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エンジニアが質問し、エンジニアが答えるQ&Aサイト──2周年を迎えた「teratail」の解決力

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国内プログラマのほぼ全員が、月に一度は訪れるQ&Aメディア

teratail」は、ITエンジニアがプログラムの設計やコーディング時に抱えるさまざまな問題や課題を投げかけると、全国のユーザーが自身の知見を活かして回答してくれる、会員制のQ&Aサイトだ。

単なるQ&Aサイトというより、質問と回答に対する評価付け機能や、タグの検索や投稿編集機能も豊富で、良質なコミュニケーションを通して有用なナレッジを蓄積している「ナレッジコミュニティ」の一つともいえる。

同種のサイトとしては、2008年から運営が開始され、現在登録ユーザー数が世界で100万人とされる英語圏エンジニアのための「Stack Overflow」が知られるが、国内では会員数4万人ながら、むしろ質問や回答を投稿するユーザーは「teratail」の方が多い。

日本語で自由に質問・回答ができ、かつ評価付けなどゲームフィケーションの要素を採り入れたサイトとしては希有のものだからだ。

その認知度を裏付ける数字が2周年にあたって公表されたレバレジーズのニュースリリースの中にある。「teratail」の会員数、月間ページビュー(PV)、ユニークユーザー(UU)数は、開設以来順調に増え続け、今年7月にはPVが143万、UUも65万を突破した。

▲「teratail」の会員数・月間PV・UU数推移

インフラ系、アプリ系、運用系サービス技術者の合計は約50万人(IPA『IT人材白書2016』)と推測されるから、「国内プログラマのほぼ全員が月に一度は訪れているメディア」と言い方は決して大げさではない。

数多くのプログラマが参加し、1カ月に2万件を超える活発な投稿が行われるサイトだけに、その質問傾向から日本のエンジニアの技術的関心を探ることも可能だ。例えば言語に関する関心だ。

すべての質問にはキーワードごとにタグがつけられているが、それを集計すると質問数の多い言語はやはり「PHP」「Java」「JavaScript」が上位3位を占める。実務での導入が多い言語だけにこの結果はなんら不思議ではない。

しかし、ランキングをトップ30まで見ると、2014年に発表された「Swift」が10位にランクインするなど、比較的新しめの言語にも関心が集まっていることがわかる。

さらにリリースによれば、2016年に登場したばかりの「Anglar2」「Elixir」「Kotlin」への質問もすでに散見されるなど、エンジニアの貪欲な好奇心を窺うことができる。

「teratailの1年目の頃は、三大Web言語以外のその他の部分には、WordPressの質問なども入っていて、回答者には非エンジニアも多いのかと思いましたが、2年目になるとかなりエンジニア色が強まっています。サイエンス分野で使われるような高度な言語への質問も目立つなど、技術的関心の多様性も広がってきました」と、teratail開発リーダーの本橋佑介氏はこの2年の変化を指摘している。

▲レバレジーズ株式会社 teratail開発リーダー 本橋佑介氏

わかる人とわからない人を、日本語で結び付ける

今回は「teratail」の躍進を支えるエンジニアやデザイナーたち6名に集まっていただき、ミニ座談会を開いた。

なぜ「teratail」を作ろうと思ったのか、「teratail」がここまで成長した理由は何なのか。2014年に「teratail」のプロデューサーである藤本直也氏はこう語る。

▲レバレジーズ株式会社 teratailプロデューサー 藤本直也氏

「以前からStack Overflowの存在は知っていましたが、やはり英語は敷居が高い。その技術がわからない人とわかる人を日本語で結び付け、そのやりとりのログをきちんと残して、技術力の底上げにつなげるようなサイトはまだなかった。技術進化のスピードは速いし、情報が足りない領域はこれからも必ず出てくる。それをカバーするQ&Aサイトが絶対に必要だと思うようになりました」

その藤本氏に相談された当初、開発リーダーとなる本橋佑介氏の反応は素っ気ないものだったという。

「サービスがイケるかイケないかというと、イケないんじゃないかって(笑)。エンジニアなんだから、そんなのダイレクトに英語で聞けばいいじゃないかと。ただ、僕自身アジアのオフショア業務にかかわるなかで、日本のエンジニアの技術力を高めめつつ、その技術力の高さを知らしめる場所が欲しいと思うことがあって、考えを改めました。日本語によるエンジニアの集合知ともいえるようなメディアはやっぱり必要だなって」

「teratail」の質問・回答に使われるエディタ画面では、Markdownが最初から実装されている。HTMLよりも簡単に読みやすく書けるだけでなく、コードを貼り付けるのも簡単だ。このあたりは本橋氏が「エンジニア向けメディアを作るんだったら、絶対、Markdown!」と強力にプッシュした結果だ。

