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他者との関わりをもたない理由は何?高齢者の気持ちに寄り添うケアを考える

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ご高齢者や認知症が進んだかたにも楽しんでいただける音楽会、「音楽の花束」を主催しておりますGOTOです。デイサービスで仕事を始めて、ご高齢者はもちろんそのご家族など、関わる全ての人たちのQOLを高める重要性を改めて感じています。

「この歳だから、もういい」と、リハビリや他者との関わり、新しいことへのチャレンジなど諦めてしまい、認知症が進んでしまったり、身体機能がどんどん衰えてしまうことに対して、音楽でもっと働きかけていくことができないか模索しています。今回は、デイサービスで出会った利用者様との体験を通して感じた、寄り添うケアについてお話したいと思います。

黙々とひとりで手習いしている女性

とてもおしゃれで、杖なしで歩行される、90歳を超えた女性のご利用者様がいらっしゃいます。スタッフ全員の名前や家族構成、住まい、前職のことなど、なんでも上手に聞き出し、全て覚えておられます。

しかし初めて出会った時は、来所されるとすぐに書道の道具を出し手習いを始め、お昼時までほとんど会話をなさらずに過ごしておられました。この時間は「脳トレタイム」で、ほかの方はスタッフやご利用者様同士会話をしながら、思い思いに漢字クイズや塗り絵、間違い探しなど毎回違ったプログラムで過ごされていらっしゃいます。

認知症を予防したり進行を遅らせるためには、他者と関わったり新しいことにチャレンジするなど、脳を活性化させる活動がとても大切です。会話も少なく、淡々と同じ行動を繰り返すこのかたの姿を見てGOTOは少し心配になりました。

寄り添うために適切な距離感を知る

GOTOとの最初の音楽レクリエーションの時間、このかたは気難しそうに黙って耳を傾けておられました。東北ご出身ということで、「どじょっこふなっこ」を歌い、方言のことなどを話題にしてみましたが、「わっちのところでは『しがこ』なんて言わないね」と、けんもほろろな雰囲気で、皆さんとの活動があまりお好きでないのかなと感じました。

ところが、ご帰宅の送迎車の中では「しがこ」という言葉は地域によって差があることなど教えてくださり、「あんたの歌はとてもいいから、次はもっと大人っぽい歌を歌ってちょうだい」と言われました。皆さんと歌うことが嫌だというわけではなく、むしろお話好きなのだとわかりました。

次の音楽レクで、日本歌曲や歌謡曲などをご一緒しましたところたいへん喜ばれて、周りのかたにも、「こういう曲はいいよね」「いい歌はずっといいもんだ」とおっしゃっていました。「津軽海峡冬景色」を歌ったあと、「津軽はね、潮がぶつかり合うところだから、ほんとうにいつも波が荒いわけよ」というお話しもしてくださいました。

この女性がレクの時間に様々なお話しをしてくださるようになったのは、同じ日に通所している感情の変化が激しかったご利用者様が、音楽をきっかけに穏やかになりつつある時期と同時でした。(前回記事:介護に役立つアセスメントの重要性と音楽の力を実感した話)お話の端々から、書道に熱中することで、この感情のコントロールが難しい利用者様に関わらないようにしておられたということがわかってきました。またこの時期は、施設全体で「よりよいケアをするにはどうしたらいいか」という雰囲気が定着し始め、スタッフから利用者様へのケアがきめ細かくなってきた頃とも言えます。

利用者様同士の距離が徐々に縮まる

レクの回を追うごとに、この女性は皆さんと声を合わせて歌うことも増え、それとともに歌にまつわる思い出話をしてくださるようになりました。同じ「津軽海峡冬景色」を歌っても、この頃には「見合い相手は、海峡の向こうの人だった」というような個人的なお話しも出るようになってきました。

歌の合間の自然な会話の中でご家族のこと、出身地、学校時代の思い出など、互いの個人的な情報を知ることで、ご利用者様同士の関係がぐっと親しみを帯びてきます。この女性も、音楽レクが始まってからみるみる他の方との日常の会話や声かけが増えました。

現在は、ご自身からの朝夕の挨拶も毎回、「あら、今日も一緒ね、嬉しいわ」「あなた今度いつ来るの?」「お先に帰りますが、また会いましょう」など、通り一遍ではなく毎回気持ちのこもった言葉をかけておられます。

「脳トレ」の時間にはスタッフの働きかけで編みものにチャレンジし始めて、書道の道具はしまいこまれたままになっています。

ひとつの曲に込められたさまざまなエピソードたち

最近「津軽海峡冬景色」を歌ったときに出てきたのは、「想い合っていたけれど、親が許さず一緒になれなかった人は、龍飛岬の向こうの人だった」という、すてきな切ない恋のエピソードです。これをきっかけに皆さんと「切ない恋の別れ」を題材にした曲をたくさん歌いました。

ほかのかたからも、「あの頃はそんな時代だったね」「親が許さねばなにもできなかったものね」「ふたりで出かけるなんてできない時代だった」など、さまざまな思い出が語られ、しみじみと楽しい時間をご一緒に過ごしました。

最近、音楽レクの中でその女性からいただいたリクエストは、「『鉄道唱歌』66番までを最後までみんなと歌ってみたい」というものです。

GOTOの高齢者施設での音楽提供はまだまだ研究途上。
このあともどうぞお付き合いくださいませ。

この記事を書いた人

後藤 京子(GOTO)

「音楽の花束」代表。星美学園短期大学講師。東京音楽大学卒、同大学第2副科オルガン専攻修了、邦楽演奏コース長唄三味線専攻修了。1986年日本ピアノコンクール全国大会第3位、受賞記念演奏会出演、1987年読売新人演奏会出演。NHK邦楽技能者育成会に学ぶ。短大西洋音楽史講師、小学校音楽科教諭を経て2004年より「音楽の花束」のプロデュース活動を始める。2015年きらめき認知症シスター(きらめき認知症トレーナー協会認定)取得。カトリック東京カテドラル関口教会オルガニスト。デイサービス「空の花 高井戸」取締役副社長。>>公式サイトへのリンクはこちら「音楽の花束」

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