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若者に突如蔓延した「承知しました」の不気味さ

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「言葉」はいつの時代も変化していくものである。しかし、突如として多くの人が、指摘されるがままに素直にその言葉を使い始めたら──ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、考察した。

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 人間、誰しも過ちを指摘された場合、それが納得できるものであれば「ハハーッ、なるほどぉ……」と心を改めるものである。しかし、それを一斉に大勢がやりはじめたら──。今回の件は、多くの人からは「そんなことどうでもいいじゃん」と言われることではあるが、私は猛烈な違和感を覚えた。

 それは「承知しました」という言葉の蔓延である。ここ10年ほど、ビジネスメールにおいて「同意」を示す場合は「了解しました」という言葉がまかり通っていた。しかし、昨年頃から潮目が変わる。途端に「承知しました」が主流になってきた。

 この件についてはライターの菊池良氏が今年3月に〈「了解しました」より「承知しました」が適切とされる理由と、その普及過程について〉という記事をネットで執筆し、「承知しました」が2011年あたりから使われるようになったことや、なぜ「了解しました」が不適切なのかを様々な文献から紐解いた。簡単に言うと「尊敬の念が含まれていない」からなのだとか。つまり、目下の人間が目上の人間に使ってはいけないというのである。

 この記事はSNSなどで大いにシェアされ、多くの人が「目から鱗」などと感銘を受け、以後、私の仕事をするIT系・編集系の分野では一斉に「承知しました」が使われるようになってきた。

 こうした何らかの過ちを認め、杓子定規にその指摘に従うとどうなるか。私はこれを「毒蝮三太夫現象」と呼んでいるのだが、人間関係の機微が一切分からず原則論だけで文句を言う一億総クレーマー社会の完成である。毒蝮はラジオ番組で様々な場所に赴き、中継で高齢者のことを「ジジイ」「ババア」と呼び、「さっさとくたばれ」と言う。

 ここで言われた側は大喜びをするのだが、普段からそのラジオを聞いていない人からすると「ンまっ! この人はなんて口汚い方なのかしら! けしからん! 降板させなくては!」と局にクレームをつけてしまうのである。しかし、その場にいる高齢者と毒蝮の関係性、そして毎日聴いているリスナーからすれば、これは愛情の裏返しでしかないことはすぐに分かる。

 毒蝮はこのことを30年以上前にすでに指摘していたが、「承知しました」にも同じ問題が透けて見えるのだ。確かに「了解しました」はもしかしたら尊敬の念が含まれていないのかもしれないが、それは個々の関係性から使い分ければいい。

 この半年ほど、私が一緒に仕事をしているほぼ全員の若いライターはメールにおける文面を「了解しました」や「分かりました」や「はーい」から「承知しました」に切り替えた。この一斉に改宗させられる様が何も考えていないというか、素直すぎて気持ちが悪いのである。

 これまでの関係性において「了解しました」「分かりました」「はーい」はまったく問題視されていなかった。それは、コミュニケーションを取る者同士の阿吽の呼吸で使い分けていたのだが、ひとたび「不適切」とされた途端に切り替えるこの感覚、過度な礼儀重視な「させて頂く」話法と同様に不気味だ。

●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など

※週刊ポスト2016年8月12日号

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