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前橋育英の怒らない監督 「ずっと甘いと言われてきた」

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 例年通り熱戦が繰り広げられている全国高等学校野球選手権。今年の群馬県代表は、2013年に夏の甲子園大会初出場で初優勝した前橋育英高校だ。とかく勝利至上主義に陥りがちな高校野球界で、2002年から同校の指揮をとる荒井直樹監督はスパルタ式のしごきとは無縁で知られている。荒井監督の著書『「当たり前」の積み重ねが、本物になる』の構成を担当したライターの田中夕子氏が、怒らない監督が夏の甲子園大会で目指すものについて聞いた。

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 初出場初優勝を成し遂げてから3年。二度目の甲子園出場を決めた前橋育英高校を初めて取材で訪れ、練習風景を撮影していたカメラマンが驚いた。

「ほんとに、全然怒らないんだね」

 高校まで野球部だったという撮影者は、全国大会に出場経験があるわけではない。だが、守備練習や走塁練習の合間、ミスが出ると「監督から怒鳴られるのは当たり前」だったと言う。だからこそ余計に、多少のミスが出ても、選手が委縮するどころか「おーい、どこまで飛ばしてんだ」と笑顔で選手の輪の中でノックを打つ、前橋育英の荒井直樹監督の姿が新鮮に見えた、と言う。

 今年で52歳になる荒井監督。指導時だけでなく、取材中も常に穏やかで、どんな話題も楽しそうに話す。

「この間、寮の部屋が汚い選手がいたから『今日は練習に来なくていいから、部屋をきれいにして出て行け』って言ったんですよ。そうしたら慌てて片づけて、見られちゃ困るような本まで出て来たから、『お前、これぐらい隠しておけよ』って言ったら、『あ、それは先輩にもらったんで』って真っ赤になって(笑)。高校球児じゃなくてね、幼稚園生と変わらないんですよ」

 当たり前のことは当たり前に。「凡事徹底」を座右の銘とし、キャッチボールは丁寧に、ミスの後こそ冷静にプレーする、自分勝手なプレーをするのではなく相手を思いやる、等々、譲れないこだわりはあり、それに反した時は当然、選手にも厳しく接する。野球だけでなく生活面も同様で、掃除や食事、挨拶など、ごくごく当たり前のことを当たり前に行う日常こそが大切だ、というのが荒井監督の考え方だ。

 選手との関係性も同様で、監督と選手。たまたま生まれたのが早かったから自分は指導をしているだけなのだから、偉そうにする必要はない、というのが荒井監督の持論。夏の大会を控えた時期には、さまざまな学校と練習試合を行う。

「常に調子がいい選手なんていないから、試合によってはいい時もあれば、悪い時もある。そこをどう上げるかが指導者の仕事なのに、たまにね、『あいつは最近ダメだから干しているんだ』と言う人もいるんです。おかしいでしょ、干すのは洗濯物と柿ぐらいなんだから」

 1999年にコーチ就任、2002年に監督となってから、優勝候補に挙げられながら、なかなか甲子園出場には届かず、荒井監督の指導方針や姿勢を「甘い」と批判する声も少なくなかった。いいチームだからといって、勝てるとは限らないんだぞ。挨拶や靴を揃えること、近隣のゴミ拾いをすることが、野球と何の関係があるんだ。そう言われたことも、一度や二度ではない。

 だがそれでも荒井監督はブレなかった。

「お前はダメだ、と言われても全然構わない。でもね、みんなに応援されるようないいチームで、勝ちたい、という思いはずっとありました」

 コツコツと地道な練習を積み重ね、たどり着いた、2013年夏の初出場初優勝という快挙。そして、3年の時を経て、再び甲子園へ戻ることができた。

「野球人としては、特別な場所。ウチは変わらず特別なことは何もないけれど、一生懸命、1つでも多く校歌を歌えるように頑張ります」

 二度目の夏、前橋育英がどんな戦いを見せるのか。初戦は8月11日の第3試合、沖縄県代表の嘉手納高校と対戦する。

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