ガジェット通信

見たことのないものを見に行こう

次期デザインに冨嶽三十六景が採用! 江戸時代のパスポートとは?

DATE:
  • ガジェット通信を≫
次期デザインに冨嶽三十六景が採用!江戸時代のパスポートとは?

嬉しいニュースがあった。日本の次期パスポートの基本デザインに、葛飾北斎の「冨嶽三十六景」が採用されることに決まったというのだ。大好きな浮世絵のこと、江戸時代の旅のことなどについて、つらつら考えてみた。連載【江戸の知恵に学ぶ街と暮らし】

落語・歌舞伎好きの住宅ジャーナリストが、江戸時代の知恵を参考に、現代の街や暮らしについて考えようという連載です。

「冨嶽三十六景」は実は四十六景だった!?

「冨嶽三十六景」が描かれたとき、北斎は70代だった。北斎ではなく「為一(いいつ)」の号を用いていたので、冒頭の浮世絵「江戸日本橋」を詳しく見ると、「前北斎為一」と書かれているのがわかる。【画像1】冒頭の画像右上部分に「前北斎為一」と書かれている。葛飾北斎「冨嶽三十六景」・江戸日本橋から一部抜粋(画像提供/国立国会図書館ウェブサイト)

【画像1】冒頭の画像右上部分に「前北斎為一」と書かれている。葛飾北斎「冨嶽三十六景」・江戸日本橋から一部抜粋(画像提供/国立国会図書館ウェブサイト)

十返舎一九が執筆した「東海道中膝栗毛」(弥次喜多道中)のヒットにより、当時のお江戸は旅行ブームが起きていた。その風潮もあって、北斎の「冨嶽三十六景」や歌川広重の「東海道五十三次」は大人気となり、新たに名所絵(風景画)という浮世絵の分野が生まれたとされている。

当初はその名の通り36図が出版されたが、好評であったために後で10図が追加されたので、「冨嶽三十六景」は46図、実は四十六の富士山が描かれていた。北斎の描く富士山は、大胆な構図と四季や地域による変化などさまざまな趣向が凝らされ、海外を含めて今でも広く愛されている。

江戸時代の旅には、パスポートならぬ「手形」が必要だった

江戸で人気の旅先であった富士山や伊勢などに出かけるには、江戸の日本橋が起点となった。冒頭の浮世絵「江戸日本橋」では、手前下部に人通りとわずかに欄干が見えるだけで、橋の全景は描かれていない。奥には江戸っ子が大好きだった「江戸城」と「富士山」が描かれているのが特徴だ。

さて、江戸時代に長い距離の旅に出るには、パスポートと同様に身分証明書となる通行手形が必要だった。通行手形は、「往来(おうらい)手形」と「関所手形」があり、往来手形は大家や名主(町や村の役人)、自分が所属する寺社から発行され、関所手形は町奉行から御留守居役の手続きを経て発行された。「入り鉄砲に出女」を厳しく取り締まった江戸時代には、特に女性が関所を通るときに関所手形を厳しく吟味されたという。

通行手形には、旅する者の氏素性、旅をする目的や行先、身元保証をする旨のほか、宗派は何で旅行中に死んだらどうしてほしいといったことも記載されていたようだ。「箱根関所」のサイトによれば、「関所手形には、女性の髪形や顔・手足の特徴などが細かく記載され、この記載内容と一致しなければ関所は通れなかった」とある。

富士山の麓の沼津で起こる悲劇。歌舞伎「沼津」とは?

富嶽、つまり富士山の麓に位置する沼津が舞台となる歌舞伎がある。

全10段で構成される「伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」という長い話の6段目に当たるのが通称「沼津」だ。画像2の歌川(朝桜楼)国芳の浮世絵には、まさに歌舞伎「沼津」の主人公が描かれている。【画像2】「東海道五十三對(対) 沼津」朝桜楼国芳(画像提供/国立国会図書館ウェブサイト)

【画像2】「東海道五十三對(対) 沼津」朝桜楼国芳(画像提供/国立国会図書館ウェブサイト)

実際にあった荒木又右衛門の敵討ちを題材にした歌舞伎で、6段目の沼津は、その敵討ちに巻き込まれたある家族の悲しい話となっている。

東海道を下っている呉服屋十兵衛(浮世絵左の人物で旅姿をしている)は、沼津で雲助(荷担ぎ)の老人平作(浮世絵中央)に声をかけられる。駄賃がほしいので荷物を持たせてほしいと頼まれ、不憫に思って荷を持たせるが、老人のことなのでつまずいて怪我をしてしまう。

十兵衛が所持していた印籠(いんろう)の中の薬を平作に塗ってやると、すぐに痛みが消えた。途中で平作の娘お米(よね・浮世絵右)に会うと、その美貌に惹かれた十兵衛は誘われるまま平作の家に寄り、そのまま泊まることになる。

その夜のこと、何者かが十兵衛の印籠を盗もうとする。犯人はお米。実はお米は、敵討ちを狙う和田志津馬(しずま)の妻だった。敵に傷を負わされた志津馬は、その傷がもとで動けない。十兵衛の薬で夫の傷を治したいと盗もうとしたのだ。

十兵衛はお金と印籠を残して立ち去るが、印籠から十兵衛が志津馬の敵にゆかりのある者だと分かる。さらに、自分の身分を表す書き付けから、実は十兵衛は小さいころ養子に出された平作の息子、お米の兄だということも分かった。平作は、敵の行方を知ろうと十兵衛を追いかけ、千本松原で追いつく。

恩義があるので敵の行方は言えないという十兵衛に、平作は刀を腹に差して、死にゆく者になら言えるだろうと迫る。恩義より家族への情が勝って、ついに十兵衛は敵の行方を教えることになる。

さて、次期パスポートのデザインだが、表紙は今のままで、見開きごとに「冨嶽三十六景」の浮世絵(24作品)が透かしになるようだ。2019年度中の導入を目指しているということなので、筆者のパスポートの更新に間に合ってくれるといいなぁと思うばかりだ。●参考

外務省「次期パスポートの基本デザイン決定」報道資料

●参考資料:

・「ボストン美術館浮世絵名品展 北斎」図録/日本経済新聞社

・「大江戸の賑わい 北斎・広重・国貞・国芳らの世界」中右コレクション/神戸新聞社

・「一日江戸人」杉浦日向子著/新潮文庫

・「大江戸暮らし」大江戸探検隊編著/PHP研究所

・「歌舞伎ハンドブック改訂版」藤田洋編/三省堂

・「歌舞伎演目案内WEB」
元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2016/07/115051_main.jpg
住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル

関連記事リンク(外部サイト)

今こそ活用したい、江戸の夏の風物詩「蚊帳(かや)」
エアコンがない江戸時代、暑い夏をどのようにしのいでいた?
歌舞伎や落語に出てくる「井戸替え」は江戸の夏の風物詩

カテゴリー : 生活・趣味 タグ :
SUUMOジャーナルの記事一覧をみる ▶
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。