いまやMarkdownの勢いは止まるところ知らずで、一般のブログサイトやブログ編集ツールでもMarkdownを実装するものが増えている。本橋氏の先見の明である。

なぜ「teratail」ではエキスパートたちが率先して回答してくれるのか

「teratail」がエンジニアの間で高く評価されるのは、質問の内容というより、回答者のレベルが高いことだ。回答すればスコアと呼ばれるポイントがもらえるが、それで何かが買えるわけではない。

にもかかわらず、それぞれの世界で忙しそうなエキスパートたちが、時間を惜しまずに丁寧に回答してくれている。

「エキスパートを一人ひとりに声をかけて集めたという感じはないんですよ。自然に集まってきたというのが実際のところ。本当に困っている人がいるところには、必ずそれを助ける人が出てくる、ということだと思うんです」(藤本氏)

Q&Aを通じてエンジニアの問題解決が行われる「teratail」は、ブログやSNSで自らの気づきをシェアしたり、コミュニティを形成して勉強会を開催したりする“シェア文化”が根付いたエンジニアならではの“善意”を組織化するメディア、という言い方もできなくはない。

技術者のプライドをさり気なくくすぐる仕掛け

「回答者のモチベーションを維持・向上させるためにはどうしたらいいか。僕が一番に手をつけたのはそこですね」と言うのは、昨年2月から「teratail」のUXデザインを担当する武藤大佑氏だ。

▲レバレジーズ株式会社 teratail UXデザイナー 武藤大佑氏

UI/UX改善のために、何人かのアクティブな回答者にヒアリングし、それぞれのモチベーションの根拠を探った。

「困った人を助けたいというだけでなく、自分のスキルを試したいとか、エンジニア仲間と交流したいとか、モチベーションは人それぞれ。共通するのは回答に対する何らかのフィードバックが不可欠ということでした。
言語や技術ごとにスコアをつけるのもその一つですが、コミュニティにおけるその人の個性や技術力を可視化する工夫も凝らしました。回答者のアイコンをクリックすると、その人のマイページに飛べるんですが、そこでその人がもつスキル一覧や回答履歴などが辿れます。質問者からすれば、『あっ、こんなスゴイ人が答えてくれたんだ』と驚くこともある。その反応が回答者の心理にも良い影響を与えているということはあると思います」

この技術で自分はコミュニティに貢献している──技術者のプライドをさり気なくくすぐる仕掛けは功を奏し、回答者のアクティブ率は高まった。

それは、質問してから12時間以内に回答が返ってくる割合「半日以内回答率」が、オープン当初の34.9%から84.9%にまで高まったという数字にも表れている。


▲質問数・回答数・12時間以内解答率グラフ

武藤氏のジョインから半年後に「teratail」チームに加わったデザイナーの木村和寛氏は、武藤氏と共に質問者への評価機能の実装に取り組んだ。

▲レバレジーズ株式会社 teratail デザイナー 木村和寛氏

「質問内容に応じて、ボタン一つで評価を上げたり下げたりすることができる機能です。例えば、しっかり調べてから質問している、他の人にとっても有用な質問であると思えば、コミュニティの人々は“Good”ボタンを押して、その人の評価を上げるわけです。ただ、この機能の実装にあたってはさまざまな議論がありました」

それはそうだろう。せっかく勇気を出して質問したのに、いきなり評価は下げられてはへこむし、コミュニティのことを嫌いになる。開設当初からこのサイトにはあったという「温かい空気感」を維持するためには、評価機能は入れないほうがいい。

いや、よりよい質問を集めるためには、やっぱり必要だ。チーム内ではボタン一つのUIをめぐって侃々諤々の議論が続いた。

「“Good”がたくさん押されれば、こういう質問の仕方がよかったんだとわかる。質問者からすれば質問の仕方がだんだん上手になるというメリットがあると思うんです。もちろんそれは、質問がわかりにくければ評価が下がることもある、ということが前提ですね。UI的にはGoodボタンを目立たせ、評価を下げるボタンは小さくするなど細かい工夫をしています」

こういう話を聞くと、ボタン一つ押すにも、いいかげんな気持ちではできなくなる。

入門者向け勉強会やAPI公開でコミュニティとの連携を強化

「teratail」チームでデベロッパー・リレーションズ、さらにマネタイズのための営業戦略も担う木下雄策氏。

▲レバレジーズ株式会社 teratail DevRel/企画営業 木下雄策氏

「teratailに優れた回答者が集まれば、質問者も増えてくる。そのためには優れた開発者とのリレーションを深めることが大事だとは考えたんですが、最初は何をしたらいいかわからず困りました」

昨年2月にteratailチームにジョインし、最初に手がけたのがエイプリルフールに仕掛けた“お寺tail”。「フルスタック僧侶があなたの煩悩を解決します」というジョーク企画で、teratailを知ったエンジニアも少なくないはずだ。

