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第10回 株式会社リヴァンプ/斎藤武一郎さん

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「梅雨どき、あなたも濡れる」。こんなキャッチコピーも話題になった清水崇監督の4DXホラー『雨女』。35分という時間の中に、4DXの面白さを凝縮して1500円。ちょっとアトラクションを楽しむような感覚で話題の4DXを体験できることもあり、普段はあまり映画館に行かないライトな層からヘビーな映画ファンまでを呼び込むスマッシュヒットとなった。映画を上映する場所から、エンターテイメントの総合拠点へ。変わりゆく映画館の仕掛け人でもある、株式会社リヴァンプの斎藤武一郎さんに話を聞いた。

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「毎月『ロードショー』を購読し、ジャッキー・チェンやスピルバーグにあこがれて、『E.T.』や『南極物語』を並んで観てた。中高時代はベトナム戦争モノの映画にハマり、予備校時代はタランティーノ。それからダニー・ボイルやアンドリュー・ニコルなどのミニシアター系を経て、社会人になってからはヒューマンドラマ。特にここ20年ぐらいは年間200本ぐらいの映画を見続けていますね。ずっと映画が好きなんです。その割には、なんでこの経歴なんだって感じですが」

 博報堂でCM制作などを経験した後、コンサルティング会社・アクセンチュアに入社。30歳の時にハリウッドでVFXスタジオを設立し、5年後に帰国。その後は現在も所属する株式会社リヴァンプで多くの企業再生を手がけている。常に「今の自分にできること」を追求し、様々なことに挑戦し続けている斎藤武一郎さん。

「映画が好き、エンタメが好きだと言いながらも、いろんなことをやってきた結果、結局、経営や経営コンサルが自分にはわりと向いていることがわかったんです。そして、様々な企業再生などに関わる中で、2012年に当時債務超過に陥っていたユナイテッド・シネマとリヴァンプが業務提携。COO(チーフ・オペレーティング・オフィサー)という経営や業務の中枢を担うような立場となり(※現在は既に退任)映画館の再生を図っていく中で、2014年に”映画館アトラクション計画”というプランのもとで4DXを初導入しました。ヘビーユーザーが支えている業種である映画館に、普段はあまり来館しないライトな人も呼びたい。そんな思惑がありました」

 その一環として動き始めたのが、映画館をお化け屋敷化するプロジェクト。斎藤さんが初めてのプロデューサー業を務め、Jホラーの牽引者である清水崇さんを監督に迎えて企画の立ち上げから1年がかりで制作したのが、今年6月に公開された『雨女』だ。

「映画館は、6月と11月が閑散期。夏休み前と冬休み前のタイミングですね。その閑散期に、低価格で観られる短いコンテンツで稼働率を上げて、採算を上げたいというのが映画館側の狙い。実際の企画については僕らに一任され、数あるアトラクションの中でもキャッチーで4DXとも相性のいい”お化け屋敷”をテーマに制作を進めることに。映画館でびしょ濡れになる。そして監督は清水さん、ということは、当初から決めていました」

40〜50代の映画ファンに響く映画にしたかった。

「ユナイテッド・シネマは、会員数がとても多いんです。というのも、僕が役員をしていた時代に会員を増やすような取り組みを積極的に行いまして、現在では会員数が100万人以上になっています。で、そのメインとなる層が、自分と同じ世代である40〜50代の男性なんです。今、ホラーというとアイドル主演の低予算映画がほとんど。確かにそういうものを作る方が簡単ではあるのですが、僕らが目指したのは、ユナイテッド・シネマの会員の多くを占める40〜50代男性たちの鑑賞に堪え得る、ドラマ性の高いホラーでした」

 上映時には、同日鑑賞の他作品の有料チケットの半券を提示すると、通常1500円のところ、1000円で『雨女』が観られるキャンペーンも行った。キャンペーンの利用客は全体の2割近くを占め、客単価のアップにつながったという。

「今後も4DXのコンテンツ制作には積極的に関わっていきたいと思っています。今、考えているのはゾンビものの青春映画。それから、VRなどの体験型のエンタメと連動するメディアミックスの進化形のようなものも4DXでやってみたいという思いがあります」

淘汰が進み、成熟していく映画館。

 映画が斜陽産業と言われて久しく、長く親しまれた映画館が閉館するなどのニュースも相次ぐ昨今。暗い話題ばかりのようにも思えるが、実は映画館経営は今、とても調子がいいのだという。

「特にこの1年はすごく良かった。映画館は儲かってきていると思います。ユナイテッド・シネマも、僕らが再生支援を行う前後で利益が10倍にもなりました。競合が乱立した時代から、業界再編によって淘汰が進み、個々の企業の業務改善により収益性が上がっているんです」

 また、かつては『ハリー・ポッター』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』など、いくつかの大作で売り上げの大半を占めていたが、最近では中規模作品でコツコツ稼ぐという傾向に変わってきてもいるのだそう

「世の中の映画の嗜好が変わって多様化してきていますからね。みんないろんなものを雑食で観るし、作る側もバラエティが広くなってきています。配給会社も一発ドンと賭けに出るよりも、しっかりとしたポートフォリオ設計をするようになっています。興収100億円規模の超大作こそ少ないですが、40〜50億円程度の大作や5〜10億円程度の中規模作がぽこぽこあって、結果的に安定していると思いますね」

 実は安定路線に入ってきている映画館。今後はどのような方向に向かっていくのだろうか。

「またすごく変わると思います。そもそも、さらに淘汰が進んでいくと思っていますから。そして、業者間の競争が終わったあと、これは僕の願望でもあるし、実際にそうなると思いますが、エンタメの新しい形が絶対に出てくると思います。技術はさらに進化し、設備などのハード面は安価に。その新しい技術とハードを使って、どんどん多様化していってほしいですね。勝ち組の人が新しい提案をする時代になると思います」

 では最後に、斎藤さんご自身の展望とは?

「自分が今、できることをやる。それだけを考えています。その中で特に今、やりたい領域は、4Dやヴァーチャルリアリティに関する新規事業です。エンターテイメントというくくりの中で、映画も絡ませながら、映画館や、映画業界の収益源を作れたらいいなと思っています」

(取材・文/根本美保子)

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