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古舘佑太郎 青春群像短編小説 第七回「青春の象徴 恋のすべてvol.5」

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セイヤは、アメリカ人のお母さんと日本人のお父さんを持つ、いわゆるハーフの男の子だった。ハーフと云われても、端から見れば彼は完全なる外国人にしか見えなかった。髪の毛は、茶色いし、目も僕らとは色が違う。そして何より、どう考えても僕らクラス全員を持ってしてでも、打ち勝てないほどの美形の持ち主であった。それでも彼が目立たなかったのには、その圧倒的な無口な性格が原因だった。一方、僕はといえばクラス内における、やんちゃなガキ大将をやっていたので、正直なところ、セーヤの存在をほとんど気にかけていなかったし、あまりその存在自体も認識していなかった。この頃の僕は「誕生日ゲームソフト事件」をきっかけに完全にユータを右腕のように従えさせ、より一層、家では出せない男勝りを誇っていた。この「誕生日ゲームソフト事件」と呼ばれる出来事は、あまりにも下らなく、そしてあまりに僕の性格が成熟しすぎて鬱陶しかったか、を物語っている。と同時に、ユータのあまりのバカっぽさと、あまりの「へっぽこ」さを浮き立たせた。

それは、小学校二年生になってすぐの4月、僕の誕生日パーティが行われた日のことだった。クラスで仲のいい友達が、10人ほども集まってくれただけでなく、誰かの親が気を利かせてくれて、なんとプレゼントとして、全員から合同で「ニンテンドー64」と云う、当時大流行していたゲーム機が用意されていたのだ。本当のところ、そのプレゼントの存在は僕には、内緒と云うことになっていたが、もれなくユータが一週間前に僕にうっかりその計画をバラしてしまっていた。その吉報は、僕の心をトキめかせ、それからの毎日は、当日をどうやって皆で楽しむか、を念入りに脳内シュミレーションするの日々となった。そんな折、ユータが僕に更なる吉報を入れた。
「今日、マリオパーティ買ってもらうんだ!」
マリオパーティは、発売されてまだ何日も経ってない、今最も注目度の高いゲームソフトだ。ユータの家は電池を作る大きな会社を代々営んでいて、その三代目となるユータは、ある種の御曹司だった。いつもいつも、家には新しいゲームソフトやゲーム機が置いてあった。勿論、「ニンテンドー64」だって僕なんかよりも一年も前から、家でケタケタ笑いながら、プレイしていた。電化製品全般においては、彼の右に出るものは学年中探したってどこにもいなかった。
僕は、心躍った。「マリオパーティ」は最大四人プレイ。名前からしてもパーティにふさわしい。
僕のパーティーは、大成功に間違いない。ユータにすぐさま、こう伝えた。
「じゃあ当日、それ持ってきてよ!皆でやろう!」
「オーケー。いいよー。」
僕は、その彼の返事の中に、微妙なリアクションが混ざってあることを決して見逃さなかった。

パーティ、当日。彼が、颯爽と玄関に現れた時、右手に持っていたソフトは「ポケモンスタジアム」だった。
このゲームは二人用。どう見たって、パーティ向きではないし、まず第一にマリオパーティではない。
「これ何?」
「あ!?え?何でだ?うわ、間違えた!」
と、とてつもない演技下手な芝居が始まった。友達もゾロゾロと集まってきているし、そんなのに付き合ってる時間もない。すぐさま、
「ユータ、俺は分かってるんだ。どうしてだい?理由を聞かせておくれ。」
とベテラン刑事ばりの口説き文句を放ったところで、戦いのゴングは鳴った。
彼は言った。
「新しいソフトを買ってもらうことをうっかり自慢したちゃったけど、買ってすぐのソフトをみんなに使わせたくなかった」
というのが供述の全てだった。これが「誕生日ゲームソフト事件」の全貌である。そして、長い長い青春時代における僕とユータの関係性を作り上げる大きな借りを僕に作ってしまったのだった。

とまぁ、そんな状況の中、忘れちゃいけないのが、異国の血を持つ美形の彼である。セイヤは、ユータがある日連れてきた。元々、セイヤは何ヶ月かだけ、ユータと同じ幼稚園に通っていたこともあるらしく、何となく二人は顔見知りだった。それで最近喋るようになり、小学校三年生の癖して、サーフィン体験の教室に一緒に行ったりして、仲良くなったらしい。サーフィンってだけで、何だかイラっと来てしまった僕ではあったが、ユータが意気揚々と紹介してくれたので話してみると、ちょっとずつではあるが、とても面白い奴だとわかった。よくよく考えてみれば、出席番号もセイヤが24、ユータが25、僕が26で、同じ並び。今度やってくる、初めての一泊遠足でも同じ部屋になった。

一泊遠足でわかったことは、彼は無口なのではなく、シャイであるということ。蓋を開けば、相当狂ったやつだった。夜、就寝時間を過ぎても、三人だけで眠らずに雑魚寝の隙間でおしゃべりをした時のことだ。彼は普段、6時間目が終わり、下校までの時間、一人だけ先生と居残りをして、その日の授業をおさらいしていたらしい。先生が気を利かせて、図書館の奥の方であまり他の生徒に見られないように配慮していたのにも関わらず、彼自身は、それを何故か凄くカッコいいこととして、捉えていた。僕とユータに向かって、
「いつも7時間目を俺だけがやってるんだよ。すごいっしょ!」
と、その時の様子を先生のモノマネを交えながら話した。僕らは、それが面白くてゲラゲラ笑っていた。それが、余計に彼を饒舌にしたのか、更に破天荒なエピソードが飛び出した。
「俺、実は半年前まで日本語が全く喋れなかったんだ。」
これには、ユータも開いた口が塞がらなかった。僕に至っては、
「じゃあ何故突然喋れるようになったんだ?」
とか
「どうやって受験合格したんだ?」
とか色々ツッコミたいところではあったが、その時タイミング悪く、先生が見回りに来てしまい、
「まだ起きてちゃダメだぞ!」
と怒鳴られてしまったので、先生の物音が完全に遠くなるまで急いで三人とも寝たふりに移った。

布団に入り目を瞑りながら、僕はふと考えた。入学してから今日まで、授業中、先生に指されても、セーヤが全然答えなかったり、あまり休み時間に喋っているところを見かけなかったのも、全部、単に日本語が喋れなかったんだ、ということに気づいた。そしたら、面白さが遅れてやってきて、とても愉快な気持ちになった。

隣で寝ているユータに、
「相当面白い奴だな。」
と僕は声をかけた。ユータの
「でしょ?」
という自慢げな声を聞いたか聞こえてないか、ぐらいで僕は眠りに落ちたのだった。


古舘佑太郎
ミュージシャン。ロックバンド・The SALOVERSを、2015年3月をもって無期限活動休止とする。現在、ソロ活動を開始。2015年10月21日アルバム「CHIC HACK」を発売。http://www.youthrecords-specialpage.com

illustlation  Tatsuhiro Ide

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