その後、キャンペーン企画や、teratailユーザーのMeetup”集まっtail”の立ち上げを行いつつ、様々なエンジニア勉強会に時には月10回以上出席するうちに、エンジニアコミュニティを巻き込んでいくことの重要性に気づいたという。

「技術の盛り上がりって、その技術を使っている人たちのコミュニティがどれだけ盛り上がっているかが鍵になると思うんです。コミュニティが盛り上がればTipsやノウハウがWeb上で増えるし、オフラインの勉強会での知識共有も盛んになります。すると、参入障壁が減るのでその技術を使う人がどんどん増えていきます。そこでteratailをうまく絡めつつエンジニアコミュニティの発展に貢献できないかと考え始めました」

エンジニアコミュニティを主宰している人たちをランチに誘い、悩んでいることや困っていることをヒアリングしていくと、コミュニティの新陳代謝や入門層の獲得に苦労しており、コミュニティの新陳代謝が悪くなっているという話が出てきた。

そこでコミュニティと一緒に始めたのが、初心者向けのハンズオンやLT大会といった勉強会だ。ハンズオンを通じて新たな技術を使うきっかけを提供し、LT大会での発表に向けてその技術を使った1つのプロダクトを完成させることで、参加者がその技術にしっかりと触れられるようになっている。

「週1~2回のペースで開いているんですが、最近はAnglar2、Python、WebGL、WebVR、Scalaあたりが盛り上がってますね。コミュニティと連携したことで、入門者はプロダクトを完成させる過程でつまづいた時にteratailを課題解決のサポートとして使ってくれるし、コミュニティの方々もteratailでの質問を気にかけてくれ回答者としてteratailに参加してくれるようになる。そういう好循環が生まれています」

今年の3月に開設した、各言語のユーザー会の代表、技術カンファレンスの主催者など、「teratail」が認定したエキスパートユーザーを紹介する「エキスパートユーザーページ」も木下氏の発案だ。昨年夏から行動し続けた努力が、ようやく報われつつある。

2015年4月に新卒入社したエンジニアの出川幾夫氏は、入社早々にteratail APIを開発。これを活用し、各技術コミュニティが使うグループチャットなどに、その技術関連の質問を自動投稿する仕組みを実現した。

▲レバレジーズ株式会社 teratail エンジニア 出川幾夫氏

IFTTTインテグレーションではないが、複数のWebサービス間連携はこれからの重要な技術テーマ。新卒ながらそれをサクッと実装してみせる実力を持つ。

「最初は、簡単な情報取得APIでしたが、APIが公開されると、エンジニアはそれを使ってマッシュアップしたくなるもの。そのAPIをBaaSのMilkcocoaの開発者コミュニティが使ってくれることになりました。teratailで“Milkcocoa”というタグがついた質問は、Milkcocoaのコミュニティサイトにも表示される。逆に、Milkcocoaのサイトにはteratailへのリンクも貼ってある。teratailがMilkcocoaのQ&Aポータルのように動きます。こういう仕組みを通して、エンジニアの間に“困ったらteratail”という印象が広まればいいなと思っています」

こうした努力もあって、最近は学生の間にも「teratail」の知名度が高まっているという。「採用イベントでプログラミングをやっている学生に聞くとだいたい8割が手を挙げてくれますね。昨年と比べても認知度は飛躍的に高まっています」

技術者向けのサービスゆえに、徹底的に技術にこだわる

もし自分が学生や新入社員の頃に、「teratail」のような使いやすいエンジニアQ&Aサイトがあったならと思うベテランエンジニアもいるはずだ。何がわからないのかもわからず、うろうろと遠回りをして時間を無駄にすることはなかったかもしれない。

ただ、こうしたQ&Aサイトの存在がエンジニアのスキル向上にどれだけ直結するかは、未知数の部分もある。「teratail」が存在することで、日本のプログラマの集合知がどれだけ向上したのか、その定量的な評価を下すにはもう少し年月が必要だ。

そのためにも、「teratail」は今後もシステムとUI/UXの継続的な改善を試みる。

「技術者向けのサービスなので、僕ら自身がインフラからフロントに至るまで、徹底的に技術にこだわり、最適解を求め続けることが欠かせない」と、本橋氏は自負も込めて語っている。

エンジニアは何に困っているのか、どのような回答があればその人のスキルは向上するのか、回答者のモチベーションを高めるためにはどういう施策が必要なのか、Q&Aの膨大なやりとりを知識データベースとして有効活用するためには、どんなシステムが必要なのか──そのことをひたすら考え続けるレバレジーズのエンジニアたち。

「teratailがエンジニアからの支持を受け続けるためには、ここで聞いたら問題が解決したという“解決力”を高めるしかない。解決力向上に向けて3年目も奮闘します」──藤本氏が最後に心強く宣言してくれた。

(執筆:広重隆樹 撮影:設楽政浩)

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