。

いまでも少し人間が我慢すれば、よりよい環境に変われるのかもしれませんね。

さて、また茸本さんが何かを見つけましたよ。

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これはオキシジミ。わりに獲れるものなんですが、さほどうま味がなくて、臭みもあるんですよ。でも、一応食べてみますか?

なんでも体験です! よろしくお願いします!!

じゃあ、釣果に入れておきましょう。あとで汁ものにしますね。

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と、いいつつ筆の動きを見逃さない茸本さん。さあ、釣れるかな?

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ゲット!!

これはなかなかの大きさです。後ずさりして逃げようとしますが、スピードは遅め。泥穴の中では機敏なのかなあ。しかしずっと穴の中にいていきなり地上に引っ張り出されたアナジャコ、どれだけまぶしいのだろう。

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さて2時間が経ち、そこそこアナジャコも捕まえられたところで、浜辺を後に。

きょうの成果はアナジャコ10匹、筆を仕掛けている間に捕らえたシジミ19個、ハマグリ2個、そしてオキシジミ6個でした!

ついでに野草もゲット

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浜から上がったところで、茸本さんが何かを見つけたよう。

お、ツルナが生えてますね! これ、おひたしにするとおいしいんですよ。

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せっかくですから、これも摘んでいきましょうか。きょうの夕飯はアナジャコをメインにして、貝で汁を作って、おひたしという献立でいきましょう。

魚介だけでなく、菜っぱも同時に収穫できてしまいました。このツルナ、浜の岩場にわっさわさ生えていましたよ。「都会に生きていても自給自足は可能!」が茸本さんのスローガンなのです。

ちなみに最初の打ち合わせでお会いしたとき、場所は秋葉原だったんですが、最初に茸本さんが発した言葉は「街路樹の植えこみにミツバが生えてたんですよー。摘んでこようかな」でした(笑)。ミツバもよく見れば、都内のあちこちに生えているのだとか。

獲れたてのアナジャコを調理してみる

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さて、ここからは調理に入りますよ。

アナジャコはまずよーく洗って砂や泥を落とします。

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貝も同様によく洗い、シジミやハマグリは砂抜きを。特にオキシジミは身を取り出して中まで念入りに洗って砂を取り除きます。

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ツルナはザッと洗ってから下ゆでして、水気をよく切っておきます。メモ書きは私が名前を忘れないように書いておいたもの。(;^ω^)

さて茸本さん、アナジャコってどうやって食べるのがおすすめですか?

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おすすめは唐揚げです! 好みの唐揚げ粉を溶いてまぶして、揚げちゃってください。ビールのつまみに最高ですよ。

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慣れた手つきでどんどん揚げてゆく茸本さん。さっき獲ってきたものをそのまま調理するというのは独特の感慨があるものですね。

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完成!

食べてみると殻がやわらかくて、ソフトシェルクラブを思わせる食感と味わい。甲殻類らしい香ばしさと身のやさしい甘み、うまいなあ……。

これ、タイ料理っぽくスイートチリソースをつけてもうまそうと思い、添えてみました。相性バツグンでしたよ!

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この黒っぽい部分、シャコみそなのですが茸本さんから「ホヤの香りがする」と聞かされていたんですね。まさに! 本当にホヤのあの独特な香りがしてかなり驚きました。うーん…… これ、日本酒にも合う! アナジャコのポテンシャル、すごいぞ。

おひたし&お吸い物も本格的な味に

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醤油と酒、みりんで甘めに味つけしたツルナのおひたし。

こちらはキュッキュッとした食感もよく、いいおかずに。

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ハマグリは、すまし汁に。どうですこの豊かな身! 濃厚なうま味、堪能……。

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オキシジミは茸本さんのいうとおり、臭みがけっこう気になりました。獲れたてなのになあ。「これ、味噌をきかせたほうがいいですね」と茸本さんの判断でツルナと味噌汁にしたところ、おお……臭みが気にならない。野趣のあるよい汁になりました。

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茸本さん、おつかれさまでした。

きょうはどうも、ありがとうございました。おつかれビール、いっちゃってください!

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プハーーー!!!

いい表情ですな。(^-^) おつかれのところ調理までしていただき、ありがとうございました!

茸本さんは現在、深海の生きものに魅せられ、深海釣りに力を注いでいるとのこと。また大学時代にはフランスの食文化に興味を持ち、ワインとチーズ研究にのめりこんで、ワインエキスパートの資格を取り、さらにはワインの輸入会社に勤務されたこともあるのだとか。そして現在ではキノコ狩りのレクチャーツアーも開催と、とにかく食の話は尽きないのです。今後もぜひ、『メシ通』で何かお伝えできればと思います。

茸本さん、どうぞまたよろしくお願いしますね!

<注意>採取しても良い場所なのか、ご確認の上行ってください。また、毒のある動植物が存在しますので、十分ご注意ください。

書いた人:白央篤司

白央篤司

フードライター。雑誌『栄養と料理』などで連載中。「食と健康」、郷土料理をメインテーマに執筆をつづける。著書に「にっぽんのおにぎり」「にっぽんのおやつ」(理論社)「ジャパめし。」(集英社)がある。 facebook:atsushi.hakuo ブログ:独酌日記